三五 二人旅だと思った?残念、親同伴でした
「ところでコレ、どうやって戻るの?」
玉の中に入ってからそれなりに時間がたっている。
別に何の問題もないのだが、そうはいってもワシの冒険心の火は消えてはいない。
屋敷が手に入ったからと言っても冒険に出るのを止めたわけではないのだ。
やっとその年齢に達したのだ。早くギルドに登録しに行きたい。
そのためには少ないとはいえ荷作りせねばならないし、いろいろと準備もせねばならない。
「ん?簡単ぢゃ。正門から出ればいいのぢゃ」
意外に簡単に出られるんだな。
こっちぢゃ、こっちぢゃと先導してくれるタマキ。
ワシはそれに従って歩みを進めるのだが、ここにきてすっかり口数が無くなったヨーコさんは動かない。
「母さんも一緒に戻らない?まだここに居る?」
誘ってみるものの返答は無い。
なにか思うことがあるのだろうか、顎に手をやって考え事をしているような。
べつにヨーコさん一人置いていても大丈夫だろうということで、返答はおろかアクションもおこさないヨーコさんを置いてワシとタマキは正門をくぐった。
・ ・ ・ ・
戻ってきたワシらはいそいそと旅路の準備をしている。
とはいっても、特にすることもないんだけど。
日頃から殆ど道具箱に入れているし、武器は包丁だしね。
「なあ、タマキ。道具とか食材とかあの玉に持って行って平気か?」
「最初に言ったぢゃろう?あれは人の入れるアイテムボックスのようなモノぢゃと。もちろん持っていけるのぢゃ。ただし、持って入ったものしか出せんからの。持ち出し禁止なのぢゃ。玉の中の水とかを汲んで正門通っても持っていけないからの」
なるほど、備え付けのやつは持ちだせないのか。
うん。その方がいいわな。
聞きかじりの知識だけど、玉の中とこの世界の文明ではかなり差がありそうだ。
冷蔵庫みたいなのとか外に出したら大変な騒ぎになるかもしれないし。
さらに行商人が今まで持ってきた商品にないような食材とかもあったしね。
「ところでモリー。聞いておきたいんぢゃが、どうやってこの島を出るつもりなのぢゃ?」
「それなんだよなぁ・・」
何も考えてないわけではないが、方法は思い浮かばない。
行商人がつかう魔法陣に目を付けて何度か試してみたんだけど、一度たりとも発動さえしたことは無い。なにか特別な魔法をかけているのだろう。
船を作ってとも思ったけど、ワシが全力で作ってせいぜいがイカダが精いっぱいだろう。
時々釣りで海を見に行く事もあったが、このあたりイカダなんていうものでどうにかなるような感じの波ではない。たぶん行きつく先はドザエモンだろう。
「まず母さんに聞こうとは思ってるよ。天から落されたワシや召喚されたタマキと違って自分で来たんだろうし。そもそもここがどこかも分かってないし」
「まぁ、それが賢明は判断ぢゃな。それならばもう一度、玉の中に行こうかの」
一通り荷作りを終えたワシらは再び玉の中に向かうのだった。
・ ・ ・ ・
戻ってきたワシらを待っていたのは仁王立ちのヨーコさんだった。
いつになく真剣な顔で睨みつけるかの如くこちらを凝視している。
なんだ?この気軽に話しかけちゃダメなような感じは・・。
島からの出かたを聞きたいのにこれは困るんだが・・・。
「・・・恥を忍んでお願いがあるんだけど」
重々しい空気の中、ヨーコさんが口を開く。
「・・・プレゼントだのなんだのとのたまったあげくに、価値が分かった途端にこんなことをいうのは母親としてだけじゃなく、人としてもどうなのかと思うんだけど」
なんだ、この入り方・・。
まさか・・この玉を返せとでも言うんだろうか?
それならそれでいいんだけど。
惜しいけど、快適な旅路を思い描いていたわけでもないし、そもそも手に余る道具だし。
でも返したところでヨーコさんじゃあ、使えないんじゃ・・?
「アタシもここで暮らしちゃダメかしら?」
考えていたやり取りとは違う言葉が紡がれた。
「アタシはもう冒険とか政事とかもっと言ったら人づきあいでさえ御免なの。だから無人島にいたのよ。冒険にもう一度いこうなんてこれっぽっちも思って無いわ。でも、でもね」
おそらく魔王討伐の旅路やその後にいろいろあったのだろう。
ワシやタマキに話してくれていない裏の歴史というやつが。
「ここにいれば人と出会うことは無い。便利すぎる文明がある。なにより息子、娘を案ずる事が少ないわ。なにせ運んで貰ってるんだからいつでも一緒というわけだし」
自分の欲求だけではなくちゃんとワシらのことも思ってだったのか・・。
「決して夫婦の邪魔はしないから!覗いたりしないから!部屋も離れたところでいいから!お願い!!」
最後の一文で台無しである。
部屋を離れたところとか、邪魔はしないはともかく、覗かないっていう宣言はなんだ!?
昨晩の覗いてたの!?それで今朝ワシらを白い目で見てたのかよ!?
しかしもとより断る気は無いし、ワシとしてもヨーコさんが一緒となれば安心ではあるのだ。
ただ、これはワシ一人で決めることのできない案件だ。
一応タマキに確認してみる。
「タマキ、どう?」
「いいのではないかの?断る理由なかろ。夫婦生活も邪魔されんようぢゃしな。気持ちも分かる。ここを知ってしまったら、なかなか・・の」
二つ返事で了承された。
タマキがここで首を横に振るような子じゃないのは分かっていたが、うれしくなる。
確かに・・・いいのを知ってしまうと戻れなくなるよね。
ありがとう、ありがとうと涙ながらにいうヨーコさん。
旅は道連れ世は情けである。
冒険が母親同伴でもいいではないか。
涙をぬぐってじゃあアタシも準備しようかなと言うと、正門にスキップしながら近づいて行く。
喜んでもらえてなによりとほほえましくその足取りを眺めていると、途中で不意に振り向きこんなことをいう。
「あ、そうそう。アタシさっきも言った通りもう人づきあいが鬱陶しいの。特別な用事がなければ玉から出ないで、ここで本読んだり研究したり今と同じ生活する予定だから。基本的にキミとタマキさんの二人旅だから安心して」
・・・・立派な引きこもりが誕生した瞬間だった。




