四三 森を抜けたら顔なじみ
森を出たのは夕方あたり、ぼちぼち陽が傾きかけようかという時刻だった。
タマキが戦闘、ワシが回収という図式が残念ながら出来上がってしまったので思いの外早く森を抜ける事が出来たのだ。
抜けた先にはイメージで草原が広がっているなんて勝手に思っていたんだが、見事にその予想は外れ、木の柵で囲まれている建物が二軒あるだけの広場があった。
案内板も門番もいないが・・・おそらくここがヨーコさんの言っていた小さな村だろう。
村と言うよりは僻地の駐屯地って感じだが・・もしくは人がいないのになぜかある島の駐在。
ここに人なんているのだろうか?
そんな不安を胸に建物に近づく。
一軒は・・・これは民家だろうか?
看板もなにもない飾り気のない普通の家だな。
もっともワシらが暮らしていた小屋の外観よりは多少マシで家なんだけど、人が住むには質素過ぎないかな?
もう一軒は・・おお、公民館みたいにドアの横にギルドって書かれた看板が張ってある。
でも、こっちもなかなかに質素だな・・・辺境の村ということだしこんなものなんだろうか。
とりあえず建物を観察していても始まらないので、ギルドの方に入ってみようと近づいてみたところ、中から人が出てきた。
・・・・ん?どこかでみたような?・・・あ、ヨーコさんとこに出入りしていた行商人だ。
何度か話したことはある。
ターバンみたいなの巻いて、男みたいな恰好しているけどれっきとした女性である。
またその格好が似合っていてまさに男装の麗人といったところだ。
虎人族で名前をタイガさんという。ヨーコさんの幼なじみだそうだ。
「おや?誰かと思ったらヨーコのところの・・・」
「はい、モリーです。お久しぶりです。タイガさんもお元気そうで・・」
「おや。私の名前を覚えていてくれたのかい?これは嬉しい。最後に会った時ってたしかまだ四、五歳ぐらいじゃなかったかい?」
それからもちょくちょく来てたらしいんだが、五歳の誕生日から先は外での活動を主にしてたのでタイミングが合わず会う事が無かった。
「まあ、そうですね、他に人との交流ありませんでしたし交流した人ぐらいは覚えますよ。ところでタイガさんはなんでここに?たしか大きい町で店やってるんですよね?」
「いやいや、ヨーコから手紙が来てね。『もう来なくていい。いままでありがとう』なんて書かれていたから何かあったのかとか何か粗相したっけとか思ってここまで来たのだけれども手間が省けた。どういうこと?それからヨーコは何してる?」
ワシは軽く説明した。
とはいえ玉のことを話すわけにも中にヨーコさんが住んでるとも流石に言えないので、軽くぼかしながらではあるのだが。
十歳になったワシが嫁を娶って旅に出るのでヨーコさんも旅立った、だからもうあの家に物資は必要ない、と説明自体には嘘は無い。
「・・・そっか、ヨーコはまた旅立ったんだね。相変わらず自由人だな、うらやましい」
タイガさんが遠い目をしながら言う。
「というかモリー、君結婚したの?いくつよ?」
「つい先日十歳になりました。あ、この子がワシの嫁です」
隣にいるタマキを紹介する。
「よろしくなのぢゃ」
「・・・ヨーコが旅立ちたくなる気も分かるわ。息子に先をこされたのね・・っていうか大丈夫なの?犯罪じゃない?」
「・・たしかに見た目はちょっと幼く見えるかもしれないですけど、れっきとして成人してますしこうみえてワシよりいっこ上ですよ」
「幼な妻で姉さん女房なのぢゃ」
「・・あんな無人島でどうやって探したの?」
「それは、まあ、事故みたいなもんかな・・深くは聞かないでほしい」
「事故ではない。今となっては運命ぢゃ!」
「・・・いいわね。私にも早くいい人があらわれないかなぁ・・」
どうもタイガさんも独り身だったらしい。
「母さんもだけど、タイガさんだってすごく綺麗なのに・・・」
「うれしいこと言ってくれるね。ま、男が少なすぎるのが問題なのよね」
・・・え?
「・・・男が少ない?」
「おや、知らなかったのかい?ああ、そうかはじめて外に出てきたんだったね。そうだよ、この世界の男女比は一対五千と言われているよ。だから一夫多妻制度なんて言うのがあるの。ま、ほとんどの場合夫は種付けのための共有財産ってことになってしまうんだけどね」
「そうぢゃったの。すっかり忘れておったわ」
ハーレムを作りたければ作れるが、その実態は尻に敷かれてペッタンコということか。
もはや、それは夫ではない。道具の一種だな。
ワシの知っているハーレムとはえらく違うものだ。
「共有財産になったとしても第一夫人は別格さ。なにせ男が一番最初に愛したからこその一番だ。なんだかんだ言っても『男女の関係』って感じになって『道具と女』って感じにはならないらしい。色々いいことも多い。ギルドでも私の店でも夫婦割引ってのが有るんだけど第一夫人にしか適用されない。第二以降も家族割引にはなるんだけどこれは第一夫人にも適応されるからな。なぜなら二番目以降はなにかしらの裏があってのことが多くてね。世間体的に結婚したくて取りあえずとか、跡取り欲しいのでとかね。まさに第一夫人は勝ち組さ。本当の愛だからね。私ももういい年だし本当の愛を探すにはもう難しいかもね」
「ぢゃあ、ウチは勝ち組ぢゃな。一目ぼれして良かったのぢゃ」
自嘲気味なタイガさんとホクホク顔のタマキ。
まさしく対照的な二人だな。
その後も立ち話に花を咲かせたかったのだが、タイガさんの帰る時間とかの都合もありお開きになった。
もう夕暮れ。こんな時間から帰るのかと心配したところ、
「心配してくれてありがたいけど、ここじゃあ泊る場所ないからね。野宿するのと変わらないんだから少しでも家に近づきたいのさ。私はダンジョンとか興味ないし、突っ切っていけば数日で家にたどり着く。それに私には獣化の技もあるし」
見た目よりは強いのだよ、との返事が返ってきた。
獣化とは先祖がえりの一種の技でご先祖種に変身する技だそうだ。
となるとタイガさんは虎になるってことか・・強そうだ。
「じゃ、またね」
元気に走っていくタイガさん。
馬とかに乗っての移動じゃないんだね。
タイガさんが見えなくなるまで見送るとタマキに少し聞いてみる。
「なぁタマキ。もしもワシが第二、第三と娶ったらどうする?」
「どうもこうも・・。それがこの世界ぢゃしな。当然の流れぢゃろ。むしろ娶らなければ異端視されかねんのぢゃ。ただその人物はちゃんとウチも吟味する、ウチの眼鏡にかなわない時は反対するかもしれん」
そういう考えもあるのか。いやむしろその考えが正しいのか。
でも、もうちょっと嫉妬するとかして欲しいかも・・とか思っていると続けてちょっと小さな声でタマキがポツリ。
「・・・でも、まだまだ先のことぢゃろ?今はただ二人きりの夫婦生活をたのしみたいのぢゃ」
タマキの本音に思わず嬉しくなったワシは足取り軽くギルドのドアを開けるのだった。




