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第九話 お願い傷付けないで


 イケメンは鋭い。察しの悪いお子ちゃまとは違う。


 何を隠そう、いや最初から隠してなかったが俺は人間じゃない。

 どちらかといえば退治される側の存在だ。


 田舎町に越してくる前から、先祖代々人間に成りすまして生活している。

 おかげで国籍も戸籍もバッチリある正真正銘の日本人。


 そんな化け物の俺が勇者として呼び出されたのは奇跡みたいなもんだろう。


「もしかしたら、勇者になれないのかもしれないよ」


「うーん、ちっとは思ったがやっぱそうなのか」


 魔法の才能が無かったのも人間の血がこれっぽっちも入ってないからかもしれない。

 多分、いや絶対そうだ。決して俺個人に才能が無いんじゃない。


「じゃあ聞けばいいじゃん。ねー、ちょっと弱虫姉ちゃ」


「待てコラ!!」


 三つ編み巫女ちゃんに声を掛けようとした無礼者の口を強制的に塞ぐ。


「どうしました?」


 パタパタと小走りで寄って来たクリノっち。転ぶんじゃないかと心配になる。


「何でもないから。ちょっと腹が減ったなーって」


「すいません、すぐに準備しますね」


 少しも疑わず巫女お姉ちゃんは戻って行った。

 俺は近くに小さな妹の姿が見えないのを確認し、ホッと胸を撫で下ろす。


「バカだろお前」


「バカじゃないもん」


 いいや、お前は紛れもない馬鹿だ。

 何も知らない相手にいきなり秘密をバラしてしまう奴があるか。


 下手すりゃモンスター扱いで退治されちまうかもしれないんだぞ。


「急に言ったら向こうだって混乱するだろ。警戒されて追い出されたらどーすんだ」


「でもあっちが勝手に呼んだんでしょ」


「そりゃそうだが物事には順番ってもんがあんだろ」


 リコちんは見るからに警戒心が強そうだ。

 二人と違って魔法も使えず祝福も断った俺は、きっとただの邪魔者としか思われていない。


 今の段階で正体を知られれば良くない展開待ったなし。バッドエンド直行だ。


「もう少し信頼を得てからじゃないと駄目って事だね」


 よくできました、イケメン様。


「えー、めんどくさーい」


 バカ子はもうすこしがんばりましょう。


「だから絶対にバラすなよ。お前らだって疑われるかもしれないからな」


「タローちゃんと一緒なら怖くないよ」


「そういう問題じゃねえ」


 年上美女ならともかく、誰がお前と一緒に世界を敵に回したいというんだ。

 俺のウキウキ☆ファンタジーライフはまだ始まってもいないんだぞ。


「何の話?」


「ワーオ!?」


 いつからいたんですかい小振りな巫女様。外国人並のリアクションが出ちまったじゃんよ。


 リコっちはさっきまでの巫女衣装じゃなく、リボン付きの丸い帽子を頭に乗せた活動的なスタイルだ。

 こうやって見りゃ本当に普通の小さなお子様だな。


「全然大した話じゃないっすよ。ゼンッゼンダイジョブ!」


 疑いの視線が突き刺さる。おい誰かフォロー入れて下さいお願いします。


「あんたの悪口」


 さとりお前は駄目だ喋んな。


「じゃなくて魔法が使えないタローさんを慰めてた」


 うん、ナイスフォローをありがとうコオリさん。

 しかし年下二人に慰められる俺ってすっげえ情けないような気がする。


「ふうん」


 案の定巫女ちゃんは冷ややかな眼差しを向けてくる。

 やめて!そんな目で見ないで。マジで悲しくなってくるから。


 リコちんは哀れな俺を一瞥すると、外への扉に手を掛けた。


「あれっ、どこ行くんだ?」


 外はそろそろ暗くなりそうだ。

 確か一人で出歩くのは危険だって、兵士のオッサンが言ってなかったか。


「狩り」


 簡潔に述べた巫女っちを見送ろうとするとお姉ちゃんがすっ飛んできた。


「ま、待ってー!」


 ズデーン!


 走ってきた三つ編みの巫女さんは俺らの前で漫画みたいにコケた。

 だから慌てると危ないって、言ってないなそういや。


 床に転げながらも顔を上げたクリノちゃんはリコちんに訴える。


「一人で行くなんて危ない事はやめて!」


 イケメンに手を貸されて立ち上がったお姉ちゃんに、小さい妹は呆れた表情だ。


「足手まといを連れて行くよりよっぽど安全だと思うけど」


 冷たく突き放されたクリノちゃんは思わず涙ぐんだ。

 今にも泣き出しそうな姉さんにリコっちは呆れ顔のまま理由を話す。


「三人も召喚されたんだから明日の食材が足りないでしょ」


 見た所大きな家には姉妹の二人しかいない。

 兵士達の様子から結構なお金持ちかと思っていたが、そうでもないらしい。


 こういう役職って普通は国からの支援があるもんじゃないのか?


「だったらせめてお兄さまがいる時に」


「兄様なんていつ帰るか分からないじゃない。それにわざわざ手を借りる程じゃないんだから」


 何だ、兄さんもいるのか。

 だよな。こんな若い娘二人だけで暮らすなんて物騒だもんな。


「私はクリノと違って一人で戦える」


 小さな妹の手には銀の杖がある。姉の杖の色は銅。

 リコちんの言い分だと多分お姉ちゃんより強い魔法が使えるんだろう。


「でも、もしもの事があれば」


 強気な妹に対して心配する気持ちは分かる。ホント良く分かる。


 俺もそこの無鉄砲怪獣にどんだけハラハラさせられた事か。

 こいつに何かありゃ叱られんのは俺とコオリだからな。


「よし分かった!俺が一緒についてってやる」


 ここは年長者らしい所を見せてやろうと俺は立ち上がった。

 少しはいい所を見せてツンツン巫女ちゃんの信頼を勝ち得てやろうじゃないか。


「聞こえなかったの?魔法も使えない足手まといはいらないって」



 あれっ?


 さっきの話って俺の事だったの?


 何やらさとりがリコちゃんに怒ってるけど、普通に傷付いた俺の耳には入らない。

 固まる俺を放置して勇ましい小さな巫女は一人、狩りへと出かけて行った。



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