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第七十七部 ルナフォース計画。おっと、シリアス入ってきますがコメディですので!

 ショッピングモールから帰宅後、俺はすぐに風呂に入りそのまま寝てしまった。

 ラスティナは俺の心中を察しているのか、黙って添い寝してくれる。


 生徒会長にフラれた。

 以前の俺ならば、男にフラれてなんで落ち込まねばならん! と思った筈だ。

 でも……俺はもう女なんだという事を嫌でも思い知らされる。俺、本気で生徒会長に恋していたんだ。


 あかん……これはBLか? でも俺は元々女って設定だし、ギリギリBLには入らない筈……。



 そんな事を考えながら朝まで熟睡。

 

 そして異変はその日から始まった。




 ※




 《4月29日 月曜日》


 新たな一週間の始まりを知らせる、朝一の目覚まし時計。

 むむ、五時に設定していた筈なのに、時計の針は六時を指している。うーん、六時に設定しなおしたのかな。昨日結構、俺落ち込んでしまったし。


 でも、いつまでも気にしてるなんてダメよ!

 今日から本格的に花見大会が始まる筈だし、桜の木の下で変な事してる奴見つけたら取り締まねば!


 そう、風紀委員会として本格的に……


「ぁ、おはようございます」


 二段ベッドの上から降りてくる空たん。

 むむ、今日はジョギング行かなかったのか。


「おはよう、空たん。今日は遅起きだな」


「……そうですか? 私、いつもこの時間に起きてますよ?」


 あれぇ、そうだっけ。

 っていうか空たん……なんで敬語?


「空たん……どうしたんだ? いつもみたいにフランクにタメ口でいいのよ」


「いつも……? 私、いつのまにか戸城さんにそんな馴れ馴れしく……していましたか?」


 ん? んん?


 なんか……空たんがおしとやかな……いや、いつもおしとやか? だけど、今日は一段と何処ぞのお嬢様みたいに見える。


 ま、まあそういう気分なだけかもしれない。空たんも人間なのだ。半分はFDW混ざってるけども。


「戸城さん、良かったら朝食の前にシャワーいきませんか? 暖かくて汗かいてしまって……」


「おう、いいぞ。じゃあ早速……」


 と、タンスから替えの下着を取る俺。

 昨日買ってきたばかりのオニュ―下着! 早速使ってやるぜ!


「まあ、戸城さんったら。そんな可愛い下着いつのまに買ったんですか?」


「……あ? いや、昨日空たんと一緒に買いにいった奴だし。というか空たんが選んだんだぞ、コレ」


「昨日……? 昨日、私はずっと寮に居ましたよ?」


 ん? んっ? んんん?


 この子何言ってるん? あれ? 間違ってるの俺? 昨日の出来事は夢だったのか?

 という事は……生徒会長にフラれたのも……夢?


 はっ! こんな時のラスティナだ!

 おい、ラスティナ! おはよう!


『おはようございます。そして梢さん、緊急事態発生です。またあとで詳しく説明するので……今はその空さんに合わせてください。多少違和感感じても無理に追及しないようにお願いします』


 ん? なんかラスティナの声だけ聞こえてくる……。

 姿をみせい!


『すみません、緊急事態につき、今ちょっとこの学園のセキュリティを問い詰めてる最中です。ではのちほど!』


 え、何、どういう事?


 緊急事態って……それに無理に空を問い詰めるなって……どういう事?


「戸城さん? どうしました?」


「あ、あぁ、いや、なんでもないぞ! じゃあシャワーいくか。キャッキャウフフしようぜ!」


「ふふ、戸城さんってば」


 あかん、なんか空たん可愛い。

 こんな状態の空たん見るの、初めてじゃないか?

 最初は結構ツンケンしてたし、東京行って空たんの正体カミングアウトされてからは結構打ち解け合ってたし……。


 いい友人はいい距離感……とはよく言うが、たまにならこんな空たんも……


 

 そのまま部屋を出て大浴場へと向かう途中、寮内に珍しく学校のお知らせ放送が響き渡った。


『アー……マイクテス、マイクテス、皆さん、おはようございまス。寮監のクリスでス』


 むむ、クリス先生!

 どうしたんだい? 


『本校の校舎のガス管に亀裂が見つかり、そこから多少のガスが漏れてるそうデス。人体に直ちに被害が出るレベルではありませんガ、保全の為、本日は学校ヤスミでス』


 え、ガス管に亀裂?

 マジか。それがラスティナの言ってた緊急事態?


『シカシ、外出は禁止とシマス。校舎に近づかなければ何してもイイですガ、ハメを外し過ぎないように』


 何してもいいって……相変わらずアバウトな指示だな……。


『では以上デス。男子寮に遊びに行く際はバレないように』


 おおい! 最後の絶対いらないだろ! それ遊びに行けっていうフラグになるぞ!


「今日学校休みなんですね。でも外出も出来ないなら……退屈ですね、戸城さん」


「うむぅ、そうだな……。みんなでトランプでもするか……」


「ぁ、いいですね。ちょっと修学旅行気分にしちゃいましょうっ」


 キャッキャと喜ぶ空たん。

 むむ、しかしガス管が緊急事態なら、空たんのこの状態はなんなん?

 なんか関係あるのか? まさかそのガスの影響で空たんの頭が……いやいや、そんな危険なガス、学校に張めぐされてるわけ……



 そのまま大浴場の脱衣室へと行くと、そこには先客が。

 むむ、あれは花京院 雫!


「おっす、花京院 雫。お前もシャワーか?」


「あら、ごきげんよう。戸城さん」


 ……ん? ご、ごきげんよう?

 何その挨拶。ここは日本だぞ!


「花京院 雫……なんか変なもんでも食ったのか?」


「突然何かしら。私、何か変ですの?」


 ですの?

 あれか、デス〇ート的な……


 いやいや、どうしたんだ、花京院 雫。

 お前確かにお嬢様だけど、喋り方はフランクだったはずだ! その辺の男子を怯えさせる程に!


「あら、猫屋敷さんもごきげんよう。二人とも仲が良くて羨ましいですわ」


「ふふ、戸城さんは私の妹みたいな物ですから。可愛らしいです」


 いいながら俺を後ろから抱っこしてくる空。

 な、なんだ? 違和感凄いぞ! 空たんってこんな子だったか?

 こんなあからさまにボディータッチを……いや、胸揉みしだかれた事はあるけど、それとは別の意味合いで……


 おかしい、なんかおかしい。

 空たんも花京院 雫も、記憶が改ざんされたかのような……


 ん? 記憶を改ざん……


 なんか最近、そんなワードを聞いたような……


「そういえば、今日学校休みなのですね。お二人はどうしますの?」


「ぁ、あぁ、俺達は皆でトランプでもしようかなーって……」


「楽しそうですわね、私もご一緒しても?」


「あぁ、勿論……」


「ありがとうございます。それと戸城さん。一人称、俺なんておかしいですわ。ちゃんと、私って言わないとダメですよ?」


 あ? いやいや、俺はいつも俺じゃん!


 いや、待て、もしかして……


「なあ、花京院 雫。俺……元男なんだけど、覚えてるか?」


「……はい? あはは、戸城さんってば。そんな冗談いう方だったんですね? そんな立派な物をお持ちの方が元男だなんて……新手の冗談にしては、工夫がたりませんわよ」





 ※





 シャワーを浴び終え、体操着姿の楽な恰好で女子寮の一角に集まる女子達。

 みんなでトランプしたり、UNOやったり……マジで修学旅行気分だが……


 遊びながら俺は周りの女子達に話しかけ、現状をほぼほぼ把握。


 いや、把握と言っても、こんな状態になっている原因まで理解したわけじゃない。


 女子達は……全員、俺が元男だという事を覚えていない。というか、最初から俺は女子として入学した事になっている。


 なんだ、コレ。

 なんでみんな忘れてるんだ? 俺は元々男子として入学して、入学式のあの日、作り替えられて女子になったという事実を……


「ちょ、ちょっと俺トイレ」


「ぁ、じゃあ私も」


 むむ、光……!

 こいつまで俺が男だと言う事を忘れている。なんでだ。一体何がどうなって……


 そのままトイレへと向かう俺達。

 光はまるで女の子を扱うかのように、俺と手を繋いでくる。


 いやいやいやいや! 本物の女の子でも、トイレに行くとき手つないでいくのか?!

 女子高生ってそうなの?! いや絶対違うだろ! 俺は女子寮に入って学んだ! 女子って男子よりもある意味逞しいっていうか、男子の目が無い時の女子って、かなりワイルドっていうか……


「梢、不安?」


「……ん? 何が?」


「……いや、何でも……」


 ん? んん?


 あれ、こいつ今、俺の事……梢って。

 周りの女子達は皆、俺の事を苗字で呼んでくる。まだ出会って一か月も経ってないから当然かもしれないが、それなりの交流があって名前で呼び合う様になった。その交流が丸々無かったことにされているような感覚。実際、花京院 雫も空たんも、一緒に東京に行った事を覚えていなかった。


 でも光は今、俺の事を名前で……


 もしかしてコイツ……


「光……実は俺……アレがまた生えてきたんだ」


「……?! え、えええええええ?!」


 バッと手を放して距離を取る光。

 おおう、そこまで引かれるとすげえショック……。


「光? なんでそんなに引くんだ?」


「だ、だだだだだって! アレって、アレだよね? あれが、またって! もしかして梢……戻ったの?! 男の子に戻っちゃったの?!」


 やっぱり……コイツだけ、俺が元男だってことを覚えてる。


「フフフフ。引っかかったな、光! 生えてなどいない! 安心せよ!」


「え? ぁっ……」


 途端に顔を真っ赤にして俯く光。

 フフ、少し変なカマかけだったが仕方ない。


「光、お前も……気づいてるよな? この変な状況」


「……ぅ、ぅん」


「何がどうなってるんだ? なんで皆……」


「……わ、わかんない……」


 手で顔を隠しながら、指の間からチラチラ俺を見てくる光。

 もしかして疑ってるのか?


「ほら、よく見ろ光。生えてないぞ」


 ジャージのズボンを降ろして証拠を見せる俺。

 光は「何してんの?!」と言いながら俺のジャージを上げてくる。


「そ、そんな事疑ってないし! 梢は女の子! 分かった?!」


「お、おう。んで、なんか皆の記憶が……」


「ごめん、私にも分かんない……」


 ふむぅ。わかんないのか。

 無事なのは光に……あとはラスティナか。

 二人ともFDWだからかな……。



 ん? あれ?

 コレってなんか不味い気がする。

 俺が光の事をFDWだと気づいている事は、光には秘密だ。

 

 FDWだけは無事。もしこの事実に俺が気付いてると光が悟ってしまったら……。


 いかん、この話題はここまでだ。

 ラスティナが深く追求するなというのは、もしかしたらこういう事だったのかもしれない。

 校内には人間と偽って入学してるFDWは、まま居る(らしい)。


 なら……俺が切っ掛けでそれがバレてしまったら……可哀想だ!


「光……、俺が元男ってこと、みんなにはバラさないように」


「え? う、うん、別にあえて話す事でもないし……」


「うむ。俺としてはこちらの方が住み心地いい気がする。もう、だいぶ女になってきたからな。あぁ、中身の話な」


「そうなの?」


 うむ。

 だって……


「俺、生徒会長に告ったんだ。フラれたけど」


「……は?」


 ってー!

 なんか光から凄まじい殺気が! え、ど、どうした光たん!


「梢……生徒会長に告って……フラ……れた? あの野郎……」


「ちょ、ちょっと待て光! 何殺気立ってるんだ!」


「こんな可愛い梢を振るなんて……! 許せない! 五発ぶん殴ってくる!」


「五発も!? 落ち着け光!」


 どおどお、と光の頭を撫でまわして落ち着かせる俺。

 

「うぅ、梢可哀想……でもいいのよ、男なんてそこら中にいるし、いい人まだ沢山いるから!」


「そ、そうだな」


 生徒会長よりいい人か……居るんだろうか、そんな人。

 俺は本気で生徒会長の事……いやいやいや、もう忘れるんだ! そして俺は男……いや、女?

 あれ、どっちだっけ……なんか……


「……梢?」


「……あれ? 私……あ、トイレでした。いきましょう、光さん」





 ※





 《学園のセキュリティコア内》


 私はラスティナ。ソフィアの十五人の子供の内の一人。

 ソフィアのコピーを元に作り出されたハッキングに特化したAI。あの五十年続いた世界大戦の引き金を引いた、そのAIの内の一体。


 うん、私は覚えている。やはりこれは人間にのみ作用するようだ。FDWには無害か……いや、まだ分からない。私も何等かのバグが発生するかもしれない。


『どうだラスティナ。セキュリティコアに不備は?』


「今の所ありません。しかし……これはもはや連邦軍に通報レベルですよ。生徒の記憶が改ざん……おもに入学してから、今までの記憶の中で……特に梢さんについての記憶が改ざんされています」


 月面基地からのルナフォース照射が行われたのだ。恐れていた事が起きてしまった。

 ルナフォース計画、かつて世界大戦時に計画だけされて実行には移されなかった。その理由は非人道的だから。


 ツッコミどころ満載だが、今は気にしないでおこう。

 そしてそのルナフォース計画を建てたのはレクセクォーツ。あの大企業が何を考えていたのかは知らないが、それがこの学園へと照射されてしまった。


「人間の記憶を改ざん……例の人体実験で脳の解析は進んだのは事実ですが、そんな事、可能なんですか?」


『可能だ。人間の顕在記憶はエピソード記憶と意味記憶があるのは知っているな?』


「エピソード記憶が経験や思い出、時間と場所を関連付けた個人の生活史。意味記憶が資料的知識でしたっけ」


『そうだ。今回はエピソード記憶を書き換えられたわけだが、心的外傷後ストレス障(PTSD)害などの治療でピンポイントに記憶を消去する薬剤がある』


「それは……情動と結びつく記憶が再生される記憶を抑制するって奴でしたっけ……?」


『そうだ。今回の照射で、生徒のナノマシンにそれらの情報を書き加えた上で操作したのだろう。FDWが無事なのは、そもそも脳が別物だからだ』


 つまり……最初から人間にしか眼中になかったって事か。

  

「しかし……今回のこれが一体なんの意味が? 犯人はアナニエルでしょうが、目的がいまいち……」


『現在、アナニエルの軍事AIがこの学園にいるくらいには、あの会社はよく分からんな。恐らく過激派が行った強行策だろう。戸城梢を手に入れる為のな』


「つまり……これからまだ梢さんに何かしてるって事ですね。上等ですよ。こっちには軍事AI二基が梢さんの奴隷も同然の状態。それに加えてソフィアの子供達の内の四基、さらに言えば……アス重工で軍事AIに匹敵すると言われた、かつて戦場を仕切っていた参謀まで居るんですから。来るなら来てみろって話で……」


『そこまで期待されると応えないわけにもいかないが、元々私の役割は生徒の保護だ。ここまでされて黙っていられるわけがない。アス重工の軍を動かすに十分な理由がすでに揃っているのだ』


 アス重工の軍って……連邦軍には報告しないと言う事か?

 これだけの事態を、公けにしないと?


『ルナフォースの存在を一般市民は知らない。というか軍事機密だ。混乱が生じる可能性がある』


「まあ、そのあたりは別にいいですけど……。私は梢さんが無事ならそれで……」


 その時、新たな来訪者が。

 セキュリティコア内に、光さんが入ってきた。


「光さん、どうしました? 何か進展……」


「梢が……女の子になっちゃった……」


 いや、すでに女の子だろ。何いってんのこのAI。


「いや、梢さんなら元々……」


「そうじゃなくて……! 梢の記憶も改ざんされてる! 梢が……男だった頃の自分を忘れちゃったの!」





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