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第十五話 誰でもいいから褒められたい


 麗しのお兄様に案内された俺達勇者トリオ。


 綺麗な街並みは平和そのもので、魔物に脅かされているだとかいう雰囲気じゃない。

 人々の表情も明るいし、勇者なんて全く必要無さそうに見える。


「色んな人がいるっすねー」


 賑やかな通りにはターバンを巻いた人やいかにも商人って感じの人。

 大きな武器を背負った狩猟民族っぽい人も歩いている。


「森の国が国交を再開して以来、この国に訪れる人は大幅に増えています」


「へー」


 日本みたいに鎖国でもしてたんかな。

 それでも暮らせるって事は資源豊かな国なんだろう。いい所に呼ばれたもんだ。


 魔王の支配下の町とか滅亡寸前の国なんてハードな展開じゃなくて良かった。


「しかし宿泊施設がまだ少なく、遠方から訪れる者は限られています」


 急に脚光を浴びた観光地みたいだな。


 そんな事を考えながら歩いていると一軒の店先から怒鳴り声が聞こえてきた。


「おいネーチャン!もっと安くならねェのかよ。こんな田舎にわざわざ来てやってんだからよォー」


「すみません。価格は国で定められているため私達が変える事は出来ないんです」


 あーいるいる。客だから偉いと思ってんのか、無駄に態度がでかくなる奴が。

 文句言うなら他で買えばいいじゃんかよ。


「ナメてんのか?上のモン出せやオラァ!」


 おいおい、店のオネーさんが笑顔のうちにやめとけって。


 止めようと口を開きかけた時、美形を兜に包んだお兄様がスタスタ歩き出した。

 そして迷惑客の背後に立ったと思うと片手で首根っこを掴み、容赦なく地面に叩きつけた。


「ぐえ!」


 カエルみたいなポーズで制圧され、顔を上げた男の目には重厚な鎧を纏った兵士が映る。


「商店の管理は国が一括して行っている。苦情は店ではなく直接城へお願いしたい」


「な、何だっ!テメェ!?」


 お兄様相手に引かないなんて根性あるな。あの格好じゃ逃げたくても逃げられないけど。


「これ以上騒ぎを起こすなら、入国許可証は没収する」


 クレーマーの周りには騒ぎを聞きつけた他の兵士達も集まっている。治安対策は万全のようだ。


「ケッ!こんな国、二度と来るか!」


 解放された男は兵士達の姿を見ると、悪態をつきながらそそくさと退散した。

 さすがお兄様。素敵!


「ありがとうございます!ゼナ様」


 礼を言うオネーさんは親衛隊長様に夢中だ。兵士達も尊敬の眼差しを向けている。

 こんなん誰だって惚れるわな。


「申し訳ありません。お見苦しい所を」


「いや全然そんな事無いっす!」


 戻って来たハンサム隊長に慌てて首を横に振る。

 下手すりゃ俺も恋する乙女になりそうで怖い。イケメン耐性があって助かったぜ。


「もしトラブルに遭遇されましたら助けを呼んで下さい。すぐに付近の兵が駆けつけます」


 何事も無かったようにお兄様は再び歩き出した。

 町行く人々の視線が集中しているように感じるのは気のせいじゃない。


 小さな子供達もお兄様の姿を見ると嬉しそうに手を振っている。


「人気者だなー」


 俺も勇者として活躍すれば、そのうち道行く女性に惚れられちゃうかも。


「ねえねえっ、あの男の子すごく綺麗じゃない?」


「本当。どこかの国の王子様みたい」


 いや、やっぱこいつらがいる限り無理だ。

 ヒソヒソ話す少女達の注目を集めているのはウチのイケメン貴公子。


「ゼナ様が連れてるって事は勇者様よね。変わった格好してるし」


「あんな綺麗な男の子が呼べるんだったら、わたしも巫女になりた~い」


「え~、無理無理。緊張して絶対話せないよ」


 イケメンは異世界でも大人気のようです。


 くそう!

 俺一人だったら、見て見て!すごく大きな人がいる~!くらい言ってもらえたのに。


「あたしがもうちょっと若けりゃ、二人にアタックしたのにねぇ」


「おやまぁ、アンタ欲張り過ぎだよ」


 オバサマ方にも大好評でござります。

 俺達は完全に美形二人のオマケみたいになっている。分かっちゃいるけど悲しい。



「ねぇ、何か一人だけでかくない?」


 おっ、ようやく俺にもスポットライトが?


「ほんとだ。ゼナ様より大きい」


「ちょっと大き過ぎよね。何食べたらあんなに大きくなるんだろう」


 うん。予想とちょっと違うがリアクションを貰えただけマシだ。

 女の子達が注目しているのには間違いない。


 ほんの少しでもいい。褒めてくれたら俺は勇者としてこの国を護ろうと誓うだろう。

 魔物だろうが悪魔だろうがどんと来いだ。


「勇者っていうより使い魔みたいじゃない?」


「それそれ!私もそう思ってた。タロー様が連れてそうだよね」


「分かる~、タロー様も可愛かったよね~」


 ま た そ れ で す か。


 名乗ってもいないのに話が出て来るって、どんだけ関わってくんだ。俺の運命の相手かよ。

 つーか桃太郎様もカワイイ系なの?美少年なんですか!?


「どうしたのタ」


「ちょいストップ沙雪」


 俺を呼ぼうとしたコオリを制止する。今ギャラリーに名前を聞かれたりしたらお手上げだ。


 少女達の噂話はあっとう間に町中に広がるだろう。美少年じゃない方のタロー様として。

 せめて何らかの活躍をしてからじゃないと俺の精神が持たない。


「とりあえず今は黙ってくれ。頼む」


 理由も聞かずに頷いてくれるイケメン。俺の心のオアシス。


「ちょっとタローちゃん、おそーい!」


 チビリータが遅れていた俺達を振り返り大声を上げた。


「早くしないとお昼になっちゃうよー!」


 ざわめく町の人々。集まる視線。


 なあ、この世界って俺にだけ厳しくない?



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