一〇五 豚の兄弟の災難
いつものことながら一歩踏み入れると全く違う景色が目のまえに広がっている。
のどかな風景が広がるそこには向こうの方に三軒の家がある以外の建造物はみあたらない。
「にゃんともいい所にゃのにゃあ」
「そうぢゃの・・。ちと前のダンジョンが過酷な砂漠ぢゃったから気が抜けたのぢゃ」
二人からはそんな声が聞こえる。
たしかに前回の砂漠とピラミッドに比べれば平和すぎる。
むしろここまでの道中を思わせるなにもなさだ。
「しかし、しっかりダンジョン内だからな。後ろは見えない壁で進めないし、ちらほら魔物もいるし」
「まあ、昔の人が潜った事もクリアしたこともあるレベルぢゃろうからこの階層はそこまでのもんでもあるまい」
そんな感想とも会話ともとれるやりとりをしながら、おそらく進行方向だろう家の方に歩みを進める。
道中出てくるのはお馴染“ワー”のつく犬やら猫やらスライムたち。
ワシら三人組には今やなんの障害にもならない。
軽くいなして進んでいくのだが、どうも家に近づくにつれて“ワー”の種類が減っていくようだ。
そしていつのまにやらワーウルフ以外の魔物が出てこなくなった。
そしてその量たるや、いままでの数倍という量である。
「・・・不自然にゃ」
「まあ、ダンジョンぢゃからという理由で無いと言う事はないんぢゃが、露骨ぢゃなあ」
「このパターンだとおそらく家に近づけたくないってことだよなぁ」
各々ボスが近いんだろうと感じつつ、ワーウルフの軍団の中を無双する。
いくら量がいようとエジプトの神々やアマゾネスのような強者ではないので、何の問題もなく進む。
ほどなく家の前についた。
見立て通り三軒並んで建っているが、建材は違うみたいだな。
右から藁、木、煉瓦でつくられているな。
「さて、どうするにゃ?」
「一軒一軒入ってみる?ドアもあるし」
「それとも藁製と木製の家は外から燃やすかの?そうすりゃ中に何が居るか分かるぢゃろうし」
「・・その場合はにゃかに居るにゃにかの焼死体にゃ・・・あ。ここはダンジョンだから魔物しかいにゃいからドロップ品にゃ」
ミケも大分タマキの破天荒さに慣れたなぁ・・。
出会った頃にこんな事を提案したらおそらく絶句してしまっただろうに。
そして外ではそんなことするなよタマキ・・。それただの放火だからな。
「それでいいかの、モリー?」
「ああ。いいんじゃないかな。三軒目の煉瓦の家にいる何かの手がかりになるかもしれないし・・」
「ぢゃ、ほれ」
まるでおかずを分けてあげるみたいな気軽さでタマキが魔法を放つ。
タマキにしては威力の小さな火の魔法。しかし相手は木と藁。
おお・・燃える燃える・・。
燃える物が無くなってようやく鎮火したころには、そこには建物があったという痕跡さえもなくなっていた。
唯一残っていたのは、おそらく中で待ちかまえていただろう魔物のドロップ品。
どちらの家の跡にも豚肉が転がっている。
「・・豚肉だな」
「ということはオークかなにかが居たということぢゃな」
「オークですかにゃあ・・まあ普通のダンジョンはこのレベルにゃ。いままでのダンジョンが規格外にゃ」
「では残りの煉瓦の家もオークかの?モリー、どう思う?」
「え、あ。うん、多分そうだと思うよ」
「?どうかしたかにゃ?にゃんか引っかかる事でもあったかにゃ?」
「うん。ちょっとね・・」
ワーウルフ・・オーク・・三軒の家・・藁・木・煉瓦・・・。
これらが登場する物語をワシは知っている。
登場人物が魔物になっているけど、これってあきらかにあれだよなぁ・・。前世の物語『三匹のこぶた』。
西遊記があったんだから、あってもおかしくはないけど・・。
「辺境ダンジョンと同じようにこの状況にそっくりな物語を知っていたから引っかかっただけだよ」
「なるほどのう・・。その物語はまた今度きかせてもらおうぢゃないか。で、モリーはこの煉瓦の家の中に何が居るか分かるのかの?」
「確か物語では一番頭の良いのが煉瓦の家を作っていたはずだから、前二軒のがオークだとすればハイオーク辺りかと・・」
ワシの予想を聞くや否や、タマキが結果発表ぢゃとかいいながら玄関のドアを開ける。
そこには案の定、突進態勢を整えて今まさにこっちに走りだそうとしているハイオークがいた。
しかしハイオークが走り出すことはなかった。
正解を確認してすぐ、ミケが家の中に走り込みいまや切り裂きに似たひっかき攻撃でちょっといい豚肉に姿を変えていた。
物語通り煙突からの侵入に備え火をくべていた暖炉の前には魔法陣が浮かんでいる。どうやらこいつが階層ボスのようだ。
「どうやらモリーの考えていた通りのダンジョンだったということぢゃな。存外に早く攻略できたから、先程言っていた物語の内容を聞いてから次に行こうぢゃないか」
「賛成にゃ。ボクもこの状況に合う物語にゃんて聞いた事がにゃいから楽しみにゃ」
家の主を失ったリビングで『三匹のこぶた』の物語を話すワシ。
その話の内容を感慨深そうに聞いている二人。
なんか図書館で読み聞かせをしている気分だよ。
「その豚はにゃんというかすごくかしこいにゃ」
「そうぢゃの。オークなんかと一緒にしてはいかんのぢゃ。あいつらはどうしようもなく阿呆ぢゃからの」
物語を感心しながら聞いてくれている二人。
たしかこの物語は『もの作りには時間や手間をおしむな』とか、『勤勉な者ほど大きな結果を残す』みたいな教訓が入っていたな。
その辺も伝わったように見えるしなによりだよ。
一通り話し終えたところで次の階層への魔法陣に足を踏み入れるのだった。




