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第百七十五話 使ってみるたびきゅうりが増える そんな不思議な魔法が欲しい


「あーあ、せめてどんな祝福特典があるのか聞いとけばよかったぜ」


 あたしとタローちゃんはデートを再開してランチタイムに突入した。


 今日は自腹だから普通のお店。テイクアウトもやってて外で食べてる人もいる。

 ごっつい格好の人達はダンジョンにでも行くのかな。


「そうだよな。杖が無いのに魔法使えるって言ったら勇者か賢者しかいねーじゃん」


 頼んだのは柔らかい肉がたっぷり入ったクレープっぽいのと、野菜がゴロゴロのサラダ。

 サラダはいらないって言ったのに野菜も食べろって注文されちゃった。


 デザートは地下水で冷やした水果すいかっていう果物。


 スイカと違って色が透明で食感はぷるぷるしてる。アイスにしたらもっとおいしいかも。

 今度コオリにやってみてもらおっと。 


「もしかしたら俺の魔法の才能が開花したかもしれないってのに」


「どうせ猫耳のオッサンみたいなのじゃないの。ニンジン出せるとか」


 本命の凄い賢者じゃないんだから多分才能無いって言われて終わりだよ。

 あの赤ずきんボロクソ言いそうだし、やめといて正解だって。


 ウサギの悪魔が寝返ったっていうのも餌付けされたからじゃないの。


「きゅうりだったら即決するんだけどな」


 相変わらずタローちゃんのきゅうり愛が止まらない。

 前にあたしときゅうりどっちが好きって聞いた時も即答されちゃったもん。


 ここに来てからずーっと食べてないから余計に恋しくなっちゃってるんだね。


 あたしもそろそろポテトチップとかカップラーメンが食べたくなってきたよ。

 ついでに白いごはんとお味噌汁も。


「それよりごはん食べたらお風呂行こうよ」


「はぁ!?」


 あたしの提案に食べてた水果を落っことしそうになるタローちゃん。


 寸前のところでキャッチしたけど、もうそれ食べるとこ残ってないよ。

 皮の部分ギリギリまで食べなくてもいいよね。あんまりおいしくないのに。


 もしかしてきゅうりに味が似てるからって食べちゃったとか?


「風呂って、真っ昼間じゃねーか」


「だってメカ忍者と戦って汗かいちゃったじゃん」


 チビ巫女の家にもお風呂が無かったワケじゃないんだけど、あれってほぼ水浴びじゃん。

 沸かしたお湯と水をタライに入れただけだもん。


 ちょっと時間経てばすぐに冷めちゃうし、何よりタローちゃんと一緒に入れないのが問題だよ。


 大衆浴場っていうぐらいだから結構広そうだよね。


「着替えもバスタオルも持ってきてないだろ。石鹸だって必要かもしれねーし」


「きっと大丈夫だよ。レンタルしてるって」


「だったら帰ってから沙雪と三人で来ればいいじゃんかよ」


 タローちゃんならそう言うと思ってたよ。一人だけ仲間外れは可哀想だって思ってるんでしょ。

 こっちだってちゃーんと考えてるんだから。


「コオリ熱いの苦手じゃん。家で水浴びの方がいいに決まってるよ」


 ちなみにコオリはお風呂に入っても溶けたりしないよ。


 その代わり暑い日は微妙に不機嫌になるんだよね。

 タローちゃんとか周りの人は気付いてないけど、あたしには分かるんだもん。


「でもなぁ、こういうのは一応誘うもんだろ」


「コオリが入ってお湯がぬるくなったら困るじゃん」


 ホントは怒ってなきゃ大丈夫だけどね。いっつも冷房状態ってワケじゃないし。

 一時間ぐらい入ってなきゃ氷も浮かんでこないよ。


「それに病み上がりって事になってるんだから、待ってたらいつ行けるか分かんないもん」


「んー、まぁな」


「タローちゃんだって大きいお風呂で伸び伸びしたいでしょ」


 ベッドが小さくて足が伸ばせないって、さっき料理来る前に言ってたじゃん。

 体の疲れが取れないとグッスリ眠れないよ。


 大きいお風呂で思いっきりリラックスすれば、きっと気持ちよく眠れるんだから。


 あたしが夜這いしても気付かないぐらいグッスリね。


「ほらほら行こうよー。コオリはまた今度連れて来ればいいじゃーん」


「確かに湯船が恋しくなってきた頃だからな。行くか」


「やったー!」


 タローちゃんと二人っきりでお風呂屋さん。完璧に恋人のデートだよね。

 今の時代、女の子の方からどんどん押してかなきゃ。 


 火照った体で男女の仲が深まっちゃって、えっちな展開待ったなし?いやーん!


「んじゃ、風呂から上がったら真っ直ぐ帰るからな」


「えぇー!?」


 ちょっと待ってよ!すぐ帰っちゃったら意味ないじゃん!

 今日はタローちゃんを誘惑して夜の街に消えるっていう最終目標があるんだよ。


「何だよ」


「まだお昼過ぎたばっかじゃん!もっと色々回って遊ぼうよ」


 お風呂の後は二人で森を散歩したりオボルグ狩って食べたり。

 ほこらで魔物退治とか宝探しして、またまたお風呂に入って汗を流したり。


 暗くなってきたら晩ごはん食べて外泊したりで、一気に既成事実作っちゃおうと思ってたのに。


「沙雪を残して一日中遊んでられるかよ」


「大丈夫だよ。お腹すいたらバナナ出せばいいし」


 魔法使えるんだから放っといても平気だよね。多分盗賊男と盗賊女にもあげるでしょ。


「お前なあ、考えてもみろよ。あの三人で会話が弾むと思うか?」


「コオリなら普通に誰とでも仲良く喋れるじゃん」


 きっと盗賊男にも色々質問して、メモの内容充実させちゃうんじゃない。

 お宝のありかとかドロボーの技とか覚えちゃったりして。


 盗賊女は、まぁテキトーに何とかするでしょ。


「グルダさんはともかく、キュロちゃんは絶対気まずいだろ」


「むー」


「膨れんなって。帰りに菓子でも買ってやるから」


「ホント!?」


「一つだけな。後は夕食の食材探しだ」


 まあ、タローちゃんがどうしてもって言うなら我慢してあげなくもないよ。

 あたしの心の広さに感謝してよね。



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