第四百九十九話 Oh, oh, oh, Edo, Are you ready?
「信じられません!一体何が起こっているのか!?」
地形の再構築を目の当たりにし、解説席から驚きの声が上がる。
綺麗に舗装されていた路面は踏み固められた地面に、フラッグは古風なのぼりへと変化。
コース外には瓦屋根の家が次々と現れ街並みが広がってゆく。
生まれ変わったマップの前でエンダさんが胸を張り、仕込み杖を掲げた。
「これぞサムライが生きた黄金時代、オエドでござんす!」
三度笠姿の巫女は時代劇の舞台に実によく馴染んでいる。
江戸の町の再現性も高く、下手したらそこらの日本人よりも詳しい可能性がある。
しかし一度決定したはずのマップ選択権をどのような手段で横取りしたのだろう。
「セバスちゃん。あいつ言霊っぽいの使ってるよ」
「あんだって?」
本音引き出しウーマンが何かを感知したらしく、エンダさんに札を渡した張本人を指差した。
「ただ今情報が入りました。夜衣選手は予言者であり、その力で試合場のシステムに介入したようです」
格闘系の見た目からてっきり強化魔法の使い手だと思っていたが、使い魔持ちなのを忘れていた。
つーか予言者って、未来を言い当てるとか後の時代で意味深な解釈されるイメージなんだが。
んなリアルタイムで反映されるもんだっけ?
「今回だけは特例として許可しますが、ルールを捻じ曲げるのは重大な減点行為とみなします」
「次に使った場合は失格とさせてもらうニャ」
予言の禁止を言い渡されたバンダナ男は全く気にした素振りもなく、涼しい顔で警告を聞き流している。
まさか試合結果の改ざんも可能だったりしないよな。
サーキットという絶好のシチュエーションを奪われ、バイク乗りのノエミさんがガックリと肩を落とした。
「せっかく普通の道を走れると思ってたのに」
当初の計画を狂わされて女王様もさぞお怒りであろう。
チームリーダーに視線を移せば、親衛隊に囲まれた彼女は肩をすくめてため息をついた。
「困りましたわね。あんな不届き者を野放しにするなんて、責任者は何を考えているのかしら」
女王様が解説席に視線を向けると猫耳賢者がビクリと尻尾を震わせる。
「まともな運営もできない無能は死をもって償うべきではなくて?」
ああーっ!このあからさまな挑発はダークヒーローガチャを回すつもりだ!
桃太郎様に続いて二人目のチャレンジャーがエントリー。
強者は強者との闘争を求めてしまうとでもいうのか。
女王様の発言によって赤いランプが点灯。たちまち会場内にサイレンが鳴り響いた。
『番組への批判を確認。直ちに制裁タイムを発動』
暗闇に包まれた空に不吉なドクロマークが浮かび上がり、会場全体に緊張が走る。
「まさかの制裁タイム!?試合開始からわずか五分で発動するとは予想外にも程があります!」
ダークサイド夢川も開始早々にブッ込んでくるとは思わなかったろう。
突然の急展開に観客も目を白黒させている。
『ダークヒーローを投入します』
アナウンスと同時に雷光が走り、火の見櫓の上に黒い影が降り立った。
殺陣によるアクションと義理人情溢れるヒューマンドラマが交差する江戸の町。
この舞台にぴったりの役者といえばあの男をおいて他にいない。
「今回の制裁タイムを担当するのは、ニンジャ・ガイです!」
そっちかーい!!
今の流れは明らかにサムライ・リーマン参戦フラグだったはずだろ!
前の試合に引き続き登場したエセニンジャに、女王様も期待外れだと言わんばかりの表情だ。
「あたくしが手を下すまでもありませんわ。お前達で片付けなさい」
無慈悲な殺戮者や和装ガールに比べると格落ち感は否めず、おまけに相手は手負い。
対応を勇者達に丸投げするのも納得である。
が、不死鳥の如く戦場に復帰した男は今までとは一味違う雰囲気を漂わせていた。
「チェンジ・仕置き人モード」
メカ忍者がポーズを取ると忍装束が黒へと染まり、禍々しいオーラが吹き上がる。
展開した左のアームから飛び出た鋼鉄の棒を両手で掴むと、弧を描くレーザーブレイドを形成。
死神の大鎌を担いだ忍者と赤提灯のコントラストが妙な迫力を生んでいる。
「ニンジャ・ガイが仕置き人モードを発動!短時間ですが戦闘力が劇的に上昇します」
黙って武器を構えていれば確かにダークヒーローらしく見える。
背後に広がる影が不気味に渦巻き、まるでマックス自身を飲み込もうとしているようだ。
「ターゲット、排除スベシ」
制裁という名の処刑を行うべく大鎌を振りかぶった次の瞬間、奴の姿が音もなく掻き消えた。
ざわめく観客とは対照的に女王様のチームメンバーは身構えもしない。
その理由は一人の少年の呟きで判明した。
「終わりました、ハイ」
ベンの後ろから姿を現した小柄な黒い肌の少年。
彼が指を鳴らすと、残されていた渦巻く影がスッと地面に染み込んだ。
「ケヴィン選手の黒い盾でニンジャ・ガイが消失しました!」
「足止めに転送、攻撃吸収もできるブラックホールの魔法ニャ!」
予言に負けずとも劣らないチート級魔法。そりゃ京三郎もスタメン落ちしますわ。
盛大に出落ちをかましたマックスが不憫でならない。
「下らない茶番ですわ」
女王様が制裁タイムRTAを更新している一方で、エンダさん達は既に別の場所へ移動していた。
カメラが映し出したのは視界を阻害する白い霧と、体力を奪う熱が充満する閉鎖空間。
炎と水が交わり、極楽浄土を求める者達が試練に挑む場所。
「ここが、絵巻に描かれていたオエドの人々の聖域」
風来の巫女が仕込み杖で木の床を叩くと、霧が晴れ装いを変えた彼女の姿が現れる。
「セントウでござんす!」
戦闘準備を終えたエンダチームはタオルを巻いた入浴スタイルだった。




