三三 玉の中へ行ってみたいと思いませんか
寝起きの幸せな風景は何処へやら。
ワシとタマキはなんとか朝食を食べ終わることは出来たものの、ヨーコさんに捕まってしまった。
受けた事ないけど説教とか小言ならばまだ我慢できそうなんだが、そのどちらでもない恨みつらみの絡みは正直つらい。
「・・そりゃ、わかってたわよ。タマキさんを召喚したあの日からこうなることは既定路線だったんだし・・アタシにとっても子供が一人増えるってことは重々にわかっていたのよ・・それが息子の嫁という形だということも認めたくないけど・・わかっていたの・・でもね・・」
徐々に涙声になっていく。
「夫婦になれる年齢になったとたんにしなくてもいいじゃない・・!!あてつけ?あてつけなの!?『私たちこんなに幸せでラブラブです』って見せびらかしているの!?」
そう捲し立てると、うあーっと大声で大粒の涙を流しながら突っ伏す。
ヨーコさんは結婚出来なかったのではなくしなかった人だ。
美人で聡明なヨーコさんには討伐後にいろんな国や貴族から縁談があったらしいんだけど、その全てを断っている。
だからこんな無人島にいて出会えたわけだが、結婚自体には少し思う所があったみたいだ。
この姿はまさに親友に先を越されたOLさん。
あの涙はどう見ても一人娘を嫁に出す親の涙とは違う。
親の威厳もなにもあったもんじゃない。
お酒入って無いよね?
しかし、いくらわめかれても見せびらかすつもりはないしあてつけでもないのでどうしようもない。あくまでも流れなのだ。
合体までいったのはちょっと申し訳ない気持ちになったけど、それもまあ夫婦なんだから許してほしいのだが。
どうすることもできない目の前の悲惨なヨーコさんを、ただただ見ていることしかできない新婚夫婦なのだった。
ヨーコさんがようやく落ち付いたのは昼飯時である。
午前中いっぱい泣きじゃくったわけだが、魔法の件の時は一晩荒れたんだ。
それを思えばまだマシ・・・マシなのかなぁ?
目だけ腫らしながらも普通に食べ終えたヨーコさんは、忘れてたといいながら小さな球体を取り出した。
「誕生日祝いと結婚祝い。一緒になっちゃったけどあげるわ」
そういってコロコロ転がしてワシの目の前で止まる玉。
「えーと、これは?」
「ん?前に言っていたでしょ。キミが成人するときにあげるものがあるって。名前は移動別邸玉というらしいわ。魔力を感じるし中を覗いてみれば貴族の屋敷みたいなのが見えるんだけど、研究に研究を重ねても結局何なのか名前以外は分からなかったんだけど・・名前だけならなんか役に立ちそうじゃない?」
ようするにプレゼントにかこつけた不用品の押し付けじゃないか。
でもこれ、魔王城の戦利品だろ。いいの?簡単に人にあげちゃって。
「お、おい、義母君いいのかの!?こ、これ」
ヨーコさんが匙を投げて、ワシが不用品とか言ってる玉をみて声を上げたのはタマキだった。
なんだかひどく狼狽してるけど?
「いいもなにも。魔王城から持ってきたものってだけで、価値とか分からなかったし使い道も分からない。あげたところでアタシは何も困らないし」
「そうはいうけどの・・・」
あっけらかんというヨーコさんに対して、何か歯切れの悪いタマキ。
「・・もしかしてタマキはこれが何か知ってるの?」
「う、うむ。これはの、いわゆる持ち運びのできる家ぢゃの。外の世界と同じ時間も流れるし生活だってできる。いうなれば人の入れるアイテムボックスぢゃな」
アイテムボックスやワシの道具箱は生きているモノを入れることはできない。
道具として見られるモノしか入れれない。
だから狩った後の動物とかは食材とか材料として入れることが出来る。
「・・・ちなみに価値とかは・・」
「馬鹿を申すでない、値段など付けられるか。いつぞやの本は町とか村ぢゃったが、これはそういうレベルの話ではない。国とかが買えちゃうようなレベルなのぢゃ。たしか魔王城でも宝物庫とは別の厳重な隠し部屋に安置されていたと思うんぢゃが・・」
それすらも人の手に渡っておったとはのぅ、とここでも驚いているタマキ。
・・・まじか。そんなもん誕生日やら結婚祝いやらで貰ったワシって一体?
さっき、あげたところで何も困らないとあっけらかんとしていたヨーコさん、固まっちゃった・・そりゃそうだ。
「分類的にはマジックアイテムなのぢゃが、その魔法ももう失われておってな・・二度と同じものは作れんぢゃろうと言われておるのぢゃ」
「マジックアイテムならば、母さんの研究で何かわかりそうなもんだけど・・?」
「それはあれぢゃ。ウチやモリーと違って使う魔法が違うからぢゃろ。ま、ともかく使ってみようかの。ほれ、モリー、義母君の手をとって玉に魔力を注入してみ?」
タマキはそういうと先に玉に魔力を込めたのか、その場から消えてしまった。
いきなり人一人消えるとか結構ホラーなんだけど。
言われた通り放心中のヨーコさんの手を片手でとって、もう一方の手で玉に魔力を込める。
あたりが白くかすんでいく――――。
かすみが晴れるとそこには玉を覗いた際に見えた屋敷が建っていた。




