五四 どちらの夫婦が上か決めようぢゃないか
それなりの大物を倒したからそろそろ魔法陣がでるかなと思っていたんだけど、残念ながら出てなかった。
きりがいいし今日はここまでにしようかとも思ったんだけど、いくらこの廊下で扉開けたとこにしか魔物がいなかったとはいえ、ここから先も同じようであるとは限らない。
魔法陣が出る、すなわち全ての魔物を一掃してフィールドボスを倒すまでは安心はできないのだ。
休息をとったのち再び廊下を歩きだす。
行けども行けども変わらない風景に流石に飽きてきたがしょうがない。
やっと次のドアにたどり着いた。
かれこれ三十分位は歩いただろうか。
今度のドアは今までのとは一味違っていた。
扉って感じだ。いかにもボスがいますって感じだ。
某お髭の配管工がカメの大魔王との決戦の為に入るような重厚な作りの扉である。
扉を押すと、ギギギと重そうに音を立ててゆっくりと開いて行く。
扉の向こうは広場だった。
遠くの方には階段がありその踊り場には玉座らしきもの、それに座っているのはおそらく牛の親方だろう。
だが目下の問題はそいつではなく、目の前に広がる広場を埋め尽くす量の牛の軍団である。床が見えないレベルである。
「・・これは・・ミノタウロスをはじめいろんなのがおるのう。大きなものから小さなものまで・・・よくぞこれだけ従えたものぢゃ」
流石のタマキも感嘆の声を漏らす。
そりゃそうだ。こんないろんな牛のオールスター(しかも全部魔物)一生に一度みるかどうかだろう。
「ぢゃ、とりあえず焼こうかの。お客さん、どう焼きます?」
「・・・・せっかくだから、よく焼いてくれ・・・」
元よりワシに戦わせるという選択肢を持っていないタマキが当たり前のように聞いてくる。
しかも今回は小芝居までいれるという余裕っぷりである。
ねえ、一体そのネタどこで拾ったの!?この世界にもあるの、そういうやりとり!?
というか感嘆の声を漏らすぐらいには感心したんだろ?もうちょっとなんかなかったのかよ!?とりあえず、焼くってどこの放火魔だ!!?
そんなつっこみを入れる隙など与えてもらえず、焼き具合をワシが指定したのと同時に、ヨーコさんに初めて魔法を見せてもらった時に対抗したタマキが使った以上の夕焼けをもって燃やし始める。
さすが、牛という感じだ。見た目通り頑丈なのが多いのかちゃんと断末魔をあげて消えていく。
これが魔物じゃなくて、普通の野牛だったら、流石にタマキに威力を凄く抑えてもらっておいしくいただいたのに・・・。
というかあきらかにあの時よりも赤の濃度が高い気がする。
もうなんというか夕焼けというよりはマグマを近くで見ている感じなんだけど。
視界から赤が消えたころには、玉座もなにも無くなっていた。
あれだけいた牛全て姿かたち残さず。残したのはいつもどおりのドロップ品の数々。
あ、座っていたのも燃やしちゃてるね、これ・・・あきらかに他とは威圧感のちがう武器が転がってるよ。
はぁ、しょうがない・・・・集めて回るか・・・もったいないし。
流石というべきかなんなのか、やはり肉と牛乳のドロップが多い。
なにげに有難かったりするぞこれ。なんせ島じゃ牛の個体数が少なすぎて絶滅しないようにしながらの狩りだったからな。そんなに牛肉食べて無いのよ。
牛乳にいたってはタイガさんからの補給品にも潤沢にはなかったので、こっちにきてから飲んでいない。久々だなぁ。
タマキが風魔法を上手に扱ってアイテムやら武器やらをうまく玉座のあった方へ集めていく。それに漏れたのを拾いながら玉座の所に歩みを進めていく。
玉座の所にもう少しという所で、風が吹いた。
タマキの魔法ではない。今まで使っていたタマキが押されるレベルの風が正面から吹いている。
咄嗟に近くにいたタマキを抱え足に力を込めるが、ちょっと力を込めるのが遅かったか少し後ずさってしまった。
再び力を込めるとしっかり安定した。三陣四陣と強風が来るが耐えられる。
玉座の所に目をやると鬼の形相で団扇を仰いでいる女性が・・・あ。
そういえばいたな、火の山をあおいで消すという団扇をつかう魔王の妻が。
すると、あの形相は「よくも旦那を」ということか・・・。
風はだんだん強さを増す。もはや強風ではなく暴風である
「・・どうするかのう。ウチの魔法で対抗してもよいが、この風の威力ぢゃと万が一が有りそうぢゃ。押し返されたら大変ぢゃ・・」
流石のタマキも予想外だったみたいだ。
あれだけ攻撃に文句を思い浮かべていたけど、最初の炎で燃えてなかったのは痛かったなぁ。
元々先手必勝の一撃で倒していたとはいえ強者ばかりなわけだし、いざ対戦になるとこうなるか。
・・・というかここまでタマキに任せっぱなしなんだし、こういう時こそワシの出番なんじゃないかな?
そう思ったワシはタマキをおろし、後ろに掴まってもらう。なに、タマキだってそれなりの一般人には考えられない攻撃力を持っている。しっかり掴まってさえいれば飛ばされないだろう。
拳に力を込め、風に向かって殴る。
もちろん手ごたえなんかない。だけど、ワシの人をやめた攻撃力は風を押し返し、その風は勢いそのままに団扇の主へと戻っていく。
団扇の主が飛ばされ、玉座の向こうの壁に激突する。ピシャっとトマトを壁にぶつけた様な音がして消えてしまった。団扇とフィギュアを落して。
激突した壁に魔法陣が浮かぶ。魔法陣って壁でも大丈夫なんだ・・・。
魔王ではなくその妻の方がボスとは・・男女比から女性上位の世界じゃないかとは思っていたけど魔物の世界でもそうなのかね・・・。もうワシの知っている西遊記は人物以外どこにもないな。最初からそうだけど・・。
その様子をワシに掴まりながら見ていたタマキがポカーンとして見ていた。
「・・・あんな暴風を拳で返すとは・・やはりモリーはモリーぢゃな。そして流石はウチの旦那じゃ。この勝利は旦那の差なのぢゃ!」
旦那の差というのはよくわからなかったけど、またもやタマキからの高感度が上がったらしかった。
アイテムを回収し終えて魔法陣に近づくともうひとつドアがあった。
魔法陣がでているのだからもう魔物はいないはずだが、と首をかしげながら開けてみるとそこは寝室だった。
大きなベッドにはなぜかイエス/ノー枕らしきものがある。こっちの世界にもあったんかい!?
どうやらここは先ほど倒した夫婦の寝室らしい・・・ああ!?この枕両方イエス?!・・仲がよろしいことで・・・。
せっかくなので、ここを一泊借りていくことにした。部屋の主は倒してしまったからね。
タマキから聞いたダンジョンの説明では一旦倒した者がダンジョンの外に出るとリセットされて全ての魔物は復活するらしいから、借りると言う表現は正しい。復活したらこれからもいい夫婦でいて下さい。部屋は荒らさずにそのままにしておきますから。
洋服ダンスからなにから部屋を物色したタマキがなにかを覚えるように反芻して、「今は材料がないからムリぢゃが、期待しておけ」という謎の言葉を残していた。
長い廊下を踏破してお疲れのワシらは、その夜はなにもせずダンジョンの中とは思えないふかふかのベッドで眠るのだった。
◆本日のフィギュア収穫◇
アウドゥムラ
グアンナ
クジャルタ
ハトホル
クダン
ミノタウロス
ホルスタウロス
ゴズ
ギョクリュウ
コウガイジ
キンカク
ギンカク
ギュウマオウ
ラセツニョ




