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二三 のんでくだまきかみついて

その日の夜、ヨーコさんは荒れた。

滅多に飲むこと無いワインを浴びるほど飲んだ挙句、絡み酒。

笑い上戸になったり、泣き上戸になったり・・・それはもう酷いものだ。

あのワインって確か魔王討伐した際にどっかの皇帝から贈られた代物だって言ってたけど、いいのかなぁ・・

そのうえ更にヤケ食いである。

普通の量でさえ時間をかけて食べる普段と違い、出された料理を手当たり次第にかき込んでいく。

その光景は普段のクールなヨーコさんのイメージを根本から崩れさせるどころの物ではない・・・・飢えた野獣の如くである。


「だからぁ~、なんでなの?ねぇ?なんでぇ~?」


子供のような質問を投げつけてくるくるヨーコさん・・・

こっちとしては、主語の無いクエステョンなど答えようがないのだが。

おそらくは魔法の威力のことを言っているのだろうけど、そんなことワシが知るわけがない。

賢者様であらせられるヨーコさんが分からないのに、なぜワシがわかると錯覚してしまっていたのだろうか?

分かりそうなのはタマキなんだが、昼間教えてもらった無魔法が気になってしょうがなかったらしく抜けがらのようなヨーコさんから形式だけの許しを得て、現在ヨーコさんの部屋を物色中である。

つまりこの酔っ払いの相手をワシひとりでしないといけないわけ。

前世でも嗜む程度しか飲まなかったワシ(主に一人酒)にとって、目の前のヨーコさんはもはや未知の生物である。


「なんでぇ~アタシのぉ~魔法よりタマキさんの方がすごいの?Ⅰの魔法なんでしょう~アレ。アタシのあれはⅤなのよ!?Ⅴ!いったいアタシがどれだけ苦労してぇ~習得したとおもってるのよぅ~・・」


よよよ、と泣きマネしながらグラスをあおるヨーコさん。


「・・母さん、もうその位にした方が・・」


「なによぉ~、ほっといてよっ。どうせアタシは息子にいい所を見せようとして失敗したダメな母親ですよぅ~」


そういって拗ねながらも、グラスになみなみとワインをついでいく。

ついだそばから一気にあおってまたついでいく。

ヨーコさん実はザルなのか?

いやそれじゃこんなにへべれけにはならんわなぁ・・。


※よい大人のみなさんは危険なので一気飲みは止めましょう※


・・しかしやっぱりそんな魂胆だったか、今回の同行は。


「そんなことしないでも十分尊敬しているけど・・・」


「・・・どんなとこを?」


「母さんって魔王討伐メンバーの賢者だったんだろ。だったらワシだけじゃなくって世界中の人から尊敬されているんじゃな――」


「過去よりも現在いまなのよ!昔の事じゃないの!今!息子から!尊敬されたいの!!」


くい気味に高らかに宣言したヨーコさん。

過去の栄光にすがりつき過ぎるのもどうかと思うけど、すがらな過ぎるのも問題あるなぁ。

ワシ一人が向ける尊敬が、魔王討伐の栄誉に対する世界中の尊敬に勝るとは到底思えないのだが・・

まぁ、ものの価値は人それぞれだししょうがないかな。

しかし誰が見ても今のヨーコさんを見て尊敬する輩はおらんと思います・・。


同じようなやり取りを繰り返し繰り返し・・・

その都度なだめ、おこられ、泣かれ・・・

いつ終わるの?これ!?

そんなループを繰り返していると、ようやっとでタマキが台所に現れた。


「な、なんぢゃ?この惨状は・・・?」


暴れたりこそしなかったが、食べ散らかされた机の上・・・そこらに転がるワインの空ビン・・・今もぼそぼそなにかを愚痴っているヨーコさん・・・

タマキじゃなくとも、同じ言葉が出たはずの状況である。

ワシは帰ってきてからの無限地獄をおおまかに説明した。

細々説明しているとワシの口からも今晩の愚痴が始まりそうだったし。

おおまかな説明でも、現場の惨状とあいまって伝わったみたいだ。


「・・・なんというか大変ぢゃったんぢゃな・・・」


「・・うん・・・」


タマキの労いの言葉が胸に染みる。


「・・こっちはこんな状態なんだけど、タマキの方はどうだった?お目当ての物はみつかった?」


「うむ、あったのぢゃ!無魔法の本!ちょっと目を通したんぢゃが面白いのぢゃ。それに今回の魔法の威力の件が分かりそうな本まであったのぢゃ!」


「えっ!?本当に!?」


一石二鳥なことがタマキには起こっていたみたいだな。

威力の件が分かれば、今晩のこの惨劇も報われる以上の成果となり得る。


「ただのぅ。これ古代にいたとされる人間寄りの魔物が書いたものらしくてのぅ・・なんで義母君が持っているのかも興味があるんぢゃが、とりあえずこれは翻訳が必要ぢゃな。数日待っておれ、解読してみせるのぢゃ!」


自信満々にタマキが宣言する。

ホクホク顔のタマキに癒されつつあるとヨーコさんの目線がワシらの方へ復帰した。


「ちょっとそこの2人!なぁに2人でこそこそ話してるのぉ?!妙齢すぎでいまだ独身のアタシに対するあてつけなのぅ?!」


そう言ってメソメソしだす。

あ~~っ!!!酔っ払いめんどくさいっ!!!


「なぁタマキ・・・これなんとかならない?」


「う~む、そうぢゃなぁ・・・・そうぢゃ!さっき目を通した無魔法にいいのがあった!ぶっつけ本番じゃがまあ失敗しても大事にはいたらんぢゃろう。無魔法ぢゃし・・」


そういうとタマキはイメージを膨らませ始めているらしいけど・・

・・仮にも義母さんだぞ、実験台にしようとするのはどうかと・・・

しかしその間も、ヨーコさんはメソメソしてるし、タマキは集中している・・・

止めれないな。うん。仕様が無い!


「ほっ」


短く一言タマキが発すると、メソメソ声が無くなり、安らかな寝息が聞こえる。

見るとヨーコさんはワイングラスを握りしめたままお休みになっていた。


「うまくいったようぢゃな」


「タマキ、これは?」


「うむ、『スリープ』と書いてあったか。要するに眠らせる無魔法ぢゃな」


ああ!おなじみ催眠の魔法か!

それも無魔法なのか・・・無魔法の範囲ってほんとうに広いなぁ。

しかし本当にイメージだけで出来るもんなんだな・・・タマキに才能があったといえばそうかもしれないけど、今度ワシもやってみよう。


この無人島での新たな野望が出来たところで隣りから、くぅ~というかわいい腹の音が聞こえる。

そういえばワシとタマキはまだ晩飯食べてなかったな。

今からだとあんまり凝ったもの作るのちょっと面倒だな・・なんて思いながら周りを改めてみる。

・・・とても物を食べる場所じゃあないな、ここ。

タマキも同じことを思ったらしく2人で苦笑いしながらため息一つ。


「・・・やるか・・・」


「・・・そうぢゃな・・・」


ねむるヨーコさんを部屋までおぶってベットに寝かせ、惨劇の台所を片付けて、ワシとタマキがようやく晩飯を食べれたのは日付が変わるちょっと前だった。

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