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一一九 童心にかえるボール遊び

あれから一時間たっただろうか。

民家の中からはまだ時折おおきな音が聞こえてくる。戦闘が続いているみたい。

いくら無限に出てくるとは言え、一体倒すと次という感じなので大乱闘というわけにはいかず、騒がしくは無い。

あちらから何のコンタクトも取ってこないということは、魔法陣が出現していない=ボスもまだ現れていない、でも二人の安否は無事ってことだろう


ワシの方はというと、生垣のピパーツを取りつくしてしまっていた。

いや、最初はね、それなりにで終わろうとしてたのよ。でもね、持っている入れ物が無限に入れられるものだとどれだけ採ったのかが分からなくてねぇ。気が付いたら生垣の実無くなっちゃった。

更に確か葉っぱの食べれるんだったよなってことで、生垣二株分の葉っぱをむしってしまった。

こんな来客来たらワシだったら絶対にキレる。良かったよここがダンジョンで。

で、やることが無くなって一休みしてたんだけど、目の前になぜかショートカットの可愛らしい少女がいる。この少女、ピパーツを採っているとどこからともなく現れたんだけど、特になにをして来るでもなくワシの作業をじっと見ていた。

ダンジョンだから魔物の類なんだろうけど、見ているだけで特に何かをしてくるってわけではないので放っていおいたんだが、実を取り終わっても、葉をむしり終わってもただただワシをじっと見ていた。

手には模様が毬に似た球体を持っている。しかしそれを使って攻撃してくることは無い。時折宙に向けて軽く放っている。


「・・どうかした?」


意を決して話しかけてみる。おそらく魔物。人の言葉は話せない。もちろん返事はない。

ワシの問いかけに応えることなくなおもじっとワシを見てくる。なにか用事を言いたいっていう雰囲気なんだけど・・・。

少女は次に毬らしきものとワシを交互に見る。


「もしかして・・・ワシとその玉で遊びたいのかな?」


なんとなく思ったことを口にしてみると少女の顔がぱあっと明るくなった。

うおっ!かわいい・・・。普通にこんな可愛い子が魔物なんだよなぁ・・。

そしてどうやら遊びたいっていうのは当たっていたみたいだな。

どんな遊びをするのか分からないけど殺意とか敵意は無いみたいだし、ちょっと付きあってあげるかな。


ワシと少女はそのボールのみを使って遊べる遊びをいくつか試みてみた。

バレーのようにトスをするだけの遊びをしたり、サッカーのようにパスをして遊んだり、二人交互にリフティングしたり、ドッヂボールのように投げ合ったり・・・どれも一人ではつまらないものだけど二人でやるとなぜか楽しいのである。

少女はずっと笑顔だった。ワシもいつのまにか笑顔で遊んでいた。

しかし残念ながら、ひとつのボールだけでは出来ることは限られているし、ほどなく遊び方法は枯渇する。

ゴールとかバットとかボールの種類とかがいろいろあればまた違うんだろうけど・・・そしていかんせん二人きりっていうのも出来ることへの枷となっているよなぁ・・。

これ以上案がでないワシは最後に少女に一人でも遊べるボール遊びとしてまりつきを教えてあげた。

知っているかもとも思ったんだけど少女はどうも知らなかったみたいで、興味津津にワシの説明・・・説明ってほどじゃないけど、やり方を見ている。

一通り教えて、ワシは山寺の和尚さんを歌いながら披露する。

・・・よく考えたらこの歌って残酷だよなぁ・・猫をまり代わりに使うなんて、時代が時代なら動物愛護団体から怒られていただろう。


「こんな風にリズムにあわせてボールをつくとそれなりに楽しいよ。声に出しながらでもいいし、声が出ないんなら頭の中で歌とか音楽を思い描きながらやるといいよ」


説明し終えボールを返すと、少女はやはり声はでないのか、無言でまりつきをはじめた。

しかしそのボールをつくリズムは先程ワシが口ずさみながらやったそれの完全コピーだ。

すごい学習能力だなぁ・・。


「楽しかったかい?」


ワシが尋ねると少女は笑顔でうなずいてくれる。

それは良かったよ。


「しかし君は本当にうれしそうにするなぁ・・。大したことは教えてないんだけど・・」


『それは違うよ。ありがとう一緒に遊んでくれて』


急に頭の中に声が聞こえる。


『滅多に人が来ないこんな場所なのに、さらに魔物と遊んでやろうなんていう奇特な人はおそらくそうはいない。僕は生まれた時からこの形だったんだけど、もちろんボールがあんな風に遊ぶものなんて知らなかった。それを教えてくれただけでも感謝だよ』


「ああ~・・もしかしなくても君の声なのか」


目の前の少女を見るとワシの問いかけに頷いている。


『そして僕は満足してしまった。もうじき僕は消えるだろうけど・・できれば僕との出会いを忘れないで欲しいな』


「出来る限りは善処する。ワシはモリーと言うんだけど君は結局何者?」


『僕に名前は無いよ。君達人が分類した種族名ならザシキワラシだね』


なんとなくそんな気はしてたけどやはり座敷わらしか・・・。着物だし毬の模様のボールだしそうじゃないかとは思ってたけど、活発そうなボーイッシュだったから一致しなかったな。


「では仮にワラシ君。ワシも久々童心に帰れて楽しかったよ。また会うこともあるのかな?」


『君は優しいね。・・多分もう会うことは無いだろうね。・・しかしまた生まれ変わることが出来たのなら一緒に遊んでくれるかな?そうだね・・・その時は永遠に子供のままの僕には成ることが不可能な一生かけてのおままごとなんてのも一緒にしたいなぁ・・』


「一生かけてのおままごと?それって――」


『まあ万一生まれ変わったらのことさ。どうだい約束してくれるかい?』


「ワシの奥さんが良いと言ったらな」


『ふふふ・・・魔物相手に結婚の約束をしてくれるなんて、本当に君は優しいね』


そういうと少女はワシに駆け寄りほっぺにキスをする。

完全な不意打ちだ・・油断した・・・。

キスをして満足したのか少女が光となって消えていく。


『では僕の来世で再び会えることを楽しみにしているよ。未来の旦那様』


そう一言言い残し完全に消えていった。消えた場所には一緒に遊んだボールとフィギュアが残されていた。


「・・・なんだこれ。なんかすごく後味悪いなぁ・・」


戦わずして成仏(?)してくれたんだからそれに越した事はないんだけど、なんだかなぁ・・・。

いつもみたいに、戦って白黒つけた方が気分は楽だ。その場合ワシの出番はないけど・・。


「おーい、モリー。なんかいきなり魔物が消えて魔法陣が出現したのぢゃ。これで次の階層に行けるのぢゃ」


民家の中からタマキの声がする。

どうも座敷わらしこそがボスだったみたいだな。


ワシは後味の悪さを残したまま、とりあえず声のする民家のなかへ入って行った。


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