六 もっと早くできると思っていた時期がありました
「うん、これでいい。待たせた」
本当に待ったよ。言わんけど。
結局朝呼ばれて、今はもうぼちぼち夕飯の支度でもしようかという時間だよ。
あのあとヨーコさん魔法陣に夢中になってしまってワシは空気だった。
夢中で作業するヨーコさんだが腹時計だけは正確だ。昼時になれば鳴っている。
昔は作業に夢中となれば空腹など気にせず作業してたらしいのだが、今はワシが三食用意している事もあって体が覚えてしまったそうだ。
しょうがないので昼飯つくった。
ちなみに献立は握り飯と沢庵、梅干しである。作ったと言うのには簡単すぎるものだ。
ヨーコさんは一番気に入ったのは油あげのようだが、作業中でも手軽に食べられるサンドイッチとかおにぎりとかを好んでたべるのだ。本当、パンも米もある世界でよかったよ。まぁちょっと味とか質とか落ちてアレンジとかも普及してないけどね。きっと米とか好んで食べる人はそういないだろう。なにせ炊くという行為が普及してないからな。
昼飯のあとはやることもないので本を読んでいた。
今日読んだ本に書かれていたのは陰陽師とか式神とかに似ている・・日本のいにしえの技術らしいものもあるんだなぁ・・。
超吸収のおかげで理解が早いので本を読むのもたのしいなぁ。
そんな感じでほぼ一日がすぎていき今に至るわけだ。
結局料理作って、本を読むいつも通りの一日である。なんかワシこそが隠居みたいだ。
「これで多少以上にめずらしいのが来るはずだけど。ファーストコンタクトは派手にいきたいしね」
ヨーコさんはそんなことをいいながら、魔法陣を確認している。
あの~、ワシはたしかに魔物には会いたいとは言ったが、そんなサプライズまでいるとはいっておらん。
どんだけ息子にいいところを見せたいのか・・。
「ただなにが来るかは分からん。完全ランダム。念の為アタシの後ろに」
促されてヨーコさんの後ろに行くワシ。
・・・なんかさらにサプライズなことを言われたような気もするが。
ワシが後ろに来た事を確認したヨーコさんは詠唱を始める。魔法陣が光りはじめる。
詠唱がおわる。魔法陣は光り続いている。
ワシもヨーコさんも魔法陣を見ている。魔法陣は光り続いている。
魔法陣は光り続いている。
ワシとヨーコさんは顔を見合わせた。魔法陣は光り続いている。
魔法陣は光り続いている。
魔法陣は光り続いている。
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・・いやっ!?いつまで光っているんだ、この魔法陣は・・
召喚術というのはここまで光り続いて時間がかかるものなのか・・・
いやヨーコさんまで呆気にとられているところを見ると今回がイレギュラーなのか?
「おかしい。長すぎる。いくらランダムでもこんなことは・・・」
なにかヨーコさんがブツブツ言っているが、やはり今回がおかしいのか。
「・・召喚が長ければ長いほど珍しいのが来るけど、こんだけ長いのは見たことも聞いたこともないわ。・・ということは」
さすがのポーカーフェイスヨーコさんも平常心でいられないのか?
「・・本格的にヤバいやつか、下手すれば神魔クラスのが来るのかしら?」
・・・ヨーコさんは自分が何を言っているのか分かっているんだろうか。すごくウキウキしている。
たしかに平常心ではいられていないようなんだが、ワシが思っていたのと違う。そっちかいってなる。
そんなやりとりもしながらたっぷり三分後―――
ようやく光が消え、魔法陣の上に佇んていたのは――――
一匹のキツネだった。