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第二百二十九話 食べて その先へと進め


 一人だけ食事をしていないサユキに皆の視線が集まる。

 サトリだけは追加分の焼きバナナを食べるのに夢中になっていた。


 タローは一瞬気まずそうな顔になり、サユキはどう答えようか迷っているように見える。


 微妙な間にクリノがハッと息をのんだ。


「もしかして、わたしが勇者さまの分を食べちゃったんですか?」


 自分が同行したために食料が足りなくなったのかと焦るクリノ。


 用意した食料にクリノの分が含まれていないのは当然だ。

 しかし砂漠を渡るための食料がたった一食で尽きるはずはない。


 少なくとも五日分はあるので、足りなければそちらを回せばいいだけの事。


 均等に分ければ三日分ぐらいにはなるし、城下町に着けば食材を買い足せる。

 そもそもサユキは魔法でバナナが出せるので全く問題無い。


「あーっと、違うんだよクリノちゃん」


 責任を感じているクリノを宥めようとタローが口を開く。

 が、続く言葉がなかなか出ずかえってクリノの不安をあおっている。


「ごめんなさい!わたしのせいで」


「そうじゃなくてだな。なんっつーか」


「コオリが食べないんだったら全部もらっちゃってもいいよね」


 サトリはそう言って網の上に乗ったバナナを全て自分の皿に乗せた。

 断りを入れるという事は、一応サユキの分を残そうと考えていたらしい。


「待てい!」


 山盛りのバナナを食べようとする彼女をタローが止める。


「だってコオリ食べなくたって平気じゃん」


「他の人も食うかもしれねーだろ。一人で全部取んな」


 それぞれの皿に振り分けられていたのはサボテンのサンドとバナナ一本。

 私は二つだけで足りているが、体の大きいタローやグルダには少ないかもしれない。


 サユキがおかわりを用意していたというのに、根こそぎ持っていくとは意地汚いにも程がある。


 タローに叱られたサトリは渋々バナナを網に戻した。

 たった二本だけ。


「ちぇっ」


 一人で四本も取っておきながら膨れるサトリにタローがため息をつく。


「リコちゃんとクリノちゃんは食べるか?」


「いらない」


 クリノはとんでもないと首を横に振った。

 勝手に付いてきておきながらおかわりを要求するだなんて、図々しい真似は出来ない。


「キュロちゃんは」


「わたくしは結構です。先にたっぷりと頂きましたから」


 よく見るとキュロのサンドには肉だけが挟んである。

 浅漬け同様サボテンの味見をさせられてうんざりしているのだろう。


 女性を優先して聞く所がいかにもタローらしいと思う。


「じゃあ俺とグルダさんで分ける感じっすね」


「別に俺はそこまで食いてえとは思ってねえけどな。まあどうしてもってなら」


 食事中の席でそういう発言はやめた方がいい。特にサトリの前では。


 グルダの言葉を聞いた途端、彼女は網の上に残されたバナナを標的に定めた。

 当然自分の分は既に平らげている。


 素早い動作でスプーンを振りかざし、獲物にグサリと突き立てる。


「もーらいっ!」


「なっ!?」


 バナナを掻っ攫われたとグルダが気付いた時にはもう遅い。

 皮を取り除かれた白く柔らかな塊は、無情にも暗い穴の中に吸い込まれていった。


 サトリの口という絶望の穴から底無しの腹へと。


「ごちそうさまー」


 何食わぬ顔、いや何もかも食った顔で食事の終了を宣言した彼女。


 唖然とした表情で網を見つめるグルダ。

 食べ終えたサトリはさっさと皿を置き、氷のテーブルに触れて冷たさを堪能している。


「あの、半分でよければ俺の分どうっすか」


 食べかけのバナナを差し出されたグルダは無言で首を振る。


「焼いてなくてもよければすぐに用意出来るけど」


「えっ!あたしにもちょうだい」


 サユキが取り出した黄色いバナナに真っ先に反応するサトリ。

 グルダの顔にピシリと血管が浮かぶ。


「いらねえよ!!つうかてめえも少しは怒れ!!」


 怒りの矛先はなぜかバナナを差し出したサユキへと向けられた。


「本当は食うつもりだったんだろ!こいつの分が増えたからって遠慮しやがって」


「ええっ!やっぱりわたしのせいなんですか!?」


 グルダに指差され、話を蒸し返されたクリノが再び焦り出す。


 ひょっとしたら彼の言うように、サユキは食材が減らないように気を遣ったのではないか。

 人数分を用意出来ないのなら、自分の分を減らして節約しようと。


「バナナとやらで済まそうと思ってたんじゃねえか。それすらクソガキに譲りやがって」


「別に遠慮はしてないけど」


「だったらてめえの分の肉はどうした」


 グルダに言われて気が付いた。

 サユキの皿には何も入っていないどころか汚れてさえいない。


 私達は確かに人数分の肉を屋台で買った。もちろんクリノの分も入れて。


「大方ガキの分に多く入れたんだろ」


「えー、普通だったよー」



 ピーヒョロローン。



 サトリが口笛を吹いている。無駄に上手いのが微妙に腹立たしい。

 夢中で食事をしていた彼女がいちいち肉の枚数を数えているとは思えない。


 やはりサユキは食糧事情を踏まえ、あえて食べなかったのだ。


 肉だけを盛っていれば不自然に思われるため、サトリに回したのだろう。


「砂漠を舐めんじゃねえ!肉も食わねえで素人が渡れると思ってんのか!?」


 彼はサトリにバナナを奪われた理由だけで怒っていたのではなかった。

 自分の事を疎かにしているサユキに我慢ならなかったようだ。


「てめえもガキに変な気を遣わせるんじゃねえ!」


「スンマセン、俺もさっき気付いたんすよ」


「だったら何か食わせるなりしやがれ!」


 掴み掛かるグルダに降参のポーズを取るタロー。

 そんな二人のやり取りを見ていたサユキが静かに立ち上がる。


「タローさんは何も悪くないよ」



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