五三 天竺への廊下
村、川ときて次にどんな風景だろうと期待しつつ魔法陣をくぐったわけだけど、目の前に広がるは長い廊下だ。
石造りの屋敷だろうか、しっかりとした造りでそれなりに威圧感を感じるのだが、今までがいい風景だったので気分はちょっと落ち気味だ。
遥か前方に壁みたいなのが見える。後方を振り返ってみても永遠に続いているんじゃないかと思わせるぐらい何もない廊下景色が地平線まで続くのみ。
とりあえず壁の方に歩くことにした。
その道中、ワシはこのダンジョンについての心当たりをタマキに話した。
にわかにはしんじられないことなんだけど、猪八戒、沙悟浄とくればもうほぼ確定だろう。
記憶をたどりたどり西遊記の話をしつつ歩いていったのだが、タマキはその話を興味深そうに楽しんでくれた。
「そういう話はほとんどこの世界にはないからの。さいゆうき、と言ったか、面白い冒険譚ぢゃな」
そりゃないだろうな。
だって必要ないだろ?
いまこうしてダンジョンに挑んでいる事のほうがよっぽど面白い冒険譚だよ。
雑談をしながらゆるりゆるり歩いてようやく辿り着いた壁にはドアがついていた。
正門とか扉とかいった仰々しいのではなく、ほんとに自分の部屋に入るのにくぐるようなドアだ。
怪しさ全開なのだが、戻る気にもならないししょうがない。
ドアを開けると、そこには白馬と子供がいた。
子供が泣いている?
なんとなく気になった子供の方に寄るワシ。
一歩二歩近づいた時その子供の口元は確かに二ヤッとした・・が、そのまま馬もろとも氷漬けになっていた。
砕ける氷。
砕けた後に水滴一つ残らず残っていたのは、ドロップ品とフィギュア。
いや、いつものことだけど躊躇というかそういうのはないのかね?
ドロップ品があるということは魔物だったということだからいいけど、本物の人だったらどうするのだろうか?
馬だって人のものだったら、多分怒られるぐらいじゃ済まないだろう。
今現在フィギュア化しているから魔物だったんだろうけど。
白髪のポニーテールで下半身が龍みたいになってところを見ると三蔵法師が乗っていたあの馬だろう。
変身もできずに倒されたのには同情を禁じ得ない。
ワシはおもわずタマキのほうを振り返る。
そこにはヤレヤレといった風のジェスチャーをとる嫁の姿が。
「・・・お主、今の今までウチにさいゆうきの話をしていてよくそんな行動を取れるなぁ。どう考えても罠ぢゃろ?外ならばまだしも、ここはダンジョンぢゃから、そもそもウチら以外の者って魔物ぢゃろうに・・」
あ、そうだった。
ここにはワシとタマキ以外に人はいない。
いるのは魔物のみだった。
タマキが昨日から人影を見れば魔法を放っているのはそういうところも加味してのことだったのか。
ワシはまだダンジョンを分かってなかったのかも知れないな・・。
しかし泣いてる子供を見て無意識に体が動いたな。
なるほど、三蔵法師がだまされた理由も分かるというものだ。
「でも、まあ、そういう風に正義感の強いモリーは嫌いではないがのぅ・・」
罠にはまりそうになったり、戦っていなかったりとはたから見ればあしでまといだろうワシへ、タマキの好感度だけが上がる戦いになった。
さらに奥へと進んでいくとまたしてもドアが。
今度はなんだと、開けるとそこには鬼のような角を持つ金と銀の髪の魔物。
角あるし顔なんて鬼そのものでおっかない。
おなじ金銀でも双子姉妹のおばあちゃんとは大違いだ。
さらにご丁寧に、すでに瓢箪も瓶も蓋が開いてる。
吸い込む気まんまんだな。
「「我が名はキン(ギン)カク。お主ら誰じゃ?名を名乗れ!!」」
おおっ!?初めて魔物が口きいているのをみたな。タマキは例外として。
初見ならば思わず名乗っていたかも知れんが、残念ながらワシらはこのからくりを知っている。
名乗ることも無くタマキが静かに焼いていく。
豚の村で使ったのより高温の火でやっているのか、それとも流石は名のある魔物というべきかうめき声一つでていない。
豚のときは一瞬で燃やしつくしたとはいえ、範囲外だった奴らが範囲内におさまるまでにあんまり耳によろしくないうめき声が聞こえたんだけどね。
残ったものは消し墨とアイテムとフィギュア。
その消し墨ももはや原形をとどめておく必要を感じとれなかったのか、サラサラと分散して地面を染める。
もしタマキが無詠唱ではなく、人と同じように詠唱をする魔法だったならばあるいは魔法が吸い込まれていたかもしれないけど、それについては運が悪かったと言ってやるしかない。
三蔵一行の物語にでてきたやつらはどいつもこいつも一癖も二癖もある感じだったと記憶している。
それらを道中で倒すことこそが、かせられた修行内容と言っていいほどである。
残念ながらこのダンジョンではその道中は無く、実力そのままの魔物としてポイントポイントで配置されているわけだけど。
あの子供やこの金や銀はそれなりに強い、ゲームでいえば中ボスクラスかそれ以上だろう。
だからこそ障害になり得たんだ。修行になったんだ。
しかしタマキの前にしては、ただ風の前の塵と同じだったな。
癖を出す事も、実力を見せることも一切できず、初手の魔法で終了である。
まさか魔法一発でやられるとはダンジョンを創った人も思わなかっただろうな。
ところで金角や銀角の親は諸説あるが九尾の狐といわれている場合がある。
となると、タマキにとっては同族を倒した事になるわけで・・・。
それとなく、タマキに聞いてみたんだけど、
「う~む、そんなに気にならんな。親兄弟ぐらい身近ならばなんか思うのかも知れんが、ウチは一人っ子ぢゃし、親ももうおらんしのう。それにほれ、人だって人同士で戦争したりするぢゃろ?それと同じような感じぢゃ」
結構ドライな答えが返ってきたが、確かに人と同じかと納得せずにはいられなかった。




