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第十二話 SUMOU最強ナンバーワン


「下がって!」


 リコちんが銀の杖を振ると地面に転がる石が巨大鳥へと飛んだ。


「目を狙うのか」


「当たり前でしょ」


 親鳥の方は逆立った毛が随分固そうだ。


 真っ直ぐ飛んだ石は狙いを外さずオポルグとかいう鳥の頭を捉える。

 が、当たる直前に鳥が頭を振って石を弾き飛ばした。


「!?」


「やべっ」


 俺は巫女っちを引っ掴んで突進してきた鳥から逃れた。凶暴な牙で木が大きく抉られる。

 素早いガキんちょは助けんでも大丈夫なんで放置だ放置。


「うひゃー、おっかねぇー」


 木を破壊した巨大鳥は上空を旋回している。


「ちょっと!タローちゃん」


「へいへい」


 嫉妬ガールがうるさいのですぐに巫女少女を解放する。


「手を貸さなくてもあれくらい平気なのに」


 こっちはこっちでテンプレみたいなツン台詞を吐いてきた。

 余計な事を喋ってまた状況を悪くするのもいかんので黙っておく。


「タローとサトリは隠れて」


 巫女様が飛び出した勢いのまま銀の杖を振る。

 精度の高い石の弾丸が、降下を始めた鳥の前方へ向けて大量に放たれた。


 巨大鳥は片翼で石を防ぎ頭を守りながら突進を続ける。ちょっと利口過ぎやしませんか。


「この程度」


 リコっちは慌てず近場の岩を利用し、鳥を飛び越えて攻撃を避けた。


 飛行速度が落ちた所を狩りのエキスパートは見逃さない。

 地面からミサイルみたいに飛んだ石が柔らかい腹の部分に命中した。


 しかし鳥は僅かに怯んだだけ。向きを変え、我が子を奪った憎き敵に牙を剥く。


「おい、大丈夫なのか?」


「引っ込んでて!」


 声を掛けると逆に睨まれた。そんなに怒らなくてもいいじゃんよ。


 迷いの無い動作でリコちゃんが両手で杖を振り下ろす。

 繰り出された大きな石が突っ込んで来た巨大鳥の頭にクリーンヒット。


 たまらず鳥は墜落し、地面に叩きつけられた。



「すっげぇ」


「これくらい当然でしょ」


 優秀な巫女さんに俺はただただ拍手を送った。澄まし顔で杖を収めたリコちんはちょっぴり自慢げだ。


「何よその態度!せっかくタローちゃんが心配してくれたのに」


 うちのスモール女子は巫女さんの活躍が気に食わないらしい。

 仕事を終えた狩人ハンターに詰め寄り、ビシと人差し指を突きつけた。


「素人に何が出来るっていうの。魔法も使えないのに」


「またそれ!?魔法なんて無くたって捕まえられたじゃない!」


 アマチュアガールが戦利品を突き出し主張するが、プロ巫女様は余裕の表情で跳ね除ける。


「たまたま成功しただけでしょ」


「何ですってー!?」


 小さな凶獣はギリギリと腕に力を込める。

 俺は何となく胸騒ぎがしたため、奴の怒りを鎮めるために前へ出た。


「落ち着けさとり」


「でもタローちゃん!」


 既にさとり大明神は大層ご立腹だ。

 巫女っちは馬鹿にしているつもりは無いんだろうが、その態度では思春期真っ盛りの女子に通じまい。


 下手に指摘してもかえって泥沼化しそうだ。


「リコちゃんは狩りの名人で、お前も獲物を捕まえられた。それでいーじゃんか」


 こういう時は両方褒める。

 片方だけ評価すれば不公平になるし、慰めればもう一方が悪者のように感じてしまう。


 イケメン以外が女子に嫌われないためには、色々と心遣いを積み重ねにゃならんのだ。


「さとりは初めてなのに難しい獲物をゲット出来ただろ?一生懸命やったんだよな」


「そうだよ。なのにこいつがイチャモンつけてくるんだもん」


 一生懸命の部分を強調するとリコっちは少々ばつの悪い顔を見せた。

 そばかす巫女ちんは謝れる子だ。きちんと話せば分かってくれる。


「でもお前が放置したデカイ鳥をやっつけてくれたんだぞ」


「あんなのあたしだって」


「俺達に怪我させないように一人で頑張ったんだ。小さいのに偉いよなー」


 小さい、の部分にさとりっちが押し黙る。


 巫女ちゃんが自分より小さいという事に改めて気付いたんだろう。

 どんなにしっかりしていても相手は年下だ。


「二人とも一生懸命頑張った。喧嘩はやめて帰ろう、な?」


 俺の笑顔に小っちゃい女子共は渋々ながらも頷いた。

 危険回避成功。後は誰かさんがいらん事を起こさんように戻るだけだ。


「よーしさとり。特別に手を繋いでやろう」


「ほんと?」


 うれしそうな小型少女。

 馬鹿め、お前の行動を制限するための計略だとも知らずに。


「帰るまでだからな」


「やったー!」


 眼下ではしゃぐ女子に俺の黒い笑みは見えていない。

 楽しげなさとりは浮足立った様子で俺の右側へ回り込んだ。よしよし。


「それ邪魔でしょ。私が持とうか」


 親切なリコっちは抱えた獲物を受け取ってやろうと提案する。やっぱりいい子だ。


「やだ」


 おいコラ空気読め。


「あたしが持って行って自慢するんだから」


 強欲な娘っ子はぎゅーと獲物を強く抱きしめた。


 ギィー!ギィー!


「えっ?」


 強く体を締め付けられた獲物は目を覚まし鳴き声を上げた。

 それだけならいい。それだけなら。


 ギャーー!!


「!!」


 うん、こうなるわな。


 我が子の叫びで目覚めた親鳥が雄叫びを上げ、きりもみ状態で突っ込んで来た。

 前の巫女っちをすり抜け、巨大鳥は俺達を標的に定めている。


「タロー!」


 あーもう俺の気遣いとか色々台無しじゃんか。



「どすこーい!」


 俺は腰を落とし、突き出した手からマッハ・インパクト(張り手)を炸裂させた。

 ひしゃげて吹っ飛んだ巨大鳥にリコちんの目が点になる。


 鳥の羽と肉片が散乱する中、俺は血塗れた手を見ながらどんな言い訳をしたもんかと考えていた。



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