第百七十八話 そんな時は凹まないで エンジェルがいるファイト!!
「近頃は何かと物騒じゃないか。カミさんに迷惑が掛かると困るんだよ」
剣を渡したジーちゃんは肩の荷が下りたって喜んでる。
タローちゃんはそんなジーちゃんをジト目で睨んだ。
「俺には迷惑掛かってもいいって事っすか」
「太郎君は丈夫だし、まだこの世界で失う物なんて無いじゃないか」
「レイジさん、ちょっと外で相撲取りましょうや」
タローちゃん流の屋上に来い発言にジーちゃんは手を横に振る。
「冗談だよ冗談。勇者の居住区に盗みに入る命知らずはいないと思ってね」
もう盗賊が二人も入っちゃってるんだけど。泥棒しに来たんじゃないならセーフかな。
「あそこは兵士の巡回もあるし昼夜問わず人で賑わってる」
何かあればすぐ助けが入るってジーちゃんは笑った。
確かにあそこに住んでるのって全員勇者だから、普通の強盗なんて簡単に退治出来そう。
捕まえたら兵士に丸投げしちゃえばいいもん。ついでに報酬ももらえちゃうかも。
「だから安心して預けられるという寸法さ」
「ちっとも安心出来る要素が無いと思うのは俺の気のせいっすかね」
タローちゃんは喋りながら勇者の剣の包みを自分のバッグに入れた。
挙動不審にならないように自然な動きで。
そんなに警戒しなくても、こんなガラガラの休憩スペースなんて誰も注目しないよ。
先に入ってた外人二人組も出て来てないし。まだ粘るつもりなのかな。
多分コオリが一緒にいたら女の子が待ち伏せしてただろうね。
あたし達が入るまで外で隠れてて、中に入ったのを見計らって受付に殺到するんだ。
でもって露天風呂に押しかけて、あたしみたいに間違ったフリして男湯の方に突撃するんだよ。
きっと外人も大喜びだったんじゃないの。
「君らなら魔物や悪魔が相手でも負けやしないだろう?」
「当ったり前じゃん」
何たって毒サメの親玉を退治した勇者様だもん。魔物なんて全然怖くないよ。
悪魔だって変態魚とかタキシードウサギとか変なのばっかじゃん。
あんなのあたし一人でボッコボコに出来ちゃうし。
「何より巫女対戦に出るというのが好都合なんだ」
「どういう意味っすか?」
タローちゃんがまたジーちゃんを疑惑バリバリの目で見てる。
きっとこの前もらった指輪が合わなかったから、ずーっと根に持ってるんだよ。
しょうがないじゃん。タローちゃん背だけじゃなく手も大きいんだから。
普通の指輪じゃ入らないに決まってるよ。小指だって無理。
コオリにでもあげちゃえば?
あたしはボロくて可愛くないからいらない。
才能いっぱいあるって言われたコオリなら、もしかしたら使えるかもしれないよ。
「巫女対戦が行われる花の国に行くには、ここからだと馬車で砂漠を渡るのが一般的な手段だ」
暑くてめんどくさそう。飛行機があればパーッと行けちゃうのに。
馬車ってタクシーみたいに気軽に乗れるのかな。
山の方にある牧場の牛なら乗り回して怒られた事あるけど。
「君達ならその道中、もしくは会場で彼に会う機会があるかもしれない」
「「彼?」」
よし、今度はピッタリ揃った。幼馴染パワーを舐めないでよね。
ジーちゃんはさっきよりももっと小さな声であたし達に言った。
「剣の持ち主、救済の勇者だよ」
「まだ現役だったんすか!?」
「ふーん」
リアクションの薄いあたしを見て意外そうな顔をするジーちゃん。
「おや、お嬢ちゃんは驚かないんだな」
「だってどういう奴か知らないもん」
桃太郎はドラゴン倒したって聞いたから、ちょっとは凄いって分かるよ。
町の人みーんな知ってるし、タローちゃんが名前言うたびに間違われてるじゃん。
他の国から来た赤ずきんも知ってるくらいだからね。
それに比べて何とかって勇者の話なんて全然聞かないもん。
何やったかも分かんないんだから、驚けって言われてもピンと来ないよ。
「そうか、そういえば話してなかったかもなぁ」
ほーら、あたしが忘れてるワケじゃなかった。
「さてどこから話したものか」
「あの、なるべく簡単に短くお願いするっす」
年寄りの話って長いからタローちゃんも苦手なんだね。
「こいつが飽きて暴れるかもしれないんで。ついでに長いと絶対忘れるっす」
むむ、あたしのせいにしないでよ。剣の事だってちゃんと覚えてたんだから。
「じゃあ手短に説明しよう」
ジーちゃんが配給所で剣出した時に周りがやたら騒いでたよね。
あと変態魚が持ってくなって、やけにしつこかったのは覚えてる。
勇者が目覚めたら悪魔が滅ぶとか、そんな感じだったよ。
だけど持ち主が生きてるんだったら目覚めるとか関係無くない?
もう引退しちゃってるって事なのかな。
「彼は妖精の国で召喚された、今は亡き虹の賢者に祝福された勇者なんだ」
妖精って聞いてタローちゃんが目を輝かせた。
「妖精がいるんすか!?」
「いや、魔物に国が潰されちまったからもういないよ」
「そっすか」
妖精がいないって言われてタローちゃんがしょんぼりしちゃった。
元気出して!隣にカワイイ天使がいるよ。
「どんな活躍したの?」
「たくさんの人を救ったって話だ。人や妖精だけじゃなく、勇者や巫女までもね」
「へー」
それぐらいタローちゃんにだって出来るじゃん。全然凄くないよ。
「魔女に乗っ取られそうだった花の国を救ったり、砂漠の盗賊団を壊滅させたり」
盗賊女を城から追い出したし、毒サメ軍団倒したから今のところ同点だね。
「妖精の国に伝わる忍者刀を使う事を許された唯一の人間で」
刀ならタローちゃんだって持ってるよ。折れてるけど。
「虹の賢者の力を引き継ぎ、全ての賢者の力を使えたそうだよ」
あっ、タローちゃんが聞かなきゃよかったって顔してる。




