一〇一 妖刀が斬ってきた者
「・・・・・・」
いきなり現れた黒髪美女に目を奪われてしまう。
決して裸だからではない。
どういうものかは大体わかっているさ。ようするにメイと同じでアイテムにとり憑いる魔物といった事だろう。つまり日本で言う所の付喪神である。
そういうことが分かっていても、驚きを隠せないほどの美女である。
片目が目隠れになっている顔は言わずともがな、スラリと伸びた手足・身長、豊かな胸、風になびきそうな綺麗な黒のロングヘアー・・・TVでは見たことあっても、こんな美女実物見た事ないぞ。
「・・・あの、モリーさん?私との初顔合わせの時より長くありません?」
はっ!?時と場所を忘れていた・・・。
隣で一緒に見ていたメイの視線が痛い。
表情に乏しいはずなのに、なんか最近は特にメイの喜怒哀楽がよくわかるんだよなぁ・・。
「・・キミが新しいマスターか?・・」
黒髪美女が問いかけてくる。
見かけによらないハスキーボイスだ。
「マスターっていうか・・拾って使おうとしているのは確かにワシだけど・・」
「・・そうか。あまりの若さに驚くが、私のいわれは知っているか?」
「いわれ?それは妖刀村正についてのいわれと言う事でいいのかな?」
「そうだ」
「ワシの知識があっているかどうかは微妙なんだけど、確か時の権力者や実力者を多数葬ったとかいう逸話があるとかって聞いたことがあるな。それでその一族と言うか縁の人が妖刀として恐れたんだっけか」
あくまで前世でだけど。
「ほぅ・・よく知っているな。ちなみにだが、誰を殺ったかとかは・・」
「それはちょっと分かんないです。この世界に生まれて十年とちょっと経ちますけど、人との交流がほぼ無い生活だったから伝聞とかは分からないし、大量にあった図鑑や書物にも妖刀村正に関する事は無かったからなぁ」
「それにしては、私のことを知っていたようだが・・」
「貴女の事とは関係ないかもだけど、ワシの知識にあった妖刀村正のイメージを言っただけだから。たまたま一致しちゃったみたいだけど」
「聞いていいか?ちなみにキミの知識の私は何を斬って、何に恐れられたのか?」
「確か・・数々の戦場で数多の首印を挙げたとか、研ぐ際に余りの切れ味に研ぎ師が手を血まみれにしたとか聞いたけど、具体的には覚えてないんだよ。恐れたのは沢山いるらしいけど、一番有名なのは三つ葉葵の徳川一族だったかな。ちょっとうろ覚えなんだけど・・」
前世の少年時代にちらりと知識を入れただけだから記憶も怪しいのだが・・。
なんたって刀剣の類だからな。当時もあんまり真剣に興味を持たなかったし。
妖怪の一種とかだったらもっと興味を持って調べたんだろうけど。
そう考えると、やっぱりワシは生まれる時代を間違えちゃったよな。
死ぬ間際になって擬人化ブームが来た揚句、その中には刀もあったわけで・・・。
「それは・・・間違いなく私じゃない。数多の首印を挙げたっていうのも、切れ味鋭いっていうのは当たっているが・・誰だい?ミツバアオイのトクガワって?」
どうやら前世の記憶と現実の事象は違ったらしい。
「ちなみにえーと、・・なんと呼べばいい?」
「好きに呼んでくれて構わないが」
「じゃあムラマサさん。斬ってきた人たちってどんな人たちなの?」
「ん?そうだなぁ・・人だけに限定すればそんな名のあるのは斬ってないぞ。せいぜい盗賊とかぐらいだな」
「え?じ、じゃあ何を斬っていたの?」
「英霊だ」
「エイレイ?」
「つまりは英雄の霊が実物化したものだ。皆すべからくおかしな格好をした奴らだったが魔物の一種ということらしい。魔術・武術に秀でていて一騎当千の強者、でも魔物ということで当時討伐隊が何隊も組まれ立ち向かったのだが返り討ちにされて・・・そこでせめて武器の性能だけでもってことで当時の最高技術や強大魔術、その他諸々を継ぎこまれて作られた武具の一つが私だ」
英霊ってつまり過去の英雄か。
伝奇ノベルにあったな。そういったのを召喚して聖杯を奪い合ったりするのをやったことがあるわ。
そしてどうもこのムラマサさんの他にもあるらしいな、夢幻級の武具。
当時の技術がなんとなく現在の技術以上のような気もするなぁ。だって今の技術で出来ないから夢幻級なんだろうからな。
「数えきれないほどの英霊討伐に駆り出され、斬った。その甲斐あって英霊騒動は終息したが、そうなると強すぎる武具は危険な存在になった。破壊しようにもそれが出来ないが故の夢幻級・・もったいないのが先に立つ。そんな時に吸血鬼騒動が起こりこれ幸いに駆り出され、そのまま置いて行かれて現在に至る」
つまりは厄介払いというわけか。
「ちなみにその英霊の名前って?」
「全ては覚えてないが・・面白い髪型をしていたノブナガとかヒデヨシとか特徴的なのは覚えているな。なんの英雄なのかは知らないが」
なぜここでその名を聞くことになったんだろうか・・。
ま、まあいいか。彼らも魔王だの妖怪だの言われていたし・・居てもおかしくないの・・か?
それにしてもワシの前世で言う所の英雄も出てくるのか。
「で、でも全て討伐したんだろ?会う事はなさそうだな・・」
「ん?そうでもないぞ。戦の最中に周りの兵士が言っていたが、あの英霊というのは数百年周期で復活するらしい。あまり詳しい事は分からないが」
出会うチャンスはあるらしい。
「それはともかく、だ。お主が新たなマスターならば古の倣わいにより血の一滴を貰い受ける。が、その前に―――」
ムラマサさんがじっとこっちを見つめてくる。
そして発した言葉はなんというか、この状況下でいわれやら英霊のことなんかよりもよっぽど不思議で疑問な事柄だった。
「なんで私、人の形して全裸なのだ?」




