新居
春は出会いの季節である。
別れもあり、美しい思い出とともに一歩を踏み出すのだ。
有川ちよりは20歳。現在は大学に通いながらバイトをしている。
今まで実家から大学に通っていたのだが、大学から実家までは遠く、思い切って一人暮らしをしようと決心し、この春、実家から旅立ってきたのだ。
ちよりが選んだのは、まだ小さかった頃に住んでいた場所だった。大学からも近いし景色が良いことで有名なこの小さな町に来れて嬉しかった。新しい生活に不安と期待が入り混じっていた。
引っ越しが終わり、課題や新生活にも慣れてきた頃、小さい頃に仲が良かったおばあちゃんが、「渡したいものがある」というので行くことにした。なんだか恥ずかしい気持ちもあるが、ちよりはわくわくしていた。
「ちーちゃん、よう来たねぇ」と笑いながら出迎えてくれたのは昔から変わらず、ちよりが大好きな、はなというおばあちゃんだった。
「おばあちゃん、久しぶり!」
渡したいものとはなにか気になるが、それよりもはなおばあちゃんに会えたことがとても嬉しかった。
実ははなおばあちゃんは、ちよりがまだ小さい頃に重い病気にかかり、数年生きられるかと言われるほどだった。ちよりは毎日泣きながら近くの神社に行き、早く治るように。とお参りに行っていたらしいのだが、当の本人は覚えていないらしい。だか、はなおばあちゃんはそのことを今でもしっかり覚えており、ちよりのことを大事にしてくれている。
「おばあちゃん、渡したいものって…」
少し雑談をすると、ちよりははなおばあちゃんに聞いた。