第七話 俺の特技を聞け 二分だけでもいい
「また断られちゃった」
部屋の隅でオネエ賢者がブツブツと呟いている。
ぽこぽこ出ているブレイクハートの煙に、ティーンズが釘付けになっていた。
「そうよね。陶器の指輪なんてダサいし、こんな地味な能力欲しくないわよね」
うーむ、フォローすべきか。
しかし下手に口を滑らせて傷を抉るかもしれん。見守るのがベストだろう。
ちいちゃい巫女ちんの睨みも知らんぷりで受け流す。
「これじゃあ汰郎ちゃんが会いに来ないのも当然だわ」
賢者様が言ってんのはモモヤマ・タローの事だろうか?少なくとも俺ではない。
「賢者さまのせいじゃありません。わたしも、勇者さまとはずっと会ってません」
励まそうと声を掛けたクリノちゃんは、自分で言って落ち込み始めた。
「勇者さま、わたしの事なんて忘れちゃったのかも」
「賢者、向いてないのかしら」
「才能が無いくせに祝福を断るなんて、一体どういうつもり?」
すっかりネガティブになった二人にリコっちはご機嫌ナナメだ。
そばかす巫女の嫌味にうちのリトルビーストがピクリと動く。
「いやー、俺って口下手だから活用出来ないと思うんだよ」
幼い狂犬をがっちりホールドしながら俺はペラペラと理由を並べ立てた。
「ほら、賢者様もあまりお勧めしないって言ってたじゃん。せっかくだけど俺には縁が無いっつーか」
「そうだけど、魔法が使えない勇者なんて役に立たないじゃない」
「勇者にも色々あるだろ?魔法だけに価値を求めるもんでもないと思うぜ」
賢者様の話を織り交ぜてもっともらしい事を言ってみると、巫女ちんの威勢がわずかに弱まった。
「タローさんは役立たずなんかじゃない」
ベストなタイミングで発動したイケメンフォロー。小さな巫女さんの表情に迷いが浮かぶ。
「じゃあ、何が出来るって言うの?」
よしきた!アピールタイムゲットだぜ!
でかしたとコオリに親指を立て、俺はリコ面接官に向き直る。
「力には自信があるぜ。相撲大会で優勝した事もあるしな」
「大きいからでしょ」
う、中々鋭いツッコミをしてきやがる。
確かに体がでかけりゃ力も強いってのは常識だな。相撲大会も小学生の時の話だし。
「そんなの、肉体強化の魔法で簡単にやられちゃうじゃない。あとスモーって何?」
ちくしょう駄目か。だったら次だ。
「泳ぎが得意だから水中戦もガンガンいけるぜ」
「海は危険な魔物がいて泳げないし、そもそも水中で戦わないでしょ」
「いや、捕まって水責めにされた時とか超役に立つだろ」
「捕まらなきゃいいじゃない」
正論という強固な壁を盾にする面接官。
しょうがねえ、こうなったらとっておきを出すしかない。
最も女子ウケのいい必殺技を。
「モノマネがめっちゃうまい!」
「賢者様、他の二人の祝福をお願いします」
おおーい、もうちょい売り込ませてくれって。
俺の全力アピールを無視した面接官は、有望な人材の確保に躍起になっている。
「ああ、ごめんねリコちゃん」
己の役目を思い出したヤシュウさんは無理矢理立ち直った。
うん。せっかく元気を出した所悪いんだが、二人とも全然乗り気じゃないぞ。
「タローちゃんがやらないからあたしパス」
待て、俺を引き合いに出すな。リコっちの視線が痛い。
「それにこーんな嫌な奴の言う事なんて絶対聞かないんだから」
さっきからケンカ売り過ぎじゃないか。って、コイツのは今に始まった事じゃないな。
暴言娘に腹を立てながらも、巫女っちはお行儀よくしている。
目上の人の前で騒がない分別はあるらしい。うちのにも見習ってほしいもんだ。
俺も年上なんだけどね。
「詳しい説明も無いのに決められません」
イケメンも首を縦に振らない。
夢と魔法の世界だってのに、いつも通り真面目な奴だな。
「えっ」
粗暴な中学生女子に困った笑みを浮かべていた賢者オネエは、急に真面目な顔つきになる。
「勇者様に説明、してないの?」
問われた巫女のお姉ちゃんはビクッと震えて杖を落とした。
「この世界と勇者についての説明はきちんとしました」
妹ちゃんがキッパリ言い切るが、アワアワと杖を拾うクリノちゃんに説得力は無い。
いかん。このままじゃ楽しい勇者物語が終わってしまいそうだ。
二人はともかく俺はまだここに居たい。もう少し夢を見せてくれ。
「はいはーい!聞きました」
訝しむオネエ賢者が口を開く前に俺は手を挙げて主張する。
「でもその子は説明が無いって」
「沙雪は細かい性格なんすよ。もっと詳しい話を聞きたいなーって。そうだろ?」
肩を組んで笑う俺にコオリは一拍置いてコクリと頷いた。
俺に同調してくれる数少ない良きイケメン。
少年の真っ直ぐな瞳に賢者様はスッと表情を和らげた。
「なぁんだ、びっくりしちゃったじゃない」
「さとりもちょっと誤解してるだけだよな?本当は俺と一緒に勇者がやりたいって思ってるんすよ」
ちびツインテの頭をわしわしと撫でる。
普通の女子にやったら思いっきり引かれるから、良い子はマネしちゃ駄目だゾ!
「タローちゃんと一緒なら、いいけど」
よし!俺の手にかかればこんなもんよ。
「だったらもう少しこの世界の事を知った方がいいわね。勇者様の意志を尊重しなくちゃ」
「当然です」
どの口が言うんだ。
そばかす巫女っちの発言に中学生たちは冷たい視線を投げかけた。
「ニホンジンじゃないのも確認済みよね」
「も、もちろんです!本当に確認しました。ウソじゃないです!」
クリノちゃんはボロが出るから喋らない方がいいんじゃないか。
「じゃあしばらくはこの国に滞在して、決心したらまたいらっしゃい」
俺達はにこやかに見送られた。
ロリ子がすんげー腑に落ちない顔をしているのは気のせいだ。