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第六話 伸びしろを下さい


 前回のあらすじ。


 俺は魔法の才能がありませんでしたとさ。めでたしめでたし。



「おめでとうリコちゃん」


 賢者サマに褒められた巫女達は明らかにホッとしている。

 あー良かったね。役立たずが一人だけで済んで。


「ドンマイ、タローちゃん」


 チマ・サトリが俺を哀れんでいる。コンニャロ、何かハラ立つな。


「タローさんには向かなかったんだよ」


 イケメンの心遣いも今は自慢にしか聞こえん。

 落ち着け、俺は大人なんだ。本当に気の毒そうなコオリを責めてどうする。


「特にこっちの男の子は凄い才能よ」


 チクショー!!やっぱイケメン優遇かよ!!


 俺は心の叫びをグッと堪え、不自然な笑みでオネエに尋ねる。


「どういった魔法が使えるんすか?」


 才能があっても実はものすっごくショボイ魔法かもしれない。

 いや絶対そうだ。特にそのちっさい奴に大層な魔法なんぞ使えるはずがない。


 オネエ賢者はまずさとりに目を向けた。


「女の子の方は攻撃型ね。雷と火の魔法が向いてるわ」


「さいですか」


 主人公みたいな能力持ちやがって。さとりのくせに。


 しかし単純な魔法でかえって良かったかもしれん。

 下手に精神操作系の魔法だったりしたらこいつは絶対に悪用する。俺の貞操が危ない。


「なーんだ。タローちゃんを誘惑出来る魔法だったら良かったのに」


 ほらな。マジでやめろっつーか俺の意志を尊重しろ。


「無理よ、魔女じゃあるまいし」


 喫煙賢者の言葉に獰猛女子が目を光らせる。


「魔女なら出来るの?タローちゃんがあたしを好きになる魔法があるの!?」


「ちょっ、落ち着いて」


 暴走気味のさとりがテーブルに乗って賢者の肩を揺らす。


「おいコラさとり」


 こりゃ行儀が悪いなんてもんじゃない。獣かお前は。


 俺が野生中学生の首根っこを掴んで引き剥がすも、欲望に目が眩んだこいつは諦めない。

 ぶら下がった体勢のままグイグイ迫る。


「どうやったら使えるの?魔女になればいいの?大魔王とか倒せば教えてくれる!?」


 アカン。めちゃ荒ぶっておられる。


 女子中学生という化けの皮を剥がした凶暴なおなごに、クリノっちは気が気でない。

 リコちんは今にも杖を振り下ろしそうだ。


「はいはいストップ」


 オネエ賢者はパイプの煙を吐き出しケダモノ女子と相対した。

 掴み掛かりそうな勢いのさとりに手を伸ばす。不用意に手を出したら噛みつかれるんじゃないか。


「そんなにこのオニーサンが大好きなのね。さとりちゃん」


 ヤシュウさんは笑顔で暴れん坊の頭を撫でた。

 するとどうだろう。血に飢えた小さな獣は途端に顔を赤くして大人しくなったではないか。


「だって、好きなんだもん」


「分かるわー。他の人に取られたくないのよね」


 このオネエ、デキる。


 恋愛相談所ばりの手並みを見せた賢者に、手懐けられた獣娘はまるで恋する乙女だ。

 まあ元からそうなんだが。


「でも魔女の魔法は血筋だから、さとりちゃんには無理なのよ」


「ちぇっ」


 ごめんね、とウィンクするマダム・ヤシュウ。牙を収めたミニビーストを俺は解放した。


「さすが賢者さま」


 クリノちゃんは暴力娘を抑えた賢者様に尊敬の眼差しを送っている。


 俺も自然と拍手を送っていた。

 こんな人が近所に居たら、俺達の苦労はもうちょい少なかったかもしれない。


 何かちょっと涙が出てきたわ。



「それじゃあ次は男の子の方。名前は?」


「コオリです」


 次はペキメン。

 結果はもう分かり切っているが一応聞いておく。


「コオリちゃんは本当にたくさんの可能性を秘めているわ」


 そーでしょーねぇー。輝くイケメンにふさぁーしいですわ。


 賞賛する賢者の言葉に巫女っちも鼻が高いといった感じだ。

 俺の足元にまとわりつくチビギャルもいいなー、と羨ましげな声を出している。


 お前よりもっと羨望の視線を送っている、魔法と一切縁が無かった男がここにいるぞ。


「攻撃・防御・生産。あらゆる魔法の才能が眠ってる。正直私じゃ選びきれないぐらいに」


「そんなに凄い勇者さまなんですか」


 感嘆の溜息を漏らすクリノちゃんに賢者様はパチクリと目を瞬かせ、オバチャンみたいに笑った。


「なーに言ってるの!凄いのはクリノちゃんも同じじゃない」


 力強く肩を叩かれた三つ編みのお姉ちゃんがよろめく。

 銅の杖を支えにして転ぶのは避けられたようだ。


「命の魔法の勇者様を呼んだじゃないの。もっと自信持ちなさい」


「は、はい」


 良く分からんがクリノちゃんも優秀な勇者様を召喚した事があるようだ。

 この近くに居るんだろうか。



「じゃあ全員祝福って事でいいのかしら?」


「お願いします」


 賢者様の問いに当然の如く言い切るリコちん。


「ちょっと!勝手に決め」


「祝福って、何するんすか?それにさっき言ってた特別な力ってのは」


 ファンタジーライフの進行を妨げる娘っ子の口を塞ぎ、俺は賢者様に問うた。

 空気が読めるイケメンは黙って話を聞いている。


「勇者様の力の媒体として指輪を授けるの。これが無いと魔法は使えないわ」


「へー」


「勇者さまによって違った宝石が現れるんですよ」


 魔法使いの杖みたいなもんなのか。しかもオーダーメイドっぽい。

 すげえいいじゃん!これこそファンタジーの醍醐味だよ。


「で、特別な力は?」


「ちょっとした特典みたいなものね。私の場合はどんな生物とも会話が可能になるわよ」


 胸を張るオネエ賢者。


 が、話を聞いた俺は即座に口を開いた。


「あ、じゃあいらねっす」


 俺の言葉が予想外過ぎたのだろう。

 三つ編み巫女ちんと賢者様はコントみたいに揃ってコケた。



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