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第三話 茶が飲める飲めるぞ茶が飲めるぞ


「わっ!」


 俺の叫びに驚いたちみっこ中学生がすってんころりんと転ぶ。

 同時に前方から結構な勢いで石が飛んできた。


「っと」


 多分さとりに向かって放ったんだろう。俺は少し屈んでひょいと石を掴んだ。


「!?」


 危ない危ない。やんちゃ女子との付き合いが無ければ咄嗟に反応は出来なかった。

 キャッチされるとは思わなかったらしく、石を投げたそばかす巫女はかなり驚いている。


「おいおい、危ないだろ」


 いきなり頭を狙うなんて女子の喧嘩は殺伐としてんなぁ。一体親はどういう教育をしてんだか。

 まあ親がまともでも、とんでもなく馬鹿な奴もいるけど。


「ちょっと!あたしのタローちゃんに何すんのさ!?」


 しげしげと眺める俺の視線には気付かず、立ち上がった冬服ミニは巫女少女におかんむりだ。


 お前が転ばなきゃこっちに被害は無かったんだがね。

 言われた巫女ちゃんもハイすみませんと謝罪するはずもない。


「あ、あなたのせいでしょ!」


 やっぱりね。

 俺には分かる。リコちんもちみ子に負けずとも劣らない意地っ張りだ。


「何ですってぇ!?」


 予想通り、ヒートアップした爆弾娘は鬼の形相で走り出した。

 命綱を腰に巻いたまま。


 ん?これちょっとマズくないか。


「おい待てさとり」


「待ってて!タローちゃんをたぶらかす誘拐猫をぶっ飛ばしてあげるから!」


 そりゃ泥棒猫の間違いだろ。昼ドラか。


 電撃娘は止まらない。

 しめ縄がピンと張ったのも気にせず、思い切りダッシュをかます。



 すぽーん!



 一本釣りにされたイケメンと目が合う。そりゃこうなるわな。


「さとり」


 すとんと着地したコオリはとりあえず縄を引き、突進する女子を止めた。

 脱出口の護り手の登場に、振り向いた暴走娘もさすがに状況を理解する。


「えええぇー!!?」


 繋がれていた穴は異物が無くなった途端にシュンと閉じてしまう。

 後に残るのは静寂のみ。


 一連の出来事、いや一人の馬鹿な娘の行動に巫女シスターズは閉口していた。

 妹の方は一転して可哀想な人を見るような視線を送っている。


「よ、ようこそ勇者さま。リーンバイトへ」


 クリノっちが歓迎の言葉を述べるも、この場の如何ともしがたい空気は変えられない。

 イケメンがしめ縄を解く音が空しく響いていた。




「で?どーいう事か説明してもらおうじゃない」


 随分偉そうだなオイ。


 ひとまず王家のほこらとやらから民家へ場所を移した。

 ジメジメした場所に長居したくなかったのもあるが、一番の理由は暑かったからだ。


 前述の通り俺達は冬真っ盛りの場所からやって来た。

 ここは温暖な気候らしく、コート姿の俺は特に場違いな格好をしている。


 密閉された空間から出て上着を脱ぎ、ようやく暑さから解放された。


「あのっ、まずはお茶をどうぞ」


 威圧的なちみガールの態度に怯えながらも、巫女の姉は健気にもてなしてくれる。


「毒でも入ってんじゃないの」


「は、入ってません」


 コラコラ、失礼だろ。おねーちゃん泣いちゃうぞ、ってかもう涙目だし。


 ジト目で睨むさとりんに代わり、カップを見たコオリは躊躇なく茶を口にした。


「うん、おいしい」


 イッケメーン。

 美しくも男らしい少年の微笑みに赤くなる巫女のお姉ちゃん。気持ちは分かる。


 コオリが体を張って証明した事もあり、さとりもカップに口を付けた。

 こっちは嫌々な表情を隠そうともしない。


「本当に、モモヤマ・タローとは関係ないの?」


「無い無い」


 どこの桃太郎様かは知らないが面識も関係もあるはずがない。


 しかしリコっちの疑いは晴れるどころか、むしろ強まっているようだ。

 なぜかクリノっちも腑に落ちない顔をしている。


 同じ名前じゃ無理もないかと思っていると、お姉ちゃんの方がおずおずと口を開いた。


「驚かないんですね」


「何が?」


「その、ポットがお茶を入れていたのに」


 出された飲み物は宙を浮く食器類によって入れられていた。


「だって魔法なんでしょ?マンガでよくあるじゃん」


 リトル女子はこの世界がファンタジーだと理解したため、全然疑問を抱いていない。

 たとえ魔法じゃなくても肝の据わった娘っ子はこれぐらいじゃ驚かない。


「魔法じゃありません。ええと、ツク・・・」


「付喪神?」


「あ、はい!ツクモガミなんです」


 イケメンの助け舟にパッと顔を明るくするそばかすお姉ちゃん。


「へー、日本以外にもあるんだな。知らんかったわ」


 軽い気持ちで茶をすする。

 ちびっ子巫女の疑いの目が更に強まった感があるが気にしない気にしない。


「そんな事より早くあたし達を元の場所に戻してよ」


 茶を飲み干した暴れん坊ガールが本題に入った。

 さとりの言葉にクリノちゃんはどことなく気まずそうだ。


「あ、あの」


「勇者として働いてくれたら、帰してあげる」


 説明しようとしたお姉ちゃんを差し置いて強気のリコちんが前に出る。


「はあ?今すぐ帰しなさいよ!あんたが勝手にタローちゃんをさらったんでしょーが!」


 うむ、ちみっこにしては珍しく正論だ。

 向こうも図星なのか一瞬怯むが、それでも主張は曲げない。


「巫女に呼ばれた以上、使命に従うのが勇者の役目なの」


「なーにが勇者よ!誘拐犯が偉そうに」


「誘拐じゃない!」


「誘拐でしょーが!!」


 睨み合うチビッコ達は互いに一歩も譲らない。


 どうしたもんかと眺めていると、外に人の気配を感じた。それも一人じゃない。

 コオリも気付いたらしくこちらに目配せしてくる。


 二人に声を掛けようと口を開いた時、扉が勢い良く開かれた。



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