三九 趣味を楽しむには嫁の理解
「・・ちょっとやりすぎぢゃあないかの?」
呆れたようにタマキがこぼす。
そりゃそうだ。半分埋まって煙を出し動かなければ一言も発しない目の前のオブジェを見ればやり過ぎだと思われてもしょうがない。
「い、いやそうは言っても・・全力で来いといったのはあっちだし。だ、だいたいワシ全力で打ってないよ?ゲンコツに魔力も込めていないし・・・」
「・・お主は本当にはかりしれんなあ・・人を地面にめり込ませてオブジェに変えておきながらまだ余力ありますなんて、もはや化け物ぢゃぞ。間違っても人前で言ってはならんのぢゃ。タマキさんとの約束なのぢゃ」
弁明したのに嫁から人という種族の剥奪と化け物認定を喰らう。
いくら体が化け物でも、心は人のままだからね。傷付いちゃうよ・・。
そのままにしておくわけにもいかず、とりあえず引っこ抜いて屋敷の中の客間だったらしい部屋のベッドに寝かせる。
ロボっぽいし重いのかと思ったんだけど、酔ったヨーコさんを運んだ時よりはマシな気がする。
徐々に煙は引いているが、一向に起きる気配はない。
「・・で、どうするのぢゃ」
「どうするもなにも・・なにもできんだろう・・目を覚ますまでは待機だな・・」
もはや玉から出て探索する気分にもなれない。
目の前のが魔物に見えず人型っていうのもあって見捨てるという選択肢はワシにない。
「確か『私を壊したらドロップ品がある』みたいなことを言っておらんかったかの。そっちを見ておかんか?」
「あ、ああ。取りあえず持ってきてはいるけど・・」
起きないメイドに心配はすれどさほど興味はないのか、タマキはドロップ品の事に意識を持って行ったようだ。
ま、まあ考えてみれば人型とはいえ魔物を一体倒したぐらいのことなんだろうな。
タマキにとってはそんなに珍しいことではないのか・・・ん?
ということは、このメイドがワシの倒した記念すべき一体目の魔物となるわけで・・・。
もっと言えばこれが魔物との初戦闘・・・になるのか。
タマキとのは夜の戦闘とはいえ、意味合いが全然違うし。
そうなると・・・しまった・・!レベルアップの時と同じくまたその感動を味わうことが出来なかった!!
「まず、これは人形だな・・」
「これは、ウチの時といっしょのやつかの?」
「そうだと思うよ」
「最近のドロップ品は変わったものぢゃの。面白い物を落すようになったのぢゃ。もっと広まれば良いのにの」
「・・多分無理だと思うよ。ワシ以外に闘った相手が人形を落すなんての聞いたことある?」
なんか自分が人ではない特別な何かと言っているようで嫌なんだけど。
だがこの逆質問でワシの真意は伝わったらしい。
「・・・スマン。失言ぢゃった。しかし今回のも精巧ぢゃのぅ。いっそこの屋敷に専用の部屋でも作って並べて置いたらどうぢゃ?」
ふむ、良い考えだ。
たしかにこんな精巧なフィギュア、道具箱に入れたままってのはもったいない。
誰が見るってわけでもないけど並べていったら壮観かもしれない。
幸い部屋は沢山あるわけだしね。
玉自体ワシら以外が入ることもあんまりないだろうしセキュリティもバッチリだ。
しかし嫁の方からこういう話が出るのはうれしいな。
だいたい夫のコレクション趣味って嫁から嫌われる場合が多いらしいし・・。
「それと・・・腕輪だな」
「こっちが本来のドロップ品ぢゃな。本人さえ見たことなく、だいたいのこともらしいで知らなかった品ぢゃ。おぬしの眼で見た方がええのう」
たしかに分からない物をそのままにしておくのももったいないな。
そのままだと怖くて使えないし、呪いのなにがしみたいに取れなくなってもいけないからな。
せっかく鑑定できる眼を持っているんだし使わない手は無い。
[共有の腕輪]・・・経験を共有する腕輪。着脱可能。例えば一人で敵を倒しても腕輪をつけている皆で倒した事になり腕輪を付けている皆に同じ経験値が入る。共有したいと思う人を強く念じることで腕輪は分裂する。
そっか、ここはRPGの世界のようでRPGではないのだったな。
魔物を倒した者にはそれ相応の経験値が入るけど、見てた者や止めを刺せなかった者には経験はできても値は入らない。
まさに実力でのしあがる世界なんだ。
だとすれば、この腕輪はなかなかにチートだぞ・・・装着して相方にまかせていれば勝手に経験値が上がるってことじゃないか。
ま、外見だけ見つくろっても中身がともなわないとダメだろうし、数値だけ上げて胡坐をかいていたらいつかは足元をすくわれるんだろうけども。
そもそもそんな胡坐をかくだけとか、ワシにはできんし、嫁に戦闘全部任せるとかどんな夫なのか。ヒモか?
腕輪の説明をタマキにもおろして、使ってみようとまず自分の腕にはめ、それからタマキを思いながら強く念じる。
腕輪は光りながら二つに分裂した。
分裂した片方をタマキにはめてやる。
「ペアルックぢゃな♪」
どこで覚えたのかそれともこの世界にも同じ言葉があるのか、うれしそうに腕輪を撫でながらタマキが言う。
こんなことで極上の笑顔を見せてくれる・・・相変わらずうちの嫁はかわいいぜ。




