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第八話 そうさ今こそダンジョンだー


「今日はひとまず私達の家に泊まってもらうから」


 俺達三人はち巫っ女のご自宅に案内された。

 町はずれにひっそりと佇む家は大層立派で、十人は住めそうな大きさだ。


 手入れの行き届いた花壇が何ともメルヘンチックで可愛らしい。


「えー」


 コラ、あからさまに嫌そうな顔すんな。また巫女ちゃんのご機嫌が悪くなるだろーが。

 再び舌戦が繰り広げられるかと身構えていると、リコちんは小さくため息を吐いて扉を開けた。


「本当なら勇者専用の施設があるけど、まだ申請してないからここで我慢して」


「へっ?そんなのあるの?」


「勇者さまを召喚したほこらの正面側に居住区と配給所があるんです」


 わんぱくおなごの問いにクリノちゃんが笑顔で答える。

 先程の緊張から解放されて気持ちに余裕を取り戻したんだろう。女子のスマイルはいいもんだ。


 これが色っぽいお姉さまだったらもっと嬉しかったけど。


「魔物を退治してお金を貰ったり、ほこらから持ち帰った物を売ったり出来ますよ」


「それって、ダンジョンがあるって事か?」


 至れり尽くせりじゃないか。こいつは燃える。否が応でもテンションが上がっちまう。

 い、いや待て!あんまりがっつくと足元を見られるぞ。落ち着け自分。


「勇者専用だから祝福されないと使えないけどね」


 そうきたか。

 巫女ちゃんめ、男の冒険心をくすぐるとはかなりのやり手ですな。


「でも、ほこらに入るだけなら許可が無くても大丈夫ですよ」


 妹の計略を無視してあっさりバラしたお姉ちゃん。おーい、リコちん睨んでますよー。


「勇者になればタローちゃんと一つ屋根の下で暮らせるの?」


「はい」


「だったらいいじゃん!勇者になって冒険しようよタローちゃん!」


 現金なもんだがさとり、そいつは俺の同意が大前提だ。


 俺の燃える冒険譚に小っちゃいオマケはいらん。

 俺の萌える女性群ハーレムに小っちゃなオマエはいらん。


「んー、まあそのうちなー」


 足を掴んで揺らすミニりんをテキトーに流しつつ、俺達は二人の後に続いた。




「本当に勇者なんてやるつもり?タローさん」


 テーブルに着いた俺にイケメン中学生が真面目な顔で聞いてくる。

 そうやって真剣に言われると急に現実に引き戻されるからやめちくり。


「そりゃ勇者なんて男子の憧れだろうが。やるに決まってんだろ」


「タローちゃん、魔法使えないじゃん」


「いちいちうっさいな」


 横槍を入れるプッチン子の額を人差し指で小突く。


 確かに魔法は重要だが、ファンタジーな世界を少しでも楽しみたいという気持ちが分からんのか。

 これだから女子は駄目だ。


「お前らは別に帰ってもいいんだぜ」


 リコっちはああ言っていたが、帰る方法はあるんだろう。

 俺としてはやかましい小娘をさっさと送り返してもらった方がありがたい。


「さとりは受験があるし、コオリだって帰りたいだろ?」


 もっともらしい事を言って二人を説得しようとしてみるも、中学生ズは首を縦に振らない。


「タローちゃんと一緒じゃなきゃ帰んない!」


 こんにゃろう。お前がいると俺の冒険&ロマンスが台無しだっつーの。


 こいつらを連れていたら絶対ムフフなイベントの邪魔になる。

 そもそも沙雪イケメンが側にいたら、お姉さま方はみーんなそっちに行っちまうだろーが。


「親が心配するだろ」


「いいもーん。タローちゃんと暮らす方が大事だもん」


 俺はお前となんて暮らしたくねぇ!


 だが本音を言ったらますます奴は意固地になるだろう。下手したら惚れ薬を仕込まれるかもしれん。

 魔法の世界なら必ずそういったアイテムの一つや二つあるはずだ。


 本当にあれば是非製法を知りたい。


「タローさんが迷惑なら帰るよ。元々勝手について来ちゃったし」


 味方のイケメンは強情娘とは違い、俺の気持ちを汲み取ってくれている。エエ子や。


「一緒に居るのがそんなに嫌なら、すぐに目の前から消えるから」


「オイオイそこまで言ってねーって!」


 儚い美少年の言葉を慌てて否定する。

 こんな悲しみの微笑みを跳ね除けるなんて鬼の所業、俺に出来るはずがない。


「コオリだけ帰ればいいじゃん」


「オラッ!」


 デリカシーゼロの非道なガキんちょに拳骨で制裁を下した。


「いたいー」


「お前は反省しろ!」


 よくよく考えりゃイケメンは何も悪くねぇじゃんか。むしろ被害者だ。

 なのに甲斐甲斐しく俺の要望に応えようとしてくれている。 


 それに比べお前は何だ!無駄にリコちゃんに喧嘩を売るわお姉ちゃんを怖がらせるわ。


 まぁ直接の原因は俺なんですけど。


「ワガママばっかの奴とは一緒に住んでやんねーからな」


「じゃあいい子にしてればオッケーって事?」


 あれ?ちょっと台詞間違えたか。コドモ中学生の顔に期待の眼差しが浮かんでいる。

 別にいっか、どうせ夢だし。


「かもな。リコちゃん達と仲良くするんだぞ」


「分かった!あたしすっごい頑張るから」


 すっごい頑張らなきゃワガママ治すのも仲良くも出来ねーのかい。


「おう、頑張れ」


「えへへ」


 グリグリとツインテ頭を撫でてやる。

 単純な奴め。喜んでいるのも今のうちだ。俺の夢の中でいつまでも出番があると思うなよ。


 肉食小動物を手懐けていると、コオリがじっとこちらを見ている。


「どした?コオリ」


 まさか撫でて欲しい訳じゃあるまいし、何か気になる事でもあるのか。


「タローさん、あの子達にまだ言ってないでしょ。自分が人間じゃないって」



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