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俺、女子高生始めます。  作者: F式 大熊猫改 (Lika)
side story  2172年 梢、小学生なり

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第二十一話 入学 2172年 春

 約一世紀前の2050年 5月21日。『世界の命日』と言われる日を境に世界大戦が勃発した。

各国の軍事基地がサイバーテロを受け、数千、数万発にも及ぶミサイルが世界を火の海に変える。

 

この日、俺はAIとして生み出された。


この……果てしない荒野へと。



 2172年 4月5日


 戦争が終結したのは勃発から実に五十年後。

ここ日本の文明も数十年後退したと言われている。しかし今となっては平和そのものだ。その証拠に、本日は俺の保護対象である子供が小学校へと入学する日。


「梢ーっ、こっち向いてー、そうそう、はい、きをつけ!」


今年で七歳になる戸城 梢(とじょう こずえ)

この子こそ、あの時俺が女児から男児へと作り替えた子供だ。

そしてその正面に立ち、カメラを構えている女性は俺の契約者。


「はい、チーズ……ぁ、ほら、もう一枚とるよーっ」


「美奈、次は俺が撮るから。お前も梢と一緒に入れ」


そっとカメラを横から奪い取ると、俺の契約者である美奈は満面を笑みを浮かべて梢の横へと。


「可愛く撮ってね! 正宗ーっ」


「ういうい」


ちなみにだが、本日は俺は中学へ、美奈も高校へと進学する。

だが俺達は自分達の事より、梢がここまで無事に成長してくれた事の方が重大だった。

何せ梢の中には……あの時強制的にシャットダウンさせた暴走ナノマシンが残っている。

いつ再起動するか分からない。まさに爆弾を体の中に埋め込まれている状態だ。かと言って今すぐに取り出す事も出来ない。ナノマシンを溶かす薬もあるにはあるが劇薬だ。まだ幼い梢に投与するわけにもいかず、結局監視を続けながら少しずつ取り出すという方法を選択するしかなかった。


「梢、もう少し姉ちゃんにくっつけ」


「うんー……」


梢は恥ずかしそうに美奈へとくっつく。

どうやら高校の制服を着た美奈に戸惑っているようだ。


「撮るぞ」


美奈は梢の肩を抱いて引き寄せる。

その瞬間シャッターを下ろし、液晶の画面へと映し出される画像を確認する。


それを見て、どこか申し訳ない気持ちで心が押しつぶされそうになる。

AIである俺が……この感情を得る為に一体何年掛ったのか。




 ※




 梢の体を作り替えたあの日、弟の方は暴走するナノマシンによって人間以外の物に作り替えられてしまった。しかし辛うじて息はあり、俺と手術を執刀した医師、金鳥 辰巳(かなどり たつみ)は弟を東京へ送る事にした。世界大戦後、日本の文明は数十年後退したが首都東京は別だ。何故ならばそこは日本であって日本ではない。この日本という国は世界大戦勃発直後、国としての機能を失い一度死んだのだ。

 

 世界大戦中、日本の看板を背負い、代わりに人々を先導していたのは三つの企業。アス工業、レクセクォーツ、そしてアナニエル。この三つの企業は大戦中、軍事拠点を東京に置き、兵を率いて日本へ侵攻する国々への防衛策として、とある三体のAIを開発した。軍事AIと言われるそれらは世界的にも驚異的な性能を誇り、日本を守護していたが……大戦が終わると同時に破棄される事となる。しかしマクティベルという一体のAIが逃亡、残り二体も存命を望んだが、そもそも大戦の黒幕はAIだ。中世に行われた魔女狩りのように、罪や責任をあるだけ背負わされ処刑される寸前、AIに人権が認められ『FDW』と名付けられた。

 人権が認められた以上、一方的な都合で破棄する事は許されない。ましてや軍事AIとして日本を守護していた彼らはまさに英雄だ。AIが原因で大戦が勃発したが、人々は既に彼らを認め始めていた。何故なら、五十年にも続いた大戦で世界人口は半分以下にまで減り、大半の人々はAIと共に寒空の下で過ごしていたのだから。

 

 そして命拾いした二体の軍事AIは、一体は自由を望み、もう一体は東京の管理を務める事となった。その東京の管理をしているFDWの”彼”は表向きには日本というカテゴリーに属してはいるが、実際は産みの親である”アナニエル”という企業の幹部だ。その為、実質首都東京は日本であり日本では無く……アナニエルの支配下に置かれている。


 地方都市が首都を隔離しているというのはその辺りの事情が本音だ。学校の授業では、技術力の差は差別や犯罪が横行するなどを理由として教えられているが、実際は日本の管理が行き届かない、一企業に支配されている都市など国の一部として認められない……というのが本音だ。(表立ってそれを指摘する政治家は誰も居ないが)だが日本にとってそこは最重要都市に変わりはない。その為、適当な理由を作り上げて”隔離”に留まっている。


 そんな首都東京の技術力は地方とはケタ外れだ。あちらでは既に超有名な猫型ロボットが作り出されているのではないかという噂まで立っている。あくまで噂だが。

 梢の弟である(しょう)も、金鳥医師の知り合いである馬海という男に預けられた。何でもナノマシンの分野においては、金鳥医師が最も信頼する相手だと言う。あの金鳥医師が言うなら間違いは無いだろう。何せ、梢の母親である戸城 茜のAI化を成功させた人物なのだから。


 AI化とはそのままの意味。生きている人間の脳を解体、解析し、その脳それ自体をナノマシンの群れで再現する。大戦中、世界のあちらこちらで行われていた人体実験だが、成功する例は極めて稀だ。今はFDWと呼ばれるAIがここまで進化できたのも、ある意味ではこの人体実験が原因だろう。

 そのAI化だが、問題が一つある。たとえ成功したとしても、そのAIと生きていた頃の人間は全くの別物だという事だ。記憶や微かな所作に至るまで全く同じだが、頭の中には脳など一欠けらも入っていない。つまり完全なコピーだ。


「梢ーっ、ほら、帽子忘れてる」


 小学生が通学路で被る帽子を持って、梢の母親である戸城 茜が玄関から出てくる。そのまま美奈と一緒になって梢のファッションチェックをしつつ、頭を撫でまわしてた。

 そんな梢の頭を撫でまわしてる戸城 茜は人間では無く、梢を生んだ母親でも無い。ここにいるのは、戸城 茜の脳を完全にコピーしただけの模造品に過ぎない……と、言うのは世間一般的な考えだ。


 俺は確信している。今ここに居るのは、あの時病院で子供を救う為に命を投げ出した女だ、と。


何故なら俺は、あの時確かに見て、話した。

スタンドアローンのブラックボックスの中で、まだナノマシンが”群れ”として活動を開始する前の状態の彼女と。


本来ならば有り得ない。

ナノマシンが脳として活動を開始する前に、何故、戸城 茜の意志が……生きるか死ぬかの確認が出来たのか。


『……いえ……生きさせて……あの子……私の子……犠牲になった……あの子の存在を……証明したい……何のために……私のお腹に……来てくれたのか……証明したい……』


涙を流しながら生きる決断をする彼女を見て、俺は確信した。


”魂”は存在する。


たとえAI化したとしても、FDWと言われる存在だったとしても、そこに意志がある限り……魂は宿るのだと。



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