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第六十二話 あの日々に

 

「梢! 頼む!」


 チームメイトからのパスを受け取り、俺はアイツと対峙する。

 そうだ、ここで俺はアッサリこいつを抜いてシュートして……。


 ……なんだ、さっきから。

 まるで俺はこの試合知ってるみたいな……。


「……足、大丈夫か?」


 何となく、目を合わせながら対峙するソイツに俺は話しかけてしまった。

 ソイツは目を丸くしながら、鼻で笑ってくる。


「意外と目ざといな、まあバレるよな、そりゃ」


 いや、バレなかったぞ。

 俺は本当にあんたに言われるまで……分からなかったんだ。

 

 ……というか間違いない、俺はこの試合を知っている。

 

 そのままフェイントを織り交ぜながらアッサリとソイツを抜き去り、レイアップシュート。

 そこで試合終了のブザーが鳴る。


 あぁ、この後……俺はアイツに一方的に喚き散らして……同じ高校に来いとか言われて……


「梢! やったな! ついに……ついに俺達勝ったぞ!」


 全力で喜んでいるチームメイト。

 俺はそんなチームメイト達を順番に眺める。


 いつもリーダーシップを取って、皆を纏めてくれたカツヤ。


 三国志オタクで、戦略を立てるのが誰よりも上手かったセイジ。


 とにかく明るくて、ムードメーカーのサトル。


 その辺の不良より余程目付きが悪くて、でも意外とイイヤツ、トウマ。


 皆、俺の中学時代に欠かせない存在だった。

 最初はバスケ部なんて廃部寸前のサボリ部だったのに、いつのまにか俺達はバスケに夢中になった。


「皆……ありがとな」


 思わず礼を言ってしまう。

 チームメイト達は目を丸くした後、馬鹿みたいに笑いながら俺に抱き着いてくる。

 

「何言ってんだ梢! お前が決めてくれなきゃ負けてたっつーの!」


「そうだゼ、梢殿! お主はやる男だと思ってたゼ!」


「愛してるぞ梢ーっ!」


「……んっ」


 思わず泣きたくなってくる。

 俺は……いつまでもこのメンツでバスケが出来ると思ってたんだ。

 でも高校に入れば皆別々の道に進んで……


 そうだ、俺はひたすらアイツを追いかける事を選んだ。

 結局、実力で勝てなかったアイツを。


 俺は盛り上がっているチームメイトから離れ、ソイツの元に。

 座り込んで痛そうに足首を押さえ、でも爽やかな笑顔を浮かべているソイツ。


「なあ、あんた……桜ヶ台受けるんだろ?」


「おう、良く知ってるな。お前も来るか?」


「……ごめん」


 思わず謝ってしまった。

 だって……俺は……


「……そっか。そうだよな。お前にもやりたい事あるだろうし……いつまでもこのままって訳にも……」


「違う、俺は桜ヶ台に行くけど……たぶん、バスケはやらない」


「……そうなのか? そうか、お前結構……いや、かなり才能あると思ったんだけど」


 よっこらせ、と親父くさいセリフを吐きながら立ち上がるソイツ。

 俺より背が高くて、どこか兄貴風を吹かせてくるソイツの前で、俺は思わず泣いてしまった。

 だって、俺がバスケをやらない理由は……


「何泣いてんだよ、戸城。桜ヶ台行ってバスケやらないっつっても……別に二度とボールに触らないわけじゃないだろ?」


「違う……そんなんじゃない……。俺、あんたに勝ちたかったんだ。今のこのチームメイトで……あんたに実力で勝ちたかったんだ」


 相手は年上の三年だけど。

 俺はどうしてもコイツに勝ちたかった。

 でも結局勝てなかった。


「……戸城、お前のそういう所、本当に尊敬するよ。お前はいつでも本気なんだな」


「……そうなれたのは……あんたのおかげだ。俺だって、あんたの事、ずっと尊敬してたんだ」


「お前に言われると流石に恥ずかしいな……いつも親の仇みたいな目して突っ込んでくる奴が……」


 涙を拭き、鼻水をすする。

 そのまま俺はソイツの手を握り、一方的に握手した。


「ありがとう。俺がこんなにもバスケに夢中になれたのは……アンタのおかげだ」


「……は、恥ずかしい奴だな……真顔で中学生がそんな事言うんじゃねえよ」


 そのまま抱き合い、お互いの健闘を称え合った。

 中学生の試合でこんな事をするなんて思わなかった。

 いや、俺中学生じゃないよな。だって、俺高校生で……しかも女になってるんだから。


「じゃあな、戸城。ほら、早く行ってやれよ。さっきからお前のチームメイト、何か言いたそうにムズムズしてるぞ」


「おう。じゃあ……ありがとうございました、先輩」


「誰が先輩か、同じ高校に来てから言え。桜ヶ台はレベル高いぞ」


 一礼し、チームメイトの元へと戻る。

 再び背中を全員から叩かれながら、俺達は改めて勝利を祝った。

 



 ※




 そう、完全に思い出した。

 俺はソフィア母さんの家のトイレが真っ暗な闇になってて、そこに飛び込んだんだ。ラスティナを追って。


「梢、この後どうする? 皆でカラオケでも行くか?」


「いや、悪い。今日は早く帰ってこいって言われてるんだ」


 チームメイト達に謝りつつ、俺は一人帰宅する。

 電車に乗り、無人駅で降り……ひたすら続く田んぼ道を歩いた先に……我が家はある。


「……ラスティナ、何処に居るんだ」


『呼びました?』


「うぉぁおぁおあぉあぁぁ!!」


 ってー! マジでビックリした!

 お前急に出てくんな!


『何ですか、名前呼ばれたから出てきただけなのに。というか男バージョンの梢さん、本当に抄君ソックリですね。流石双子です』


「あ、当たり前だろ。というか、ここなんなんだ。なんで俺の中学時代が……」


『私も正直信じがたいですが……恐らくこれは梢さんが作り出したシステムリソースです』


「な、なんだって?」


『簡単に言えば……梢さんの領域ですよ。ソフィアが数十年で作り上げた世界観を、梢さんは数秒足らずで作り上げてしまったんです。しかもソフィアよりもかなり高度な純度で』


 よくわからんが……結構凄い事?


『まあ、凄いっちゃ凄いです。梢さん、結構その辺り強いかもしれません』


 どのあたりよ。


『情報技術ですよ。そのおかげで私も迷わずここに来ることが出来ました。あのままだったら……たぶん私、自我を無くして無になってたと思います』


 怖い事言うな。

 で……リアルに戻るにはどうすればいいん?


『正直想像もつきません。人の子である梢さんが作り上げた領域ですからね……下手に綻びを作って脱出……なんてしたら梢さんの脳に障害を残してしまうかも……』


「なんか……そう考えると俺、余計な事したっぽくないか? あのままソフィア母さんの所で大人しくしてれば……」


『いえ、それは私のせいです。綻びを感じて安易にトイレに入った私が悪いんですから。決して梢さんのせいではないですよ。寧ろ、私は梢さんが来てくれたおかげで助かったんですから。でも……もう自分の命を粗末にするような事は止めて下さいね。今回のこれは……たまたま上手く行っただけで……』


「……むふぅ、分かった」


『超不満気な顔ですが、理解してくださって助かります。さて、これからどうしますか? とりあえず梢さんの家行きます?』


 まあ、そうする他ないよな。

 というか中学生時代の俺か。俺の家まで再現されてるのか?


『こんなタンボ道まで見事に再現されてますからね。ソフィアはあの寂しい家だけだったんですよ? それだけでも梢さんがとんでもない事したって分かるでしょ』


「まあ、そう言われると……とりあえず、行くか」


『行きましょう』


 そのまま俺達は我が家へと足を進めた。

 

 しかしこうしてみると……ラスティナって本当にちっさいな。


『うわーん! 梢さんのせいですよ! 私はもっと大人っぽい見た目だったのに!』


「めんごめんご」


『適当っ!?』





 ※





 中学時代の俺の我が家……と言っても大して変わりがあるわけでもない。

 外観はそのまま。正宗の家も当然のように隣に建っている。


「ただいまー」


 俺はごく普通に玄関から家へ。

 すると母親が台所から顔を出し、俺を出迎えてくれる。


「おかえり、梢。試合どうだった……って、その子どうしたの?」


 ……ん?!

 

「……オカンよ。その子とは、もしかしてこの子の事か?」


 そういいながらラスティナを見る俺。

 まさかラスティナが見えてるのか?

 

「他にどの子がいるの。というかどっから攫って……」


「ち、違う! 全然違う! 攫ったわけじゃない! この子は何て言うか……その……」


『私、金鳥医師に頼まれて来ました。よろしくお願いします』


 その時、ラスティナは何故か金鳥医師の名前を。

 すると母親は一瞬、怯えるような顔をし、すぐ笑顔に戻る。


「あら、これはご丁寧に……もしかしてFDWの方? 可愛いわ」


『はい、その通りです。お母様もお綺麗で……』


 なにこのやりとり。

 というか母親、なんで一瞬で理解してるん。


「梢、リビングに案内してさしあげて。すぐお茶とお菓子用意しますね」


『いえ、お構いなく。梢さんもシャワー浴びてきたらどうですか? 汗臭いです』


 おまっ、もっと優しく接しておくれ!

 まあいい。確かに汗かきまくったからな……風呂入るか。




 ※




 ラスティナをリビングまで案内し、そのまま俺は脱衣場へと。

 

「はぁー……おっと、ブラを外さねば……って、俺男やん。不味い……既にブラの脱着が癖になってる……女子化進んでるな……」


 しかしまさか今更、男の頃の追体験をしてしまうとは。

 俺って結構筋肉あったんだな。背も高いし……。


 全裸になりつつ、脱衣場の鏡の前でマッスルポーズを決める俺。

 

「……何してんだ、俺。さっさと風呂入って寝ようかな……」


 そのまま浴室へ続く扉を開けると、なんだか凄い暖かい空気が。

 むむ、既に誰か風呂入れてる?

 

 その時、人の気配が。

 恐る恐る目をスライドさせると……そこには……


「……み、美奈さん?」


「……梢、おかえり。そしてお座り」


 ぎゃー! 美奈が体洗ってる!

 なんでお前、当然のように俺の家の風呂に入ってるねん!

 自分の家あるでしょ!


「す、すまん美奈! 俺出るから!」


「お待ち、梢。いいからお座り」


 な、なんだ、人を犬みたいに。

 そのまま浴室の床で正座する俺。


 ヤヴァイ、美奈は空手の有段者だ。

 俺は殴られた事など一度も無いが、正宗は常にボッコボコにされてた気がする。


 つ、ついに、俺にも鉄拳制裁が……


「……ふーん」


「な、なんだよ。人の体をジロジロと見るなよ……」


「梢だって……さっきからチラッチラみてるじゃん。このムッツリめ」


 だ、誰がムッツリか!

 っていうか、美奈の裸は女になってから久しぶりに見たが……相変わらずスタイルいいな。

 胸は俺より小さいとか言ってたけど十分……


「梢、筋肉付いてきたねえ。男の子……なんだね」


「あ、当たり前だろ……」


 ……そうか、美奈は知ってたんだ。

 俺が元々は女だったって事。

 だからコイツは何の恥ずかし気も無く……


「梢、久しぶりに私が体洗ってあげるよ! ほらほら、お姉ちゃんに任せなさい~」


「ちょ、ちょっと待たれよ! 流石にそれは不味い! お、俺は男……」


 その時、再び浴室の扉が開かれた。

 そこに立っていたのは……オカン。即ち母親。


 母親は俺と美奈を見るなり、スー……と深呼吸。

 そのまま……


「一体……何してるの! さっさと出なさい梢! 美奈ちゃんも年頃の男の子をからかわない!」


 ぎゃー! オカンが本気で怒ってる!


 本当に久しぶりだ、ここまで母親に叱られるのは……


 なんだか、本当に懐かしい。


 懐かしすぎて……ずっとこのままでも……いい気も……






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