第百十八話 クールなイケメン続けたら嫌いさ
「さあ、三つの中から選ぶアル」
ひんやりモードから元に戻ったコオリの前で、三つの輪っかが光ってる。
課金の鬼になったコオリは、ちゃんと三択をやらせるって事でジジイの降参を認めた。
さっきまでのはボッタクリ用の裏技でインチキしてたんだって。
本当に三つから選ぶのと確率で選ばれるの、二つを使い分けてたみたい。
やっぱりあたし達が子供だからって舐めてたんでしょ。ぷんぷん!
「じゃあとりあえず」
コオリは金貨を一枚置いてヒゲジジイを上目遣いで見た。
まだちょっとキラキラが残ってるから破壊力高いよ。
ちなみにさっきジャラジャラ出した分は無効って事で返してもらってる。
あのままやってたらどんなに凄い物が当たったんだろ。
ヒゲジジイが死んじゃうから出来ないけど、ちょっと気になるよね。
「し、仕方ないネ。今回だけアルヨ」
顔を逸らしたヒゲジジイがパチンって指を鳴らした。
「わっ!」
光の輪っかが変わった。
全部同じようなのだったのがそれぞれ見分けがつくようになってる。
左のは錠前っていうんだっけ。あれが丸い光をグルグル巻きにしてる。
真ん中のはすっごい光り過ぎ。眩しくって見てらんないよ。
右のは普通の光に見えるけど、あったかい感じがする。
「ヒントサービスは金貨一枚アル。選ぶにはもう一枚必要ネ」
「はぁ!?何でまた必要なのさ」
最初に払ったのと合わせて二枚もあげてるじゃん。
ちょっとコオリ、全然反省してないよ。やっちゃいな。
あたしが学ランの袖引っ張って合図したら、コオリが頷いてバッグから金貨を出した。
ピシピシッ!
「どうぞ。少し冷たいかもしれませんが」
ヒゲジジイが氷のボールに入った金貨を見てぎょっとしてる。
コオリは雪女の子だからね。触った物とか凍らせるのは朝飯前なんだから。
もちろんあたしと同じでタローちゃんにはやらないよ。
「違うアル!こういう仕組みネ。ワタシお金欲しくて言ってるのと違うヨ」
「だったら最初から言えばいーじゃん」
わざと黙ってたなら騙したのと同じでしょ。言い訳しちゃって往生際が悪いったらありゃしない。
「三択屋の特別ルール。追加料金払ったお客サンだけに教える事になってるアル」
あたしとコオリは無言で顔を見合わせた。オーケー、今度はあたしの番だ。
「本音は?」
「本音も何も爺サンの指輪だから決めたのワタシじゃないネ」
普通に喋ってるし、ウソじゃないんだ。
ごまかしてたら本当の事言っちゃってビックリするもん。
ヒゲジジイがわざとじゃないって分かったから、コオリは凍らせた金貨を元に戻した。
「分かりました。信じます」
三枚目の金貨を置いたコオリにジジイがホッとしてる。
前にオネエのジーちゃんが言ってたね。中華料理屋が代々指輪を受け継いでるって。
あれってヒゲジジイの事だったんだ。
ボッタクリ用の魔法作るなんて、ヒゲジジイのジーちゃんも相当ワルだよ。
「選んだらすぐ帰るネ。今日はもう店じまいアル」
「えー!何でさ」
「当たりが出るまで粘られたら困るヨ。金持ちにはあまりやらせない決まり」
確かにお金持ちだったら何回もやれるから当たりの確率高いだろうけどさ。
インチキがバレなきゃボッタクリの方で稼ぐつもりだったんでしょ。
ガチャの確率操作してんのと同じじゃん。
あたし達は勇者だから生活費とか気にしなくていいけど、普通の人が失敗したらメチャクチャ困るよ。
今までよく刺されなかったよね。皆いつか当たりが出るって信じてるのかな。
こんな人でなしのジジイ、野放しにしない方がいいよ。
「どーすんの?コオリ」
もしかしたらヒゲジジイ、あたし達を出禁にするつもりなんじゃない。
きっと次に来た時にはやらせないつもりなんだ。
どれが当たりか聞き出してあげよっか。今ならまだバレてないからイケるよ。
「大丈夫」
コオリはあたしに優しく笑った。やっぱりひんやりモードよりいつもの方がコオリらしくて好き。
好きっていっても恋人の意味じゃないからね。友達としてだから。
「どれが当たりかはもう分かったから」
そう言ってコオリはまっすぐ光に手を伸ばした。
選んだのは左。錠前でがんじがらめにされた光。コオリが触ると他の二つが消えた。
カウンターに残ったのは、一枚のカードとビー玉よりちょっと大きい透明なボール。
「これが当たり?」
カードにはドクロのマークと金貨、あと輪っかみたいな絵が印刷されてる。
コオリが選んだ物を見たヒゲジジイはフン、って息を吐いて帽子を脱いだ。
「参ったアル。お客サンの勝ちネ」
ヒゲジジイが負けって事は、あたし達の勝ちだよね。そうだよね?
「やったー!」
あたしはコオリに飛びついた。コオリならやってくれるって信じてたよ。
「ワタシが出せる情報はこれだけアル。質問は受け付けないヨ」
「ありがとうございます。無理を言ってすみません」
ヒゲジジイに丁寧にお辞儀したコオリは、当たりの景品をバッグにしまった。
「じゃあタローさんの方へ急ごう」
「うん!」
インチキジジイ相手に二人で頑張ったんだってタローちゃんに言わないとね。
きっと偉いってすっごく褒めてもらえるよ。
「一つだけ聞きたいアル」
証拠品をゲットして店から出ようとしたあたし達を、ヒゲジジイが呼び止めた。
「お兄サンが欲しかった物、実を言うと最初の方でも結果は同じだったネ」
へ?どーいう意味?
「ワタシの情報以外はいくら金貨を足しても手に入らない物アル。一体何だったアルか?」
ヒゲジジイの質問にコオリは小さく笑った。
「秘密です」




