一〇七 日本家屋の白マスク
一階層から二階層に来た時同様、この三階層に足を踏み入れればまた全く違う景色が広がっている、そう信じていたのに・・。
先ほどとは場所は違うみたいだし、幾分明るさもあるんだけどやっぱり暗い場所に出てしまった。
しかも相変わらずバットはひっきりなしに飛んでくるし、後退しようにも森は見えない壁で入れないようになっている。
仕方なく前方に見える建物まできてみたんだけど、ここ崖の上の出っ張ったとこにあったのね。まあ崖って言っても二、三メートルしかないんだけど。
建物の向こうは何も無く水平線さえ見える。日の出とか日の入りとかものすごくいい景色が見られそうだ。
しかし残念なのはそこに広がるのはどうも海とか湖ではない。どうもこの濁り具合からいって沼だろう。
そしてワシはその沼のあちらこちらに見える生えているモノに戦慄を感じる。
あれは・・・流して見れば水草のようなものが生えているようにもみえるんだけど・・・じっくり見ればあれは・・脚・・か?
「・・ここも不気味ぢゃのう・・早いとこ屋敷に入ってみようぢゃないか」
「・・そうにゃあ・・沼から脚が生えているにゃんて不気味の極みにゃあ・・」
元ネタを知らない二人は普通に気味の悪さを覚えたらしい。
二人に急かされて屋敷に入って行く。
ワシは二人が感じた気味の悪さも覚えながら、二人とは違う気味の悪さも感じていた。
家の中は二階層とは違い人形達のお出迎えなんてものはなく、代わりに出迎えてくれたのは虫の群れだ。
ゴキブリに蜘蛛・・魔物化しているとはいえあまり見ていて気持ちのいいもんではない。
この状況でワシは、そういえば森の中で見たゴキブリとここのゴキブリって違うんだな、そういえば家の中のゴキブリのほうが自然の中のゴキブリより汚いんだっけとか、ジョロウグモってたしかゴキブリを食ってくれる益虫だったよなとか、前世知識を懐かしみながら思いだしている。
虫達に加えていつのまにか混ざってきた毒もちのネズミまで出てきているこの状況でなぜこんなことになっているか・・・それはもちろんやる事が無いからだ。
階層が変わってもワシのやることは変わらない。安定のドロップ品集めのみ。
一方のタマキとミケは生き生きとして殲滅作戦を実行している。
あの二人の中にわざわざ割って入ろうとは思わないけど、これってこのダンジョンに居る間にワシ戦いをするっていうイベントはあるのかね。
出迎え軍団殲滅のあとは、前の屋敷と同じように各部屋チェックに移行した。
前のは市松人形とかもあったけど、全室洋室だったのに対して、今回は掛け軸あり箪笥あり畳ありの和室が多い。台所であったところ以外にフローリングはないし、厠も和式である。
見た事のない様式の内装に興味津津の二人とは違い、ワシにとっては懐かしさしかない。
死ぬ直前にはちゃんと洋風の内装にリフォームした家だったけど、人生のほとんどは和風家屋で暮らしていたからな。とはいっても世界を放浪してたからちゃんと住んでいたのは少年時代と店を本気でやっていた四十代ぐらいだけだけど。
部屋を開けるたびに魔物が飛び出してくるのだが、すべからく上半身のみの人であったものだった。
あきらかに都市伝説のテケテケである。テケテケにまざってちらほらカシマさんの姿もある。ま、まあ同じような都市伝説だから一緒に出てくる分には違和感はそこまでない。一番の違和感は電車のないこの世界ではそもそも存在し得ないんじゃないかという事だろう・・・。
・・・今ちょっと思っちゃたんだけど、まさか沼に刺さっていた脚ってこいつらの脚じゃないだろうな・・。あれはただのオブジェ。そう信じたい。
そうこうしている間に最後の部屋に入ってきたわけだが、ジェイソンの時と同じように部屋の真ん中に一人鎮座している先客。
畳の部屋、紋付袴、正座のザ・日本人。しかしその顔は予想通り白いマスクで隠されている。
「なんというか・・屋敷には似合っておるが、また珍妙な格好をしておるのぅ」
「あれは、ほらタマキがムラマサさんの服を複製しただろ?あれの男版とも言える和服だよ。あの座り方は正座といってタマキたちに教えた護身術の構えにもある座り方だよ」
「なんと!そうであったか。その護身術はまた今度教えて貰うとして、モリーもあの服を着たいかの?なんなら作るのぢゃが・・」
「いや・・・別にいいかな・・あ、でも冠婚葬祭に関わるような人脈ができたらお願いするよ。それと下半身の方は袴っていうんだけど、あの護身術に組み合わせば・・」
「あの~・・・二人とも・・そんにゃ雑談どころじゃにゃいんじゃ・・多分だけど、目のまえにいるの階層ボスにゃんじゃ・・そして服装より気にしにゃきゃいけにゃい部分が目立つ場所にあると思うにゃ・・」
ミケが顔部分の白マスクを凝視しながら言う。
おっとそうだった。呑気に護身術における袴の有用性を語っている場合じゃなかったな。
しかし相手はこんな隙だらけ状況にも関わらず、一向に襲ってくる気配が無い。正座を崩さず、こっちをじっと睨んでいる。
さすが階層ボス、慌てず騒がず貫禄と言ったところか・・・・ん?なんか様子が・・・ぷるぷるしてる・・?
よく見れば若干涙目?・・・・・もしかしてこれ足がしびれて動けないってだけなんじゃ・・?
そんな風に観察していると、白マスクの脳天に稲妻が落ちた。
その慈悲のない急所攻撃に一瞬目を見開いたかと思ったら、次の瞬間光となって消えて行く。
放ったのは言わずと知れたタマキなんだけど、彼女に悪気はない。なぜならダンジョンで相手が魔物だからな。
足だけじゃなく全身が痺れて死ぬという無惨な最後になった彼の居た場所にはフィギュアと魔法陣、そして今のではない時代の金貨が十枚程度落ちているだけだった。
◆今回のフィギュア収穫◇
カシマレイコ
テケテケ
デビルコックローチ
アラクネ
ジョロウグモ
ポイズンマウス
スケキヨ




