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第四話 ありのままでさらけ出してみるの


「ああ、やはりここでしたか!」


 扉を開けたのはいかにも兵士ですといった感じの人達だ。西洋の甲冑が勇ましい。

 俺の貧弱な想像力の割に登場人物の格好には説得力がある。


「黙って外出されたものですから、心配しましたよ」


「そうですよ。護衛も付けずに出歩くのは危険です」


 巫女ってのは結構偉いのか、そばかす姉妹に対して兵士達は随分かしこまっている。 


「別に必要ないのに。どうせホーミング王の命令でしょ」


 にしても、大人相手に物怖じしない娘っ子だ。

 うちの凶暴娘とといい、ちっこいのは強気属性を標準搭載してんのかね。


 元気があるのは結構。だがこういうのは相手を選ぶっつーか、敵を作りやすいもんだと思うよ。


「これってコスプレ?」


 そこで鎧をつついているちっこいのと同じでね。


「っておい!何やってんだよ」


 よりによって股間を覆う部分。えーと、名前分からんけど大事な場所を女子が触るとは何事だ。

 もうつつくどころか叩いてるし。鎧の兵士さん困ってるだろ。


「あの、この方々は?」


 兵士さん達は俺達の存在に気付いていなかったようだ。


 首根っこを掴んで不届き者を引き剥がした俺は、愛想笑いをしながらどう説明すべきか迷った。

 彼らの前で正直に言っていいものなのか。


「あたし達、そこのチビに誘拐されましたー」


 したり顔でリコちんを指すちび学生。そうそう、こいつは平気で告げ口するんだ。


「えっ?」


「まさか、勇者様?」


 ざわめく鎧の男達。

 悪役スマイルがさあ叱られろ、と巫女っちをさげすむ。


「リコ様にクリノ様」


 兵士達の中で一番偉いであろう髭の男が、巫女ちゃん達をすんげー真剣に見ている。

 もしかして勝手にやっちゃった系?あーらら、こりゃマズそうだ。


 しかし、次に飛んだのは叱咤や怒りの言葉じゃない。


「よくぞ決意して下さいました!!」


 髭のオッサンはちびっ子巫女の手を握り、歓喜の雄叫びを上げた。


「これで我が国の威信は保たれ、王もお喜びになりましょう!」


「ふえっ?」


 叱られるどころか賞賛される巫女ガールに、暴露した張本人は間抜けな声を出した。


「さすが奇跡の勇者様を呼び出された事はある」


「い、いえ。わたしではなくてリコが」


「末の巫女様がお一人で!?しかも一度に三人もですか!」


「命の巫女様の再来だ!」


 万歳三唱でも始まりそうな勢いに内気なクリノちゃんはタジタジだ。

 それでも妹が褒められているのが嬉しいのか、ぎこちない笑みを浮かべている。


 ところが褒められているリコちんは賞賛ムードに乗り気でない。


「今日は賢者様とお話があるから、ここに泊まるって伝えてちょうだい」


「分かりました。親衛隊長にお伝えしましょう」


「お願い」


 彼女が髭の兵士に外出しない事を伝えると、彼らは安心して引き上げた。


 兵士達を見送る巫女少女は不機嫌な表情のまま、静かに扉を閉める。



「それで?」


 ぽかんとするちみリータの代わりにイケメン中学生が冷静に問う。

 いつもより声のトーンが低く、尖ったツララみたいに態度に棘があった。


 さとりだけじゃなくコオリも少し怒っている。珍しい事もあるもんだな。


「タローさんを誘拐した目的を教えてくれないかな」


 深い色の視線を真正面から受けたちっちゃな巫女さんは、少し気圧されながらも目を逸らさず話す。


「さっきも言ったけど、これは誘拐じゃなくて巫女が勇者を呼び出す儀式なの」


「断りも無く外国に連れ出すのは紛れも無い誘拐だと思うけど」


 常識的に考えればそうなるわな。


 俺ぐらいの歳ならまだしも、小学生とか中学生なら一気に犯罪臭が増してくる。

 特に黒髪チビ子を誘拐なんぞしようものなら、恐ろしい雷爺さんが黙っちゃいない。


 うん、夢で良かった。ほんとマジで。


「タローが召喚に応えたから呼ばれたの。願ってもいない相手を呼ぶなんてミスはしない」


「本当に?」


「銀の杖に誓って」


 リコっちは自分の杖をぎゅっと握った。

 杖の先にはドングリとドジョウみたいな飾りがついている。


 話を聞いたコオリはクルリとこちらを振り向いた。


「え、俺?」


「もしかしてタローさん、お参りでお願いしてた?」


「あー、・・・ちょい思ったかも」



 正直に言おう。


 かなり本気で願った。

 いや、全力で祈りを捧げました!娘っ子の邪なオーラなんぞ跳ね飛ばす勢いでな!!


 俺が本当に求める場所はクソ田舎でも都会でもない。

 一生夢見る少年でいられるようなファンタジー全開の世界だ。


 まさか最後の最期に叶うなんて思っていなかったが。神様、グッジョブ!


「分かったでしょ。タローは望んでここに来たの」


 俺の発言にちび巫女ちんは余裕を取り戻し、強気な笑みを浮かべた。

 逆にさとりはぐぬぬと歯軋りせんばかりに悔しがっている。


「タローちゃん、本音?」


「残念だったなさとり。俺はこの世界で大人のお姉たまとキャッキャウフフしたいんだ!」


「「えっ?」」


「俺の楽園ライフにお前らは邪魔だ!とっとと帰れ!」



 しまった、言わされてしまった。

 盛大にぶっちゃけた俺に巫女シスターズが目を点にして固まっている。


「あれぇ~?タローちゃん、勇者なんて全然やる気無いみたいだね~」


 形勢逆転。セーラー小娘はニヤニヤと優越感を滲ませて笑う。


「待てさとり。俺勇者めっちゃやりたいから。世界救う気満々だから。勇者ダイスキデスカラ」


「タローさん。全然説得力無いよ」


 コオリの的確な指摘が場の空気を更に冷たくした。


 

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