三八 試練にゲンコツ
打ち込んで下さいと叫んだメイドにワシはまず疑問を投げかけた。
言葉が通じるようだし、そのあたりは便利。もちろん返答があるかどうかは別の話なんだが。
「え?なんで?なんでいきなり・・・どうしてそうなった?」
「我が主と認める為に必要なことです。主と認めなければこの屋敷の所有権は渡せません」
どういうことだ?
初めて来たときも引っ越しの時も出てこなかったのになんで今さら?
「ちなみに今の所有者は?」
「今はいません。前所有者はもう亡くなられています。」
「ちなみに、認められんとどうなるのぢゃ?」
「一時の宴ならば許しますが、住むとなれば強制排除させて頂きます。それはどなたも同じです。私が具現化しなくても三日もすれば強制的にその人が持ち込んだものもろとも玉のそとに吐き出します」
やばい、その話が本当ならもうじき三日ぐらいの時間は経過するだろう。
そうなったら・・・ワシらの荷物はともかくヨーコさんのあの多大な時間を使って整理した荷物が排除されてしまう。
というかこれだけワイワイ大声でやりあってるのに、聞こえてないのか気にしてないのかヨーコさん、顔を出す事もしないな。
「あとどの位時間がある?」
「あと三十分と言ったところでしょうか」
いよいよ本当にヤバイじゃないか。
こんなに時間に追われるような状態に持っていかれるならば、もっと早く出てきてくれれば良かったのに・・・。
「モリー。やりにくいようなら、ウチが魔法を撃つが・・」
「あ、それはダメです。あくまで私を起こした者限定のイベントなので」
人型が女性に見える事からためらっていて、それを汲んでくれたタマキが気をきかせて名乗り出てくれたのに・・。
なんで、タマキがあちこち触っても起きなかったのに、ワシのときちょっと触れただけで起きてしまったのか。
はぁ、もう、やるしかないのか・・。
「ちなみに君がもし壊れてしまったらどうするの?」
「そんな気遣いは不要です。魔王の娘でも壊されなかったこの私人風情の攻撃如きで何とかなるような造られ方はしておりません。もし万が一壊れても玉の力で修復するらしいです」
まあ、それならいいけど。
魔王の娘とやらがどんな力でやったのかしらないけど、修復するのならばいいや。
あくまでらしいということだけど、それはしょうがない。
なったことがなければ分からない事だってあるだろう。
「その万が一が起こった場合は、私も魔導人形なので一般的に魔物として見られています。これからの生活に役立つものがドロップされると言われていますので、頑張って下さい」
自分が壊されると言うのに頑張って下さいというのもどうなのだろうか。
「・・・ちなみにそれが何か教えてもらえないの?」
「詳しい事は私も知りませんが、何個にも分裂できるもので経験値とかいろんなものを共有する物らしいです。ですが今まで一度もドロップしたことありませんので見たことはありません。何かという質問には答えられません」
ま、そうだろうな。
基本的にドロップ品というのは魔物が消える際に落すもんだと聞いている。
倒されたことの証明だしね。
一度も倒れた事のないこのメイドが知れるわけがない。
そもそも魔物は自分のドロップ品って分かっているものなんだろうか?
そんなことを考えていても、いくら質問してもタイムリミットは短くなるばかり。
・・時間もないし気は進まないけどぼちぼちやりますか・・・。
「・・じゃあ、いくよ。ゲンコツで行くから頭をガードしてよ」
「なんと!攻撃する部分を知らせるとはなんという自信!この私心して受けましょう!」
そういって頭上にガードを張るメイド。
魔法障壁も張ってるね、あれ。
ワシが他の部分を攻撃したらどうするんだろうか?
まぁ、しないけど。
ただでさえ女性型というのでやりにくいのに、不意打ちなんか考えてもないけどさあ・・。
ゆっくりとメイドに近づくと、どうにでもなれって思いながら振りかぶって頭の上に拳を振りおろした。
ガードした腕と腕をはねのけ、その間から頭へと落ちていくワシのゲンコツ。
ドゴンっっッッッッッッ!!!!!
およそ人が人を攻撃したときにそぐわない、さしずめ隕石でも落ちてきたんじゃないかという音が響く。
打ったワシもびっくりだ。
初めて人形とはいえものを話すモノに攻撃したけど・・なんという音だよ。
ゲンコツっていったら『ゴチ』とか『ゴツン』って音がするって記憶していたんだがなあ。
目の前には頭から煙を出し膝まで埋まりながら横たわり、ピクリとも動かないメイドだった何か。
その傍らにはそのメイドをかたどったのであろう人形が立っている。
『いかせた』ということかな?もっともタマキの時とは意味合いは違ってそうだけど。
うん、多分漢字変換すると『逝かせた』なんだろうなぁ。
あ、その傍らにもなんか光るものがある。あれがドロップ品かな?
そのメイドを助けるわけでも手を差し伸べるでもなくただただ呆然と眺めているタマキ。
そして振りおろした拳をそのままに立ちつくすワシ。
全力で打ち込んで下さいといったから、打ち込んだんだ。それも全力ではなく七分位の力で。ワシは悪くないはずだ。
悪くないはずなのに、なんだこの罪悪感は・・・。




