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第百六十八話 駆け出した君をつかまえたくて 町の中ずっと走り続ける


 あたしとタローちゃんの愛の力にも屈しなかったメカ忍者。

 それを倒したのは偶然通り掛かって助太刀に入った、三度笠のネーちゃんだった。


 しかもこのネーちゃん、巫女なのに勇者みたいに強いんだよ。


「怪我は無いでござんすか」


「あ、はい。大丈夫っす」


「それはようござんした」


 仕込み杖を鞘に戻した三度笠のござんすネーちゃん。


 ホントにござんすネーちゃんだよね?同じ顔した双子とかじゃなくて。

 赤ずきんに叱られて涙目だった、ウサギと結婚予定の時代劇ネーちゃんだよね?


「お嬢さんは?」


 いきなり話振られたから大丈夫だって頷いておいた。


 顔が見えないござんすネーちゃんの周りには殺伐とした空気が流れてる。こう、近寄りにくい感じの。

 まるで王様の椅子真っ二つにした時のチビ巫女の兄ちゃんみたい。


 そのままゆっくりタローちゃんの横を通り過ぎて、煙を上げるメカ忍者に近付く。


 どうするのかなって思ってると、ござんすネーちゃんは仕込み杖を思いっきり突き立てた。


「・・・!!」


 脇の間ギリギリの所を刺されて、メカ忍者の手足がビクリと動く。


「やはり死に真似でござったか」


 メカ忍者の腹を踏んで仕込み杖を突き付けるネーちゃん。

 顔も感情も見えない相手に、危険を感じた機械の忍者がガタガタ震え出した。


 メカのくせに怖がるなんて、こいつ実は中に人が入ってるんじゃないの。


 でも真っ二つにされて生きてる人間なんていないよね。どうなってるんだろ。


「噂に聞く巫女殺しは、お主の仕業でござんすか?」


 お仕置き人よりずーっと仕事人っぽい態度のネーちゃんに、メカ忍者がブンブン首を横に振る。


「では犯人に心当たりは?」


 メカ忍者は半分になったそれぞれの頭で必死に首を振り続けてる。煙が出るくらい。

 体が壊れてるから地面が擦れてるせいか、こいつから出てる煙か分かんないけど。


「そうでござんすか」


 バッサリやっちゃうのかと思いきや、ござんすネーちゃんはアッサリ仕込み杖を地面から抜いた。

 赤マフラーが消えて元の色に戻ったメカ忍者が目をパチクリさせる。


「これに懲りたら町で騒ぎを起こすのはやめて、早々に立ち去るでござんす。でなければ」


「ハ、ハハーッ!!」


 ござんすネーちゃんの迫力にビビったメカ忍者は、ボロボロの体で素早く土下座した。


 まるでテレビの時代劇見てるみたい。

 ここって夢と魔法のファンタジー世界じゃなかったっけ。


「これにてオサラバ!」


 あっ、また逃げちゃった。

 せっかく追い詰めたんだからちゃんとトドメ刺しとけばいいのに。


 生かしておいたらまた来ちゃうじゃん。あたしもうヘンテコ忍者の相手なんてしたくないよ。


 だけど文句言って斬られちゃったら困るし黙ってよっと。


 メカ忍者がいなくなったのを確認すると、ござんすネーちゃんがこっちを振り向いた。

 タローちゃんの肩がビクッて震える。


「いやー、驚いたでござんす」


「はい?」


 へにゃっとした声を聞いてタローちゃんが思わず聞き返す。


「あのような不思議な相手は初めてでござんす。まさか本当に立ち上がるとは」


 三度笠の下で気が抜けた顔をしながら首を傾げるござんすネーちゃん。


 もしかして死んだフリしてるの知らないでやってたの?一応やっとこうみたいなテキトーな感じで。


 ござんすネーちゃんの殺し屋っぽい雰囲気はすっかり消えてた。

 さっき見てたのは夢なんじゃないかって思うくらい、ヘラヘラした顔で笑ってる。


「えーっと」


 タローちゃんが反応に困ってる。

 町の人達もいきなり色んな事が起きて混乱してるみたいで、すっかり静かになっちゃった。


 でも子供達はキラキラした目でござんすネーちゃんを見つめてる。


 ちょっと前まであたしに憧れてたくせに。

 いいもんね。あたしが褒められたいのはタローちゃんだけなんだから。


「しまった!ついやってしまったでござんす」


 注目されてるのに気付いたござんすネーちゃんは、急にソワソワしだした。

 落ち着かない様子でキョロキョロ辺りを見回してる。


「どうかしたの?」


 三度笠を更に深く被ったござんすネーちゃんは、急に情けない声を出した。


「うぅ、その、拙者はただの通りすがりで、これっぽっちも役に立たない無能でござんす」


「活躍してたじゃん」


 あたしとタローちゃんの見せ場奪っといて何言ってんの?

 まるであたし達がもっと役に立たないみたいじゃん。


「そうっすよ。危ない所を助けてもらって感謝してるっす」


「別に助けなくても平気だったけどね」


 最後の攻撃さえ気を付けてたら、タローちゃんとの結婚計画もうまくいってたんだもん。

 

「むしろ余計なお世話ふぁっふぁ」


「俺に引っ付いて邪魔をした馬鹿はどこのどいつだ」


 タローちゃんほっぺ引っ張らないで。伸びちゃう伸びちゃう。


「とにかく拙者は失礼するでござんす」


 そう言ってござんすネーちゃんは逃げるみたいに歩き出した。


「あ、せめてお礼に食事でも」


 タローちゃん、まさかナンパじゃないよね。


「結構でござんす!先を急ぐので」


 怪しい。慌てて逃げるなんてやましい事でもあるんじゃないの。




「そんなに急いでどこ行くの?」


 気になったから付いてってみた。


「お嬢さんには関係無いでござんす」


「ケチ!教えてくれたっていーじゃん」


 早足でズンズン進むござんすネーちゃんを追っ掛ける。

 あたしが全然引き離されないのに気付くと、速度を上げて逃げようとする。


「!」


 ござんすネーちゃんが急に角を曲がった。三度笠を揺らして細い道にダッシュで入ってく。


 振り切ろうったって無駄だよ。あたしの足から逃げられるなんて思わないでよね。

 向こうでチビ巫女が歩いてるのが見えたけど、気にしないで後を追った。



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