第四百六十二話 あなたにとって危険な人ほど すぐそばにいるの
「どうしてあたしが二位なのよ!納得いかないんだけど」
巫女の紹介と共に開示された禁断の情報に、お色気魔女が真っ先に噛みついた。
「ニホンジンの男なら絶対あたしを選ぶはずなのに」
「私に言われても」
「じゃあ誰に言えばいいのよ!」
パートナーに八つ当たりするアリシアさんを横目に考える。
日本の特撮番組は基本国内向け。
更に女の子同士を戦わせる過激な内容とくれば、視聴者の多くは男性だろう。
若くて可愛い系の巫女が上位に集中するのも無理はない。
「結局見た目と肩書きかよ。ふざけやがって」
「こういうのは若い子に勝てませんね」
「さっさと暗殺されればいいのよ。あんな小娘共」
キュロちゃんとセティラさんの声に混じって、恐ろしい呪詛が聞こえた。
絡まれるとヤバそうなので空耳だった事にしておく。
「ううむ、あまり良い結果ではないようだな」
「大丈夫だよ。ヨルンが誰よりも綺麗なのは知ってるから」
ついでにカップル達の愛の囁きも華麗にスルー。
それにしても女王様の一位は予想外の結果だ。
ああいうタイプが人気なら、キュロちゃんも上位に食い込みそうなもんだが。
「ちょい調べてみるか」
人気投票のページにアクセスすれば、色々分かるかもしれない。
早速ドクロ型メモリーを起動し画面を確認する。
「なるほど。こりゃ一位にもなるわ」
トップを誇る女王様の項目を表示させると、真相はすぐに判明した。
(イケメンに貢ぎたいです!)
(この可愛い男の子って実在するの?早く動いてる姿が見たい!)
(お小遣いあげるからお姉さんと一緒に暮らそうよ)
コメント欄のほぼ全てが、コオリに関する内容で埋まっていたのだ。
巫女一覧からは共に出場するメンバーの閲覧もできる。
視聴者は彼女達の容姿だけでなく、連れも判断基準に加えていたというわけだ。
ちなみにキュロちゃんへ寄せられていた批判的なコメントがこちら。
(ヤンキーカップルかよ)
(遊んでる巫女はお呼びじゃありませーん)
パッと見の印象だけで書いてんだろうがこれは酷い。
他ではコスプレがダサいとか、エルフは狙い過ぎとかいう意見もあった。
本人達にはとても見せられない。
「俺にもコメント付いてんのかな」
不安よりも好奇心が上回った俺は、恐る恐るリコちゃんの項目を開いた。
(制服ロリは正義!)
(ちっちゃい子達を合法的に愛でられると聞いて)
(お嬢ちゃん可愛いねえ。パンツ見せて?)
うおーい!!無法地帯やんけ!
大丈夫かこの番組。通報レベルの書き込みばっかだぞ。
「ほとんどロリコン票ってのがリアルにビビるわ」
リコちゃんには黙っておこう。
世の中には知る必要がない事もある。
そっとコメント欄を閉じようとしたところで、足元に影が差した。
「やっぱりあたしの人気のおかげじゃーん」
顔を上げた先には、ニヤついた顔で画面を覗き込む不謹慎大好き娘の姿が!
「待っ」
「ほらほらー、チビ巫女よりあたしの方がカワイイって言ってるよー」
コンマ一秒でドクロ型メモリーを奪い去られた。
瞬時にリコちゃんの前に割り込んだ奴は、強引に画面を押し付けている。
「あのな。日本語見せても読めるわけねーだろ」
俺は努めて冷静に振る舞い、自然な動作で端末を取り戻した。
セクハラワードが流れていても彼女には分からない。
残念だがお前の思い通りにはならんのだよ。
「待って」
端末をしまおうとするとリコちゃんに止められた。
まさか、少女愛好家の不適切なレビューに興味がおありで?
「クリノがどうなってるか確認できる?」
なぁんて知ってましたとも。
真面目な巫女様がランキングに気を取られるはずないって。
俺も人気なんかよりクリノちゃんを心配してましたよ。ホントホント。
「んじゃ二人とも寄ってくれ。他の人に見られないようにな」
「分かった」
「ほいほーい」
情報というアドバンテージを手放してはいけない。
周囲の選手に見えないよう、三人固まって画面を覗き込んだ。
「お、あったあった」
下から二番目という不憫な結果のクリノちゃん。
コメントも地味な子が好きです!という一件だけ。
キャラの濃い他の巫女達に比べ、ビジュアルが普通過ぎるのが敗因か。
「ヨハンと一緒ならとりあえず大丈夫そうね」
一方リコちゃんは参加メンバーに注目していた。
映っているのはヨハンさんとグルダさんの二人のみ。
確かにこの面子なら危険は少なそうに思える。
キュロちゃんやタケさんのように、操られていなければの話だが。
「試合で接触できれば、洗脳を解くチャンスがあるかもな」
俺の言葉にリコちゃんが頷く。
しっかし誘拐した相手を試合に出すとは、暗殺者ギルドは何を考えているのやら。
単なる宣伝とは思えんし、裏があるに決まってる。
普通に参加させてる主催者側もおかしいけどな。
「ではそろそろ皆様お待ちかね、対戦の組み合わせを発表しましょう!」
「えっ」
いつの間にか巫女の紹介コーナーは終了していたらしい。
まだ心の準備ができてないってのに。
「再びモニターにご注目下さい」
落ち着く暇も与えられぬまま、トーナメント表がでかでかと映し出された。
出場者枠には巫女のアイコンが並んでいる。
リコちゃんの位置と対戦相手はすぐに見つかった。
「やった!セーフッ!!」
俺達と戦うのはオッサンだ。初戦からクライマックスという展開はギリギリで回避。
左側に妖精フェイスが見えた時は、マジで心臓が止まるかと思ったぜ。
犠牲となるエルフ娘さんに黙祷を捧げよう。
ゲッ!よく見たらオッサンの右に金髪お姉さんもおるやんけ。
「ん?」
すいませーん。
何か俺ら、サムライと桃太郎様に挟まれてないですかー?




