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第十一話 ゲットだぜ!


「タローちゃんから離れてよ!このメス豚!」


 おいそりゃ中学生女子が使う言葉じゃねーぞ。リアルでこんな事言う奴初めて見たわ。


「私が太ってるって言いたいの?」


 賢そうなリコちゃんもまだ子供だったようだ。本当の意味は分かっていない。


「あんたなんかこんがり焼いて食べちゃうって意味よ!」


 こっちは素で間違ってるよ。

 知ってたら知ってたで困ったもんだけど、こりゃヒドイ。


 俺は攻撃性の高い肉食獣の首根っこを掴み、純真な巫女ちゃんから遠ざけた。


「コラ、仲良くするって約束しただろーが」


「でもこいつがタローちゃんを誘惑しようとしてたじゃない」


「そりゃ誤解だ」


 一体どこを見て判断したんだこの勘違い娘は。確かに違う意味で襲われそうだったが。

 さとりの間違いに気付いた巫女様は鼻で笑った。


「こんな情けなくてでっかいだけの男を誰が好きになるって?」


 そんなハッキリ言われると俺も傷付きますよ?てか情けないって思われてたんだ。

 リコちんひどい。


「タローちゃんはすっごいカッコイイんだから!分かんないなんてあんた馬鹿でしょ」


 馬鹿に馬鹿呼ばわりされたリコっちは、ムッとした顔で反論する。


「うちの兄様の方がずっと強くて優しくて素敵。こんなのと違って」


「こんなのって何よ!?あたしの大事なお婿さんに向かって」


 擁護してくれるのはありがたいが、婿入り前提かよ。


 俺はあの雷爺さんと暮らすなんて絶対無理だ。

 コオリみたいに心遣いが出来る完璧なイケメンでもなきゃ絶対いびられる。


 にしても、リコちゃんはブラコンだったのか。意外だ。


「ホラホラ、違うって分かっただろ。その辺にしとけ」


「でーもー」


「お世話になってんだぞ。迷惑掛けて追い出されたいのか?」


 別に追い出されてもいいもん、などとのたまうアホ童。


 お前は良くても俺は嫌だ。全く見知らぬ世界での野宿なんて危険極まりない。

 何が毒かも分からない状況で、その辺に生えてる物を食う勇気は無いぞ。


 サバイバル生活は最悪の事態にでもならない限り避けたい。


「追い出すなんて、そこまで怒ってないから」


 俺の表情が余程深刻に見えたのか、リコちんは怒りを収めて引き下がる。


「ごめんなさい。ちょっと言い過ぎた」


 相手が素直に謝るとは思わなかったんだろう。

 迎え撃つ気満々だったさとりは肩透かしを食らい、パチクリと目を瞬かせた。


「え?ま、まあ、分かればいいけど」


 ミニ嬢はようやく振り上げた拳を下ろした。全く、先が思いやられるぜ。


 ちなみに俺には謝罪は無しですかい。


 巫女さんに視線を送ってみるが気付いてもらえない。

 別に本気で謝って欲しいとかじゃないんだが、ちょっとは気にかけてくれてもいいだろ。


「あっ!忘れてた」


 俺が悶々としているのも知らずにぴょんぴょこ娘が声を上げた。


「見て見てタローちゃん」


 がさごそ袋を漁り取り出したのは丸々太った足の短い獣。

 思い切り蹴飛ばしたんだろう、気の毒に顔面にはブーツの靴跡がクッキリ残っていた。


「あたしが一人で捕まえたんだよ。すごいでしょ!」


 獲物を手にエヘンと胸を張るペタ子。本当に捕まえてきやがった。


「へー、凄いじゃん。でもこれって食えんのか?」


 目を回している謎の生物を受け取り観察してみる。


 短い毛はフサフサとして柔らかい、猫みたいな毛並みだ。

 肉が柔らかそうなんで子供だろうか。


「おーいリコちゃん」


 見た目だけじゃ判断出来ないんで巫女ちんに話を振ってみた。

 リコっちはなぜか不機嫌そうな顔に逆戻りしている。


「食べられる。凄く美味しい」


「やった!」


 能天気に喜ぶセーラー女子は飛び跳ねハイタッチを求める。俺にすりゃロータッチだ。

 仕方なく屈んで手を叩いてやった。


「どうやって捕まえたの。オポルグの巣は高い木の上にあるのに」


 そばかす巫女ちゃんは難しい獲物を素人が獲って来たのに納得がいかないようだ。


「登ったに決まってんじゃん」


「その格好で?」


 巫女っちが疑うのも無理はない。

 何せミニスカ娘のセーラー服は全く汚れていないし、タイツの伝線も見当たらない。


 素人があんなぶっとい木を登って狩りをしただなんて冗談としか思えないもんな。


「さとりは木登りのプロだからな」


 細い木から十メートル以上の大木まで、ド田舎にはいくらでもある。

 おかげでしょっちゅう怒られてんだ。主に付き添いの俺達が。


「親は?巣に近付いて襲われなかったの?」


「そういえばこれを蹴落とした時に何か飛んでた気もするけど」


 また危ない事しやがって。下手したら地面に叩きつけられてんのはお前だぞ。

 やっぱこいつを一人にするもんじゃない。イケメン同伴にすべきだった。


「相手するの面倒だったから振り切ったよ」


「嘘でしょ」


「嘘じゃない!」


 二人のやり取りにデジャヴを覚えた。

 基本的にリコちんは俺らの言う事をあまり信用してないみたいだ。


 そりゃ高い木の上からキックをかますなんて普通の人間には無理だわな。


「振り切れるはずないじゃない。親鳥は子供を追ってどこまでもついて来るんだから」


 ヤな予感がする。

 野性的な勘というよりお決まりのパターンというかお約束的なもので。



 ギィーー!!



「なあリコちゃん、それってアレの事かな」


 木々の向こうから凄い形相の、羽の生えた巨大な獣が飛んで来る。開いた口からは鋭い牙が見えた。


「へー、これが育つとあーなるんだ」


「言ってる場合じゃないでしょ!」


 のんびり獲物を観察する能天気中学生に巫女少女のツッコミが炸裂した。



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