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  プロローグ  『 溜め息 』


 ……そこは小さく、そしてみすぼらしい小屋であった。


 「アイズくん! アイズくん! 見て、見て!」

 そこには齢十を越えない少年と少女がいて、少女は子犬のようにはしゃぎ、少年は何事かと少女の行動を見守った。

 「驚かないでよ……やや、ちょっとは驚いてもいいよ……あっ、やっぱり素直に驚いてもいいよ」

 「いいからさっさとしなよ」

 勿体振る少女に少年が冷やかな言葉を掛けた。

 「りょーかーい」

 少女は興奮気味にポケットから金貨を取り出し、それを強く握った――次の瞬間。

 ……金貨が手のひらから消えていた。しかし、その代わり――

 「……オルカ、それって」


 ――一輪の花が薄汚れた床に咲いていた。


 ……否、それは花ではない。氷によって造られた造花であった。

 「そう、遂にできたんだよ!」

 少年は目の前の光景に驚嘆し、


 「〝(こん)(ろん)(じゅつ)〟が!」


 少女は満面の笑顔を浮かべた。

 ……………………。

 …………。

 ……。


 「……ごめんね」


 落ち込むアイズ=シファーに幼馴染みのオルカ=クロスハートがそんなことを囁いた。

 「空しくなるから謝んなよ、バカ」

 今年で十六となったアイズは背中に哀愁を漂わせながらオルカに毒づいた。

 「……うん、ごめん」

 「……」

 ちっとも学習しないオルカにアイズは眉間に皺を寄せるも、怒る気分ではないので突っ込みを放棄した。

 「お前は入団試験通ったんだろ」

 「うん」

 「よかったな」

 「よかったよ、うん」

 セントラル王国、王都クロスガーデンに建つ喫茶店で二人は待ち合わせ、そして現在、重い空気の中にいた。

 「明後日からお前は軍管理下の宿舎に引っ越すんだろ、ちゃんと村の奴らにもお別れぐらいしろよ」

 「……大袈裟だよ、どうせ一ヶ月後には長期休暇で帰省するんだし」

 「そうだっけ?」

 「そうだよ」

 オルカはぎこちなく笑い、アイズは無表情で窓の外へ目をやった。

 くすんだ白い壁に赤い煉瓦の建物が規則的に並んでいた。

 どこかの釜戸でパンを焼いているのか、焼けた小麦の香ばしい香りが鼻の穴を抜けた。

 まだ年端も行かない子供らが噴水に集まって、鬼ごっこをしていた。

 そして、空が青い……のに、アイズの心には曇天が広がっていた。

 「悪かったな、オルカ」

 アイズはオルカの方も見ずに謝辞を述べた。

 「何でアイズくんが謝るの?」

 訳のわからないアイズの謝辞に、首を傾げるオルカ。

 「なんとなく謝りたくなっただけだよ」


 ……アイズは気の沈んだ情けない顔を見せないように、煙突から羽ばたく白鳩を目で追った。


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