一一四 醤油仕立ての熊鍋
のどかに一服したのち次の階層にいくために魔法陣を通る。
今度は山にでた。山と言っても緩やかなハイキングにもってこいな山である。決してロッククライミングをするような険しいものではない。
穏やかな三軒家からいきなり13日の金曜日やら犬神家のような世界観に行かされているワシらにとってはさほど驚きはない。
穏やかと言ってもそこはダンジョン。普通に沢山の魔物たちが襲ってくるのだが、ワー系の珍しくないやつとか赤ずきんの家にいくまでに散々増殖していた熊たちだけだ。しかも今回の熊たちは倒したら増殖する事なく消えて行ってくれるから鬱陶しいと言う事もない。
「にゃんか・・拍子抜けするぐらい平和にゃ階層だにゃ」
「さっきの階層もぢゃが、これぐらいが普通のダンジョンぢゃからな。辺境やら黄金の棺やらがおかしかったのぢゃ。ま、ウチとしてはおかしい方が面白いがの」
「そういえばユーミさんに聞いていた事前のこのダンジョン情報では攻略された階層って八ぐらいって言ってたっけ。てことはこの階層ぐらいまでってことなのかな」
「ぢゃろうの。ってことはこれから先はまた珍妙な階層になる可能性があるってことぢゃの。それが黄金の棺の時みたいな謎かけなのか凄まじい強敵が眠っているのかは分からんが」
「どのみち平和はつづかにゃいってことにゃのね・・」
そんな他愛のない話をしながら進んでいく。本当にハイキングに来たみたいだ。
しかしもちろんこの和やかな時間がいつまでも続くものではない。
山頂に近づくにつれて熊たちやワー系はいなくなっていったんだけど、かわりになんか禍々しい空気が立ち込めているような・・・?
「どうやら・・・山頂にあるあの小屋付近になんかおるようぢゃのぅ」
「にゃんか・・寒気が・・・」
どうやら異変を感じたのはワシだけじゃないらしい。
「とりあえず魔法撃っておくか?」
「待てタマキ。なんでそうなる?」
「ん?だってダンジョンぢゃし、こんな気配漂わすのは百パーセント魔物ぢゃし」
「いや、そうは言ってもだな・・。タマキ、ワシが旅に出てる理由忘れてない?」
「この世界を見て回りたいってことぢゃろ?忘れるわけなかろ」
「その見て回りたい物の中には、当然魔物も入っているぞ。ワシのスキルで人形化したのはいつでも見れるけどそれは擬人化したもの。本物は倒した時にしか見れないんだから」
「ぬ・・・そう言われればそうぢゃな。すまんモリー、失念しておった」
「はぁ・・モリーが冒険家ににゃったのはそういう理由だったかにゃ・・」
「ワシらはすでに生きていくだけなら問題ない住居も莫大な資金もあるからな。なにか目的でも持ってその目的のために生きないと・・。とは言えタマキ、どんな背格好とか容姿が分かれば問題ないから一目見た後ならいつも通りやっちゃっていいからな」
「だからモリー大好きぢゃ。今のウチは魔物にむかって魔法を放つ事こそ生きがいぢゃからな。禁止されたらどうしようかと思ったのぢゃ」
欲を言えばどういう動きをするのかとかどういう攻撃するかも知りたいが、そんな風に欲をかいた結果誰かを危険な目にあわせても仕方が無いからな。
タマキにくぎを刺して頂上付近まできたが、いつも通り小屋が一軒寂しそうに建っている。
魔物は桃太郎のときと同じように待ちかまえてはいない。これは中に入って来いってことなんだろうか?
そんなことをちょっと思っちゃったけど、そうではなかった。近づくと待っていましたとばかりにドアが開く。
中から出てきたのは三つの影。一つ目は今度は間違いなくのばあさんだ。手には血ぬられた包丁をもっている。物騒な事この上ない。
その次に出てきたのは熊だ。今まで見た中でもひときわデカイ。おそらく固有種なのだろう。胸に三日月のような模様があるからおそらくツキノワグマあたりが魔物化したんだろうな。
そして三体目。桃太郎とおなじようにオークに見間違えそうな化物が威圧感たっぷりに出てきた。片手にまさかり、金の文字がかかれた前掛け・・・そう金太郎だ。
日本の有名な太郎さんが二人続けて出てきたか・・・。この分じゃ他の太郎さんとも出くわしそうだなぁ・・力太郎とか浦島太郎とかラーメン屋さん太郎とか・・・。
あの熊は金太郎に相撲に負けた熊ということか。そしてあの老婆は・・おそらく山姥だな。金太郎の母親は山姥という話があったしな。
「どうぢゃモリー。見物堪能したかの?」
「・・・うんもういいよ。ちょっと頭が痛いし・・」
「どうかしたかにゃ?めずらしい・・」
「・・いやなんでもない。気にしないで。いつも通り状況に似た物語を思いついちゃっただけだから・・」
「そうかの?ぢゃ、こやつらは処分しとくのぢゃ」
まるでゴミ出しをするみたいに言っているけど一応階層のボスだからね・・・。
とはいってもタマキにとってはそれと変わらなかったみたいだ。
処分しとくと言ってから五秒も経っていないのに、すでに目の前にあるのは三つの氷のオブジェ。そしてそれは勝手に割れ砕け散った。
ワシもこんな風にうまく氷魔法を使いたいものだな。練習を除いてワシが使うときってだいたい全力だから回りへの被害が尋常じゃないからな。
またもや主のいなくなった小屋に入る事になったが、今度はお茶菓子とかは用意されてはいなかった。まあ金太郎の物語って食べ物出てきた記憶ないしね。
その代わり囲炉裏ではなにか鍋が作られている。作っている途中でワシらが来ちゃったからそのままで出て行ってお亡くなりになっちゃったんだな。
鍋の蓋をあけると醤油のいいにおいが部屋にたちこめる。これは・・熊鍋・・?
「せっかくだしごちそうになって行こうか・・。もうこれを食べるはずだった人たちはいないんだし」
「そうぢゃのう・・食べ物に罪はないしの。もったいないし、いい匂いぢゃし」
「この鍋のために犠牲ににゃった熊のためにも食べるにゃ」
魔物の命をどれだけ奪ってもしれっとしてるのに、食材になったとたんにその命に感謝するのはなんなんだろうか?ちょっとよく分からない異世界の価値観。
その後腹いっぱいに熊鍋を味わいつくした。
ちょっとクセが強かったけど地球のそれを思い出して懐かしい気分に浸らせてくれた。
◆今回のフィギュア収穫◇
ヤマンバ
ツキノワ
キンタロウ




