二 拾われたけど子育て方針がおかしい
結論から言おう。ワシはなんとか生き延びている。
あのあと再び目を覚ましたワシは森の中にいた。赤子の状態で。
てへぺろ女神の最後の言葉は空耳じゃあなかったんじゃな。
一応異世界に連れて来てくれたわけだし、一度しかない人生に二度目と言うネクストステージをくれたんだから感謝しなければいけないんだろうけど・・実際感謝してるんだけど・・相手は神なんだけど・・
バチがあたればいいのに・・
そんな事を思いながらも、泣くことしかできないのでとりあえずは泣いていた。
今思えば、あの状態だといつモンスターに見つかって短すぎる二度目の人生を終えていたかわからんな。
その声に気付いたのはたまたま薬草を取りに来ていた女性。
「なぜここに?」といった感じでワシをみた狐耳の女性は母性が湧いたのか気まぐれなのかそのまま家まで連れ帰ってくれてそのままワシを育ててくれている。
ヨーコと名乗ったこの女性は二十代前半位に見える狐人族の美女で未婚。
性格はアッサリサバサバ。自分の興味あるものしかやらない感じの人だ。
実際ワシが泣いていても、尻尾であやしながら研究をつづけるような人だ。
実はこの女性、もともと前回の魔王討伐隊パーティーメンバー。
職業は賢者。実際には頭に元がつき、今気楽に趣味で錬金術を実験しながらの隠居生活。
実は剣も魔法もいけるらしく、広く浅くなんでも出来る天才肌なんだとか。
なんでも討伐後いろんな所から勧誘やら囲い込みやらあったらしいのだがそれに嫌気がさして人気のない森で一人で住んでいたらしい。
その住処というのが何の変哲もない妙齢の女性が住むにはどうなのかという山小屋なんだけど、その地下にはワシが前世で住んでいた家より広い部屋がある。
生体認証みたいな魔法がかけてあって山小屋に入ってきた"許可"された者(食糧調達の為の契約行商人とか)がその部屋に転移されるってわけ。
これをはじめて体験したとき、あぁ異世界なんだなぁと実感したものよ。
ヨーコさんに拾われて育てて貰う事になったんだけど、まあヨーコさん自身が未婚で子育ての経験が無かった事、そして自身の性格ゆえ基本甘やかされる事もなく、必要以上にかまってくれる事もなかった。
しかし全くワシに無関心だったわけではない。ただどう接していいのか分からないが故だ。育児放棄では決してない。
ワシに言葉・知識を教えてくれたのは間違いなくヨーコさんだ。
言葉をしゃべれる程度の成長をした頃からは、実験の合間合間に一般常識から錬金術の高度なことまで色々なことを話してくれた。
今思えば話し相手になってやろうという親心だったのだろうが、いかんせん一人暮らしで行商人以外と話す事がない人だからその話はどこか説明調。
話の途中から自分の知識をベースに饒舌になっていくんだけど、さすが賢者の知識。難しい。
その上、ヨーコさんのこの家にはさすがに賢者らしく沢山の書物があり、字を教わってからは夢中で読んだっけ。
おかげで退屈する事はなかったなぁ。
ヨーコさんお尻尾であやして貰うには恥ずかしくなってきた頃、ワシは前世の記憶もあったので調理係をかってでて色々試していた。
なにしろヨーコさんの料理は食えればいいの男料理なので上手くもなく不味くもないものだったからな。
やるといったときヨーコさんはちょっとびっくりしたような顔をしていたが、ワシの意思を尊重してくれて料理本を一通りくれた。
食材は野菜や調味料は前世のものとあまり変わりはなく(胡椒なんかは非常に高価なものらしいが)、肉や魚は魔物のドロップ品だそうだが、味や使い勝手はそう変わらなかった。
当分の間はこっちの世界の料理を本を見ながら作っていたが、時がたつにつれオリジナル料理と称して前世の料理も作っていた。
日常の食事から酒や漬物、チーズなんか時間のかかるものまで色々つくらせてもらっては食べて貰っては意見を聞いて改良していった。
食事の心配がなくなったヨーコさんはますます趣味にのめり込み、その一部始終を見たり聞いたりできるワシはますます知識が深まるのであった。
ちなみにヨーコさんはワシのつくった油揚げが大層気に入ったらしい。
どこの世界でも狐さんは油揚げが好きなんだなぁ。