二八 久しぶりの声を聞いて
魔法の一件からかなりの時間が過ぎた。
人側の魔法で適性のある奴をワシは極めてしまったので、ヨーコさんから教わることはなくなってしまった。
分からない事があると聞きに行ったりするのだが、最近じゃそれもご無沙汰である。
なので今じゃ飯時にしか会わないなんてこともざらにあったりする。
ヨーコさんが何をしているかというと、例の戦利品の研究らしいんだが、進んでいるのか滞っているのか、もっといえばやっているんだかいないんだか分からない。
何の音もしないし、報告もない。時々奇声が聞こえる程度である。
タマキはというと半年前にあの本に書かれてあった無魔法を全て暗記し、そして使っている。
あの本には洗濯や掃除といった部類に役立つ魔法がいっぱいである。いまじゃ「魔法の鍛錬ぢゃ」とかいって家のことを本当にほとんどやってくれている。
唯一、料理だけはワシの仕事なんだけどね。出来そうな気もするし実際出来るんだろうけど、料理だけは頑としてやらなかった。
曰く「ウチの作ったものよりモリーのほうがうまいのだから」ということらしい。
実際胃袋を掴んじゃったのが、ここにタマキを引きとめる一因となっているわけだし、そう言われて悪い気はしない。
ワシはというと一言でいうなら、晴耕雨読な日々を送っている。
まさしく晴れなら外で鍛錬、雨なら家で読書といった具合だ。それに毎日の炊事が入る。
なんかね、もう、前世終盤よりもよっぽどおだやかでゆっくりな生活を送らせて貰っているよ。
要するにやることが無いんだよね・・・この無人島は本当に森と川ぐらいしかないし・・・野生動物はいるけど、もうなんというかワシの体だと物足りないというかかけっこの相手にもならないし・・・見知った奴ばかりで飽きるしね。
川と言えば、この川には鮎みたいな魚とか鮭みたいな魚がいる。
まあ大きさが5倍位違うんだけど、味は一緒だ。なのに魚卵は日本と一緒だから不思議なものだ。
だがそいつらを飽きずに食べてもらおうと試行錯誤した結果、ワシはなんと魔法剣を習得してしまった。
要は包丁使っているときに、包丁に纏うようなイメージで氷魔法をつかったということなんだけど、そのときたまたま調理を見ていたタマキからは驚かれたなぁ。なんでも魔法剣は各国の騎士のなかでも上の方(よく聞くと軍隊でいう少将から上のクラス)しか使えないって話らしい。
確認の為ヨーコさんに聞くと魔王討伐メンバーにも使えるのはいたけど、この世界にそもそもあんまりいないんだとか。その代わりに炎の剣とか氷の剣があるらしいけど。
そんな稀有なものをルイベを作る為に習得してしまったワシ。
これはいつぞやみたいにひと騒動あるかなんて思ったんだけど、「まぁモリーだし・・・」で片付いてしまった。
どうも人魔両方の魔法を一度に使って以来、ワシの評価がおかしい・・。
騒げとは言わんけど、もっと、こう、さぁ・・。
そんな一幕がありながらも穏やかな日々を過ごしていた。
八回目の誕生日を迎えたあたりからワシは足とか腕の節々に痛みを感じるようになった。
こんな老人みたいな暮らしをしてはいるが八歳になったばかりだ。決してリウマチなどではない。
いわれてみればこの痛みは遠い昔に経験したことがある。誰もが経験する体が大人に近づく為の儀式。
そう成長痛である。
あまりに痛くてヨーコさんに聞きに行くまで忘れていたよ、この痛さ。
ヨーコさん曰く、この成長痛が終わると身体の大きな成長は終わり身体だけなら大人の仲間入りということになるんだと。
・・この世界で十歳で成人というのは早いと思っていたんだけど、全然そんなことは無いんだなぁ。体も能力も出来あがるんならばむしろ理にかなっていたんだな。
痛みを堪えること数週間。ようやく痛みが引いた。
この世界の成長痛、痛すぎる!!遠い記憶にあるやつの十倍は痛かったぞ。
しかし背が急激に伸び、ヨーコさんと肩を並べる位になったな。体の成長の速さに驚きである。
ちなみに同じ年頃であると思われるタマキもまた、成長痛で苦しんでいたが、ワシとは頭一つ分ぐらい差が開き成長が終わったようだ。
タマキの方が低いのだが、これはまずい。
可愛いままでの成長で身長差・・ナチュラルにタマキからの上目使いの攻撃を受けることになる。
おねだりとかされると間違いなく萌死しちゃうなぁ、ワシ。
耐え忍んだ成長痛から数日、今度は目に激痛が走ることになる。
成長痛よりは痛くないとはいえ、前世の記憶にある数々の痛みに比べても上位に来るぐらいの痛みである。ワシの魂が大人では無かったら泣き叫ぶ痛さだ。
時には霞むことさえあるこの目の不調には二人も思い当たることがないらしく、首をかしげるばかり。
二人が知らない、そして同じように成長痛に悩まされたタマキが発症していないのだ。成長痛で有るはずがない。
しかし不調に陥るようなことをした覚えもない。
毎日規則正しくとは言わないけど、それに近い生活を判を押したように毎日繰り返してきたんだ。
タマキに甲斐甲斐しく看病されながら、その痛みは数日続いたんだがある日ピタッと痛みは止んだ。
それと同時に久方ぶりに脳内にファンファーレと無機質なアナウンスが流れるのだった。
[身体が子供から大人に成長しましたので制限されていた能力を解除します]
[解除されたものをアナウンスしますか?]




