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三四 玉の中の自重しない面々

目の前にある建物は非常に立派なものだった。

まさしく貴族の別荘って感じなんだけど、手入れの生き届いた庭に大きな屋敷、池があって砂場、おいおい三階まであるのか。

見た目掘っ立て小屋の我が家とは比べようがない豪華さだ。

すごいなこれ・・・前世でもテレビとかゲームとかでは見た事あるけど、実物はそんなには見た事ないぞ。

あまりの光景に言葉をなくしていると、おそらく玄関であろう大きな扉からタマキが手招きをしてくる。


「おーい、モリー、義母君。こっちぢゃ、こっち」


呼ばれるがままにタマキの方へ向っていく親子二人。


「ここが入口ぢゃ。中も凄いから期待しておくのぢゃ」


「・・タマキはもしかしてここに来た事があったり?」


「ぅん?ああ、あるのぢゃ。二度ほど来た事がある。最後に来たのは魔王の即位式の打ち上げの後ぢゃったかな?魔王もきておったがあの時は盛り上がったのぢゃ」


即位式って打ち上げのいるようなものなのか?

それより魔物が打ち上げという文化を持っていることに驚きである。


「ぢゃが、そういう特別な時でないとここには入ることが出来なかったのぢゃ。だから百年以上生きていても入る機会はそうそうない。間者とかを警戒してたのもあって普段は厳重保管品だったからの」


いいながら扉をあけるタマキ。

開けた扉に向こうに広がるのはおおきなエントランス、正面に大きな階段。

舞踏会とかが開かれる会場?あ、そうか。

外観からしてどこかでみたことあるなぁって思ってたけど、これあそこにそっくりなんだ。鹿鳴館。


「ま、とりあえず一旦解散して色々見て回ろうぞ。ウチもじっくりと見るのは初めてぢゃからの」


その言葉を合図にしてワシらは三者三様思い思いに建物内を見学し始めるのだった。


・ ・ ・ ・


「・・凄過ぎだな、ここ」


若干疲れ気味にそう呟いてみる。

まだ誰もエントランスに戻ってきてはいない、ワシが一番乗りだ。

二人が帰ってくる前にここの事を自分なりに纏めておこうと思う。

生活設備を見て回ったところ、大きな台所・・・いや、あれは台所なんてものじゃない、システムキッチン(業務用)だな。今使っている台所なんかままごとと言わんばかりに威圧感すらあった。

この世界に無いはずの冷蔵庫まであるのは何故なのか?とか火元ってとかいろいろつっこむところもあったが、あった方が良いに決まっているのであえてつっこまない。

つぎに、びっくりしたのが汚れが無い。汚しても五分後には綺麗になっている。

ためしに冷蔵庫にあった魚醤みたいなのを床にたらしてみたけど、いつのまにか綺麗になっていた。

タマキのつかうクリーンに似ている気がするのだが、どういう原理かはわからない。

風呂にいたってはなぜか沸いていたし、循環しているのか湧き出しているのかかけ流しの状態でライオンのような魔物を形どった(おそらくキマイラ)やつの口から温水が延々と出ていた。

トイレも洋式で水洗というこの世界に似合わないものが完成されていた。

中庭もあった。紅葉に桜、小さい滝に東屋となぜか純和風テイストなのだが、元お箸の国の住人としてはなぜか非常に和む。

その他にもいろいろあったのだが、総合するとサービスの行き届いている最高級ホテルといった具合である。

ただ、地下に牢獄とか拷問機器とかが完備されているところをのぞけばね・・・。

見てきたものを整理していると、タマキとヨーコさんもエントランスに帰ってきた。

二人とも新しい玩具を与えられた子供みたいに目がキラキラしてる。


「どうぢゃった?凄いぢゃろう?」


「・・・凄いしか言えないわね。もっとはやくタマキさんにあの玉見てもらえばよかったわ・・」


朝の衝撃から声を聞かなかったヨーコさんもさすがの凄さに感嘆のこえを漏らす。

ワシも諸手をあげて凄いと言いたいんだけど、その前に気になることをいくつか聞いてみることにする。


「なぁ、タマキいくつか質問があるんだけどいいかな?」


「ん?なんぢゃ?ウチに答えられる範囲なら答えるがの」


「まず、この屋敷なんかモデルってあるの?」


「うーん・・・モデルはのぅ・・あることにはあるらしいんぢゃが、どこかのダンジョンで出てきたとされているとある風景にこのような建物があったとかなんとか言われておったかの。中庭とか風呂はまた別のダンジョンで見たことあるとかなんとか言われていたかの・・詳しくは知らないのぢゃ」


・・ますますダンジョンに潜る日が楽しみになってくるな。


「ごめんなのぢゃ。あまり役に立てんで・・」


「いや。気にしなくていいよ。なんか見慣れた物とか結構あったからちょっと気になっただけだから」


ワシが見慣れたといったあたりでヨーコさんの目が光った気がした。

ヤバい!迂闊なことを言ったかも・・また質問責めにあうぞ。


「そ、それから、水が流れてたり、陽の光がさんさんと降り注いでいたりどうやってんの、これ?・・・それにトイレとか風呂の水とか出たゴミとかああ言ったものってどうなってんの?」


「それについても詳しくは知らんのぢゃ。なにせ失われた魔術ぢゃからの・・文字みたいに断片的にヒントがあれば解読できるものと違って、術式から属性、原理まで何一つヒントが残されておらんからのぅ・・」


やっぱ残ってないのかぁ。

あの本を解読したタマキが言うのだから間違いなさそうだ。


「何人かがこの玉について調べておったようなのぢゃが・・原理がマジックボックスと似たものがあるんじゃないかという推測が出来たことと、玉を創るときに沢山の魔力多きものが犠牲になったという記録が見つかったぐらいぢゃ。・・で、たくさんの命のもとできたこの玉は尊く素晴らしい物ということになって調査も終了したらしいしの」


・・原理とか何時というのは全く分からなかったが、なんのために作られたかはなんとなく分かった気がした。

この玉はおそらく過去の魔王とかそれに準ずる位の魔物が快適な暮らしを一時でも味わう為にた沢山の魔物、すなわち魔力をつかって作らせたのだろう。

水が無くなることもなければ、太陽もある。排泄物の処理に困ることもなければ、いつも清潔で綺麗に保てる。それだけの魔法・魔力を注ぎ込んだと考えれば、理論上不可能だとは思わざるを得ないが一応納得はいく。

前世の古代に死んだ王の世話をあの世でもさせる為に奴隷を一緒に生き埋めにしたとかいう人身御供の話を聞いたことがあるが、あれに近いことなんだろう。

話を難しく難しく考えていくワシを察したようにタマキがその考えのドツボから掬いあげてくれる。


「まあなにはともあれウチらが今、快適に暮らしていけるのであればそれでいいのではないのかの?難しく考えてもしょうがないのぢゃ」


・・・たしかにそうだ。目から鱗だ。

昔のこととか、成り立ちなんかより大事なのは今だ。

どんな理屈で出来ていようと、どんなものだろうと、これから快適に暮らせるのならば感謝はしても文句をつけることではないではないか。

今ワシが紡ぐ言葉はただ一つ。


「母さん、こんな凄いプレゼントどうもありがとう!」


こうしてワシは並みの冒険者では一生かんばっても手に入れられない豪邸を手に入れたのだった。

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