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第四百七十三話 二人だけの愛が広がるように


 オッサンの降伏宣言で試合を終えた俺達は、着替えを済ませて参加者席に戻った。


「第二試合の勝者が決まりました。今回の戦いはいかがだったでしょうか」


「予想通り、勇者の能力差が命運を分けまシタね」


 高級執事服は泳ぐ前に懐中時計へ収納したため無事である。


 瞬時に物を出し入れできるというのが、この仕込みスペル・ボールの特殊効果。

 ギリギリまで使わなかったおかげで実況によるネタバレは避けられた。


 初戦の滑り出しとしては上々の結果ではなかろうか。


「豊富な資金と有利な状況を得ていたビッグスチームでしたが、敗因は戦力不足だったと」


「巫女の力量だけデ勝ち上がるのは難しいですかラ」


 一回戦の時と違って真面目な解説を繰り広げる男共。

 相手がVIPだからなのか、前回のようなやらせ行為も見られなかった。


 やはり金、金こそが最も偉大な力だったのだ。


 とりあえずウサギシールの消耗を一枚に抑えられたのはでかい。

 殺戮サムライ達に対抗するにはこいつが必要不可欠。無いとマジで詰むんで。



「せんぱぁーい!やっぱり怖いですぅ」


 来るべき戦いに身震いしていると、少し離れた場所から猫なで声が響いた。


 見れば涙目の少女がセティラさんに抱きついている。

 慈愛の眼差しを向け、彼女を優しく包み込む姿はまさしく女神だ。


「可哀想に。嫌なら辞めましょう、ね?」


 ああ、俺もあのポジションに収まりたい。

 一日中お姉さんに膝枕で甘やかされるだけの存在に成り果ててもいい。


「プルミエ」


 乙女達の甘々空間は、勇者の一声とゲンコツによって打ち破られた。


「いい加減にしな。セティラさんに迷惑だろ」


「何するんですかぁ!」


 小突かれた少女がパンクファッションの女性に抗議する。


 日本の田舎町では中々お目にかかれない、目力の強いメイクと口元のピアス。

 くすんだ赤紫のショートヘアには色とりどりのメッシュが入っていた。


「大事なパートナーを放っておいた子猫ちゃんは誰だっけ?」


 男前な顔立ちの女性に顎クイされ、言葉を詰まらせる巫女少女。

 二人のやりとりに参加者達の視線が自然と集まる。


「これ以上ワガママ言うなら、お仕置きかな」


「だ、ダメですよぉ!他の人が見てる前で。でも、おねーさまがどうしてもっていうなら」



 俺達は一体何を見せられているのだろう。



「バーカ、冗談だよ冗談」


 キョトンとしたプルミエちゃんの顔が、みるみる赤く染まってゆく。

 長身のボーカル系女子はイタズラっぽく笑っていた。


「もう!おねーさまったら」


 これ以上バカップルを増やさないでいただけませんか。


 二人のイチャつきっぷりは女子の仲良しレベルを遥かに超えている。

 セティラさーん、見守ってないで止めて下さーい。子供に悪影響ですよー!


「私達の解説ばかり聞いていても退屈かもしれませんね。次の試合へ移りましょう」


 グッジョブ夢川。

 司会進行によりイチャラブ☆タイムはキャンセルされた。


「では注目度ナンバーワン、VIP席からご登場いただくのはフレカチーム!」


 いよいよお出ましだ。最も関わり合いたくなかったあのお方が。


「戦いの舞台に立つのはフレカ・桃山汰郎選手です」


 モニターに映る褐色美女と小学生ぐらいの黒髪少年。

 幼さを感じさせない大人びた表情は、一族の長としての威厳を感じさせた。


 俺が真の勇者を目指すにあたって、決して避けては通れない存在だ。


「なーんだ。でっかい竜とか見れると思ってたのになー」


 大物を期待していた子供メイドが不満の声を上げる。

 奴が足をバタつかせていると、中二病患者の分析が耳に入ってきた。


「彼は妖怪を使い魔として扱うつもりのようだね」


 確かに追加ルールによれば、使い魔は出場者にカウントされないとあった。

 つまり人数制限などお構いなしに、いくらでも戦力を投入できると。


 あーはいはい。絶望ポイントがまた増えましたよ。


「一体どんなヨーカイが見られるのだろうな。我も楽しみだぞ」


 ヨルンさん。妖怪ならさっきの試合でたっぷり見てるんすけどね。


「続いて一般選手席より参加のプルミエチーム!」


 名前を呼ばれて慌てる彼女に、スッと手が差し伸べられる。


「行こうか。お姫様」


「は、はいっ!」


 騎士を思わせるエスコートに再び顔を赤らめる純情巫女。

 イケメンムーブを見た観客の一部が色めき立つが、二人は気にせず歩き出す。


「対戦するのは華やかな女性ペア。プルミエ・アユカ選手です」


 恐らく会場にいるほぼ全員が、フレカさんのチームが勝つと考えている。


 百合カップルがどんなに優秀だったとしても、相手は世界公認の救世主様。

 大どんでん返しでもない限り、勝利を掴むのは不可能に近い。


「両チームを試合場へ転送します。危険ですのであまり動かないで下さい」


 二組の身長差コンビが上空へ飛ばされる。

 プルミエ少女はパートナーの手を握り締め、必死に下を見ないようにしていた。


 ところでアユカさんの名前が日本人っぽいが、ハーフだろうか。


「さて、人気投票の結果が出ました」


 視聴者投票の円グラフは試合前と変わらず、プルミエちゃん側が優勢。

 逆に考えればロリコンが多い状況で奮闘した方だともいえる。


「ではプルミエチームには地形を選んでいただきましょう」


 ダークサイド夢川の呼びかけに応じ、女子二人が目配せする。

 すぐにマップを作り出す白い霧が試合場を覆い隠し、謎技術が物質の構築を始めた。


 さっきのマップ選択には明らかな介入があったと確信している。

 俺の欲望が具現化したとかいうのは断じてない。


 果たして今回はどうなるのか。



「第三試合の地形は、ジャングルです!」


 湿った土の匂いに目を向けると、そこは乙女とは正反対の野生と生命の宝庫だった。



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