ようやく日常パート
うーん!いい天気だ!お日様は輝き、雀は唄い、カラスはそのスズメを狙っている。今日もいい自然サイクル!人間に生まれて良かったー!
さてさて、登校するために通学路を歩いているわけですよ。なに?今日は学生の誰もが嫌う月曜日なのになんでそんなに気分がいいかだって?それは今日学校に転入生が来るからさ!しかも俺のクラスに!
………それは遡ること金曜日。放課後に先生に呼び止められ「明日……じゃねーや月曜日に転校生が来るから面倒見てやってくれ頼んだぞ。」と言われたのだった………
なになに?なんで俺が金曜日時点で先生に呼び止められて転入生が来ることを教えられてしかもそいつの面倒を見てくれって頼まれたのかって?そんなの決まってるだろ!俺偉いもん!成績優秀で素行も素晴らしい優等生だもん!先生に頼られるのなんて普通だよなぁ?
………でもどうせ転入生ってイリナなんだろうなー。昨日あいつとあって転入生はイリナであると確信していた。確信というか、定番だよな。
いや、嬉しくないわけではない。そりゃあ分からない時は「誰が来るのかな…女子だったらいいな………グフッグフフフッ。」と想像して楽しんでいたわけだが。こういうのって秘密を知った途端につまらなくなるからさ………知らないままが1番だっていうのだから、人間とは面白い生き物だ。
「はぁ……」
俺は歩きながら1人でため息をつく。
場所は変わって学校のマイクラスである。……学校のマイクラス……響きというかリズムが悪いな。頭痛が痛いって感じで。何もおかしいところはないのに。
登校途中にパンを咥えて遅刻遅刻ーって言いながら走ってくる転入生とぶつかることも、殴られることも、ましてやジャンピングニーを食らうこともなく無事にこの教室へと辿り着いた。それもそのはず、なんと言ったって俺は予鈴がなる10分前には席に着いているからな!アクシデントなど起きようがない!日常のただ中をいく男、飯田狩虎である!不確定要素は全て取り除いておるのよ!
まぁ、こんなに早く着いてもやることがないから、机に突っ伏していろいろと考えるのが日課となっており、それが時間の無駄な気がしてならないのだが…………それは放っておこう。アクシデントが起きる方が問題だ。
いつも通り、今日の天気はなんて素晴らしいんだとか、勉強してる奴がいる……偉いなーとか、今日の朝ごはんはなんだっけとか、転入生の話とか…………ひたすらに考える。
「…………!」
ここで神がかり的な発想に辿り着く。待てよ?もしかしたらイリナじゃないこともあるのではなかろうか!?可能性としては低そうだけど、ないってこともないんじゃないか?違う人だったらドキドキワクワクできるじゃないか!
俺の頭の中でイリナ派と別人派の議論が始まった。リトル狩虎が裁判長や弁護士、検事の服装をして結構ノリノリである。
おっ、これはいい戦いだな。どちらも相手を激しく罵り合っている……でもちゃんと聞いてみると暴言しか吐いてないんだよな「ばか!」とか「うんこ!」しか言ってない……おっと!襟を掴んで怒鳴りあってるぞ。お?怒ったのか?1人が相手の顔面を殴り始めた。それに他数人が手助けして、あぁ!とうとう血で血を洗う様な乱闘騒ぎに!…………俺の脳内って結構危険だな……
よし、この話は一旦保留!昨日のことを考えようかな!
まず、俺が水を出せたことが一番の驚きと言えば驚きかな。だせたってレベルじゃないけど、まぁ、操れてたわけだし。…………本当に水の魔力が出るなんて、俺カイじゃないのに。何かの間違えってことないかなぁ。絶対おかしいよこんなこと。
キーンコーンカーンコーン
おっと予鈴が鳴ったようだ。あとは先生を待つだけだな。ちょっと時間があるから俺の脳内議決がどうなったか覗いてみるか。うわー……1人しか立ってない。それ以外は全員ピクリとも動かないぞ。
こいつ………どれほどの力を……………?
この議会は確か多数決で決めるはずだからあいつが賛成したものが全て決まる寸法か。
果たしてあいつはどの案に票を投じるんだ?
どうやらイリナ票に投じたらしい。まぁ、無難と言ったら無難かな。
ふぅ…………これで全ての準備は整った。あとは先生が入って来るのを待つだけだ。
1分後
ガラララッ
来たな!?
「きりぃぃつ!きょうつけぇぇえ!れぇぇい!着席っ!」
委員長の号令はいつも気合が入っている。彼の号令においての声の大きさはこの階に響き渡るぐらい大きい。てかうるさい。今はみんな慣れているが最初の頃は全員耳に手を当て少しでも和らげようとがんばったぐらい煩い。
「よし。今日もいつも通りだな。だが、今日ここで起こる出来事は日常ではなく非日常である。心してかかるように。」
…………もうみんな慣れているがこの担任は少し喋り方がおかしい。小説の読みすぎか、はたまたただの変なやつなのか分からないけど、何かと言うことは正しいし何より面白いので人気がある。喋り方がおかしいけど。いや、そんなことより来たぞ!俺が今まで待ちわびて来た瞬間だ!俺の脳内で血みどろになりながらも選び抜かれたこの[転入生はイリナ]票が正しいのか正しくないのか…………決まる時が来たようだ!さぁ!カモーン!転入生ぃぃぃ。お前が誰なのかじっくり見させてもらうぜぇぇえ!!!
「このクラスに転入生が来ることになった。きみ、入りなさい。」
カツンカツン…………
扉を開け中に入って来たのは腰まである艶やかなブロンドの髪、碧色の大きな瞳を持ち鼻はすっと通ってある。口はうっすらと微笑んでいて、身長は170cmはあろうか?日本人離れのプロポーションと顔を持つイリナ=ヘリエルが入って来た。
教室中の人間は静まり返る。いや、現実を認識出来ていないんだ…………だって、転入生が外国人だなんて誰も予想するわけがないし、何より、こんな美少女なら尚更だ。
みんながポカンと惚けているなか、俺は1人心の中で拳をあげていた。よっしゃぁぁぁ!イリナだったぞ!俺の血みどろの議案決議会は無駄にはならなかったようだ!
「始めまして。イリナ=ヘリエルと申します。これからよろしくお願いします。」
ニコッ
彼女はお上品に微笑みながら口が開きっぱなしの連中に挨拶をした。それはもう上品で、艶やかで、完璧な仕草だった。簡単に言えば美しかった。そんな美しい所作を凡人からかけ離れた美貌を持つ人間が、目を丸くしている人間にやったらどうなるか?
「な、なんて美しいんだ………彼女はまるで女神のようだ。」
「女神?あのお方は神なんて超越した存在だ!神なんかと比べるんじゃねぇ!」
「イリナ=ヘリエル。イリナ=ヘリエル。イリナ=ヘリエル。イリナ=ヘリエル。……………」
こうなる。うーん周りが怖い。こいつらってこんなに女性に飢えてたか?
いや、それにしたってお前誰だよだよ。俺の予想していた挨拶じゃない。「イリナだよー、よろしくー。」を期待していたのに全然違う!なんだあのお嬢様感!?
むむむ!さてはこいつ………人前だと猫を被ってるんだな!?昨日のあのアホ面じゃあ確かに人に与える印象はマイナスしかないもんな!意外に賢いじゃないか!ぐっふっふっ………楽しみが一つ増えたな。お前のその化けの皮を剥がしてやるぜ!
「静粛に。そうなる気持ちもよくわかるがちょっと静かにしてろ………。えーっと、イリナくん。君には空いてるあの席に座ってもらうから。あと、何か分からないことがあったら飯田か委員長に聞くように。」
それから約5分ほど、これからの行事や業務連絡が行われた。正直に言うと周りの奴らが早く終われよオーラをプンプンだしまくっていて怖い。マジで怖い。目がいってるもん。こいつらは本当に俺が知っている連中なのか?俺の知ってる奴らはもっと大人しいはずなんだが………
ホームルームが終わり。委員長の号令が終わり。すぐにイリナの方を見ると人だかりと言うか包囲していると言うかまるで人気漫画家のサイン会の様に人が群がっていた。人が群がっていると言うか俺以外のこのクラスの男子が全て集まっているんだけど…………
イリナを中心に質問が飛び交う。その規模の大きさはそれはもう騒音レベルで、あの中心にいたら聴力がイカれてしまうほどだろう。
「た、助けて………」
…………
「助けて………飯田君………」
………………
誰だ?このか弱そうな声は?若干イリナに似てる気もするけど俺の知ってるイリナは俺のことを「飯田君」だなんて呼ばない。決してイリナではないだろう。それに俺の名前も言ってないような気がする。何かの空耳だきっと、汁だくって言ったら飯田君に聞こえたんだ、そうに違いない。俺の名前じゃあない、決して。でも、もしも、もしもがあるから確認の為にイリナの方を見てみると………
俺以外の男子全てが俺を見ていた。見ていたって言うか睨んでた?俺はぎこちなく首を動かし、頬杖をつきながら窓の外を見て深呼吸をした。
これはあれだ………ちょっとキツイな……
もう一度イリナの方を見る。懇願するかの様にじっと俺のことを見ていた。俺はたまらず窓に顔を向けて深呼吸をした。
さてと…………次の授業の準備でもしますか。そうそう筆箱!やっぱり筆箱がないとねー、やってらんないよねー!…………構ってられるかあんなのに!おまえ、はぁ?あそこで俺がイリナを擁護したら男子から「何知らぬ間に仲良くなってんだ!」って袋叩きにあうの目に見えてるだろ!嫌だよ俺見捨てるよ!?
意を決して顔を上げてイリナを見ると、彼女の目はいつの間にか潤んでいて、今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「い、飯田君………」
いやぁぁ!そんな目で見ないでくれ!くそっ!罪悪感が半端じゃない!でもお前を助けたらあの男どもに殺されるんだよ俺が!
「……………!」
ここでまた神がかり的な発想!
………ん?あれ、ちよっと待てよ?ここで断ったら後でイリナに殺されてしまうんじゃないか?今は温厚だけど、それは人前だけだろうし。もし、あの世界にまた行くことになったら……………
あぁあぁ!怖い!身震いする!俺の身体中の汗腺と言う汗腺から汗が吹き出しているのがよくわかる。どっちにしろ俺は殺されるしかないのか!?
イリナを助けて男性陣に殺されるか、イリナを見捨ててイリナに拷問の様に殺されるか…まさかのデットorデットとは…………俺に将来はないらしい。でも、それならイリナにかっこいい姿を見せて殺される方がいいよな!うん!そうしよう!かっこつけて死のう!そしたら墓標にイリナを助けた愚か者って書いてくれるかもしれない!
「あー、君たち。イリナさんが困っている様だから今回はそれぐらいにしておいた方がいいんじゃないか?つうかなるべく自重しろよ。がっつく男は嫌われるぞ?」
やっべ!最後のは言い過ぎた!言った瞬間目の前からおびただしい数の殺気を感じた!これは社会的に死ぬとかそういうレベルじゃなくシンプルに殺されてしまう!ここにいたらダメだ間違いなく!
俺は急いで席を離れると教室を抜け出し駆け出した!そしてついてくる男どもとの地獄のチェイスは1時間にも及んだ。




