一一〇 密室の安全地帯
赤ずきんを倒したワシたちはそそくさと次の階層に進もうと思ったんだけど、ちょっとミケが変だ。なんかぼーってしてる。
特にどこかを痛めるような事をしていないし・・もしかしていきなりの風邪みたいな病気だろうか?
「大丈夫か、ミケ。顔が赤いし、なんかぼーっとしているけど・・」
「一度どういったものか分かった階層は次挑戦しても瞬殺ぢゃから、体調がすぐれないんぢゃったら一旦村に戻って、玉で静養するかの?」
「にゃっ!?だ、だ、大丈夫にゃ!どこも悪くにゃいのにゃっ!」
「そうは見えないんだけど・・・」
「・・・・・」
「そ、それよりもっ!次の階層にとっとと行くにゃっ!」
なにかを誤魔化すみたいに、珍しく先頭を切って魔法陣へ足を踏み入れるミケ。
まあ本人が大丈夫って言うんだから信じるしかないかな。
「・・・ミケがあんな感じになったのは、小屋に辿り着いてからぢゃよな?」
「うん・・。確か熊軍団と戦っている時までは、あんな感じじゃなかったと思うんだよな」
「となると・・・それから今までで変わってしまったということぢゃな・・たしかモリーにお姫様だっこ・・・されていただけぢゃな・・」
「だな」
結局ワシにはミケがどうしてこうなったかが分からなかったんだけど、タマキのほうは「う~む」とか「いや、まさか・・」とかなにか一定の推測が出来たみたいだった。
「なぁタマキ・・なんか分かったんなら、教えて欲しいのだが・・」
「・・う~む・・まあウチの予想が当たっておったらこれからのウチらの人生に関わる事ぢゃし・・・モリーも知っておいた方がよかろ。とは言ってもウチの勝手な推測にすぎんからの」
なんかすごい重大な事を発表されそうな雰囲気だ。
「多分ミケは・・・お主に惚れちゃったんぢゃろ」
・・・ちょっと何言ってるんだかわからない。
「・・タマキ・・いくらなんでもそれはないんじゃ・・」
「いやいや、よく考えれば不思議ぢゃないのぢゃ。ミケはああ見えて今のウチらよりは年上の結婚適齢期ぢゃし、女と分かってからもう数カ月が過ぎようとしておるのぢゃ。それに近くにいる男は料理上手の優良物件ぢゃ。女としての本能がさっきのお姫様だっこで目覚めたんぢゃなかろうか」
タマキの説明はそれなりに説得力があった。
しかしワシにはどうしてもピンとこない。
前世で女運が無かったのがいまだに尾を引いているんだろうか・・?
「ま、あくまで推測ぢゃからの。当たっていようが外れていようが、ミケの方も自分の心の準備が出来れば今回の件について何か言ってくるぢゃろうしそれまでは放置するしかなかろ」
「そうだな」
「ぢゃがなモリー・・・。ミケがお主を好いているのならば別に娶っても構わんのぢゃ。ミケの人となりは分かっておるし、ウチもミケが好きぢゃからの。反対する理由もない。お主もミケが嫌いなわけぢゃあるまい。ま、もっとも今でさえ家族のような関係ぢゃから変わるのは夜だけぢゃがの」
お主がしんどくなるだけぢゃからがんばってくれ、と若干悪戯っぽく言ってくるタマキ。どうやらミケを嫁として迎えてもタマキの求めてくる回数はかわらないっぽいな・・・一夫多妻制とはいえワシ、過労死せんだろうな・・・。
そんな気の早い未来を語りつつ、ミケに続いてワシらも魔法陣へ足を踏み入れた。
・ ・ ・ ・
「ここは・・家の中か?」
「どうやらそのようぢゃのう・・。ということはここはセーフティーゾーンということぢゃが・・」
なんとも質素な場所に出た。
簡単なキッチンとテーブル、そして部屋の隅にはベッド。
窓はあるけど外は真っ暗で何も見えない。ドアの類は見当たらない。
そして狭い・・。
密室にも程がある。
それでも室内は明るい。蝋燭がないということは魔力電灯の類か。
そして壁の一角に描かれている魔法陣が白く光っている。
「敵が入ってこれないどころか、ワシらも外には出られないんだな」
「ふ~む・・ウチも知識としてはしっておってもセーフティゾーンに入るのは初めてぢゃからの。こういうものといわれれば納得するしかないが・・・不便ぢゃのう・・。これではダンジョン内で籠城しようにも結局手持ちの食糧が尽きればどうしようもないってことぢゃな」
アメ部分であるセーフティエリアにも長居させない工夫とは・・やるな、ダンジョン!
ともあれせっかくの魔物が出ない階層。しっかり休むに限る。
玉の屋敷とは使い勝手の違うキッチンで先程狩った熊肉を料理し食事にする。
ここまでたいした休憩もせずに一気に来たが、おそらくもう晩飯の時間と言っても過言ではない時間だと思う。なんかダンジョン攻略にワクワクし過ぎて腹が空いているというのを感じないし、疲れも感じないから時間感覚もない感じなんだよな。
食材は用意されていなかったが、食器類やら調理器具は揃っていた。食器類にいたってはなぜかぴったり三人分あった。もしかしたら入ってきたパーティーメンバー数と同じ数を用意してくれたのかもしれないな、ダンジョンが。
飯を食べ終わるともう寝るだけなんだけど、どうも知らず知らずテンションが上がっていたらしく眠くならない。
しかたなしに第二、三階層の元ネタであるであろうホラーな物語を二人に話す。
しかし残念なことに恨みがあるとか骨肉の醜い争いぐらいは分かってもらえたみたいなんだけど、ところどころ通じないところも多々あった。
ホッケーマスクとか遺産相続とかはやはり通じないか・・・。
伝わらないなりに話し終え、ぼちぼち一寝入りするかとなった。
ベッドは計ったように三つある。
いつもなら同禽してくるタマキはさすがにミケがいるからなのかそそくさと右側のベッドに入ってしまった。
さきほどの階層から様子がおかしいミケも話が終わるとすぐに左側のベッドにもぐりこんでいる。
必然的にワシが入るのは真ん中のベッド。
てっきり真ん中はタマキが入ると思ったんだけどな。まあいいけど・・。
ベッドに入ると、テンションで誤魔化していたらしい疲れがすぐにやってきた。まぶたが重い・・。ほぼアイテム拾いしかしてないけど疲れてたんだなぁ・・。
その睡魔に飲まれるように、そのままワシの本日の行動は終了した。




