第一話 ファンタジーは突然に
俺は大河太郎、18歳。
名前でパッとくる奴もいるかもしれないが俺は普通の人間、いや普通に人間じゃない。
まあそれはさておき、俺は春から東京へ出る事を決意した。
コンビニが群雄割拠するド田舎暮らしともお別れだ。未練なんてこれっぽっちも無い。
幼馴染の二人は多少気になるが、大人になれば皆バラバラになるもんだ。
という訳で、クソ田舎で過ごす最後の冬。
俺は待ち合わせしていた神社へ、吹雪を掻き分けながら向かった。
「マジでさっぶいわ」
元旦前だってのに通りには誰もいやしない。
そりゃマイナス10℃の中で新年祝うより、家でテレビ見てる方がいいに決まってる。
俺だって誘われてなきゃソバ食ってコタツで寝るわ。
「おーい!タローちゃーん」
寒さと静寂をぶっ飛ばす元気な声と共に、セーラー服のチビッ子が駆けてきた。
二つに結った髪がぴょんぴょこ動いている。
「相変わらずちっちぇーなぁ、さとりは。ちゃんと飯食ってんのか」
「タローちゃんがでっかいからでしょ。あたしそんなに小さくないんだから」
確かに俺の身長はブーツ込みで190センチ超え。大抵の相手は見下ろす形になる。
でもコイツは絶対小っさい。中二女子には見えない。
前ならえした事無いだろ。
「こんばんは、タローさん」
ミニマム中学生の後ろからイケメン声が響いた。こっちもフード付きパーカーの中は学制服だ。
「よっ、沙雪」
答えた俺に美少年のスマイルが眩しい。
本当にキラキラと光っている。ダイヤモンドダスト的な意味で。
「もータローちゃん!コオリよりあたしを見てよー」
幼児体型の中学生女子の名は鳴神さとり。
おてんばを超越した超悪ガキで俺達以外に友達がいない。
妙に俺の事を気に入っているようで、将来はお嫁さんになるんだと勝手に決めている。
が、ハッキリ断った。俺はロリコンじゃないと。
「じゃあ皆揃ったし行こうか」
さとりの一つ年下で唯一の親友、沙雪コオリ。
家庭の事情で小さい頃からさとりの家で一緒に暮らしている。
にも関わらず、イタズラ娘とは正反対の真面目で素直な優等生。運動神経も悪くなく、誰にでも優しい。
完璧なイケメン。ペキメンだ。
賽銭を投入して手を合わせる。
さとりはやたら力が入っている。エキサイティングなオーラが見える。
少なくとも来年の受験合格を祈願しているのではなさそうだ。
「そんなに力んで何をお願いしたんだ?」
「ひみつ」
「んな事言わずに教えろよー。俺とさとりの仲じゃねぇか」
肩を組むのは無理なんでちょうどいい位置の頭をぽんぽんと叩く。
「えー、そんなに聞きたい?」
少し照れた表情でこちらを見上げるちみっ子。いける。
「すっげー聞きたいなー」
歯を出して笑う俺の魅力に落ちなかったさとりはいない。
作戦通り少し顔を赤くし、もじもじしながら答えた。罠とも知らずに。
「タローちゃんがロリコンになってあたしと結婚してくれますよーに、って」
「神様、さとりの願いが叶いませんようにお願いします。この通り」
即座に土下座った。
俺の捨て身の願掛けにちんまい女子の願いなど敵うはずがあるまい。
勝利を確信した笑みを見せると、さとりは一拍置いて近所迷惑な叫びを上げた。
「コラコラ、深夜だってのにデカイ声出すな」
良識ある大人のフリで正当化する俺に、ぽかぽかと振動が響く。
「タローちゃんのバカぁ!」
「HAHAHA、騙されるお前が悪いデスネー」
「オカッパ!黒長こけし!」
「グラデーションボブだっての。つーかお前それ下ネタかよ」
ちなみに沙雪は普通の中学生らしい短髪。さとりは肩くらいの二つ結いで、後ろはショートってところかな。
この辺は校則が厳しいもんで、俺ら三人とも完璧な黒髪。
生まれつきの髪色でも染めなきゃ校則違反だってのは今時古過ぎじゃないか。
だから田舎は嫌だっての。俺も何度髪を切られそうになったことか。
「ち、違うもん。タローちゃんのエッチ」
頬が紅潮し語尾が弱々しくなるロリスチューデンツ。
小学生の頃はサルみたいに駆けずり回っていたとゆーのに、悪ガキも思春期を迎え成長したのか。
反応が大人しいと何だかこっちが悪いような気がしてきた。
「悪かったよ。ごめんぬわーーっ!?」
どっかで聞いた断末魔みたいな変な声が出た。
「た、タローちゃん!?」
「タローさん!」
二人の声が離れていく中、俺は謎の穴にボッシュートされていた。
縦に落ちてんだか横にぶっ飛んでんのか全然分からないが、とにかく凄い早さで飛ばされている。
「これって夢か?」
キラキラ光る景色が非現実的過ぎて逆に冷静になる。
俺は待ち合わせを忘れてコタツで寝落ちしてるんだろうか。
それとも猛吹雪で遭難しちまって生死の境を絶賛さまよい中なのか。
どっちにせよこれが初夢だってんなら、新年早々縁起悪過ぎだろ。
さよなら俺の都会エンジョイ生活。
さよならチビ子の受験合格。
「ん?」
何か今一瞬、すげえ目つきの悪いオッサンとすれ違った気がする。
気のせいか?
にしては妙に寒気がするというか背中がざわつくというか。
とか思ってるうちに目の前が真っ白になり、視界がフェードアウトした。
次に目を開いた時、俺の前に立っていたのは杖を持った少女達だった。