さこそ散れ
「おい青猿!!早く影をなんとかしろ!!」
「んぐーー!!早く早く早く!!」
「うるせぇ!!俺達だって必死こいて探してんだよ!!」
上原、マリア、青猿達がいるB部隊は影の魔力を持つローランドと他50人の対処に追われていた。………いや、押し込まれていた。加勢が来るまではなんなく対処できていたのだが………
マリアの魔力で敵前線の動きを鈍くし、包囲網のように味方を配置し敵の侵入を防いでいるのだ。彼らの背後には青猿と他炎の魔力を操る者2人が影を火で照らし続けている。
ローランドを暴く作戦はこうだ。まず仲間を1人ずつ照らして完璧にローランドが潜んでいない人間を作り出す。そして他に確認が取れていない仲間からその完全な白を独立させ他の敵を戦わせ、ちょっとずつ完全な白を増やしていく。地味で時間がかかるが、何よりも確実な作戦だ。
最初の方は良かったのだ。さばく敵が少なかったから。しかし、この増援によって敵対処に必要な人数が増えてしまい効率が悪化した。それに敵の増加は影の面積の増加。まだ確認が取れていない仲間と敵の影が交わり、その影を通じて確認が取れている仲間の影に入る可能性が高くなりより慎重に、時間をかけざるを得なくなった。
それでも青猿達は急ピッチにかつ慎重に影を暴いていき、確認が取れていないのが残り3人にまでなった。ここに至るまでたった5分である。
「いっせーので同時に照らすぞ。……いっせーの!」
ぼぉおああ!!!
三方向から光を照らし、3人の影をかき消した!
「やったか青猿!!」
「………いねぇ。」
3人の影をかき消し、現れるはずのローランドの姿が見えない。
つぅー………
青猿の額から汗が流れ落ちる。
敵の影には逃げないように配慮した。それなのにあいつがいないなんて………どこで消えたんだ?俺達は見えない敵の影に怯え続けていたってのか。
「………お、おーし!!ここに影野郎はいねぇ!!思う存分戦いやがれ!!」
青猿は脳裏にこびりついた不安を払拭するように大声を出し、仲間を鼓舞して敵に突撃した。
「ぐっ……」
シュパパパパパ!!!
俺の方が速いのに、必ず剣が体を掠めて来やがる!!切れた腕を止血する暇がねぇ!!
後退することに全力を傾け、なおかつ俺の方が速いのに、奴の未来視が俺の向かう先を先読みして先に剣を置いてくる!!
シャッ!!!
俺の首を刎ねるように振り払われた攻撃をかわ
ドスッ!!
「ぐうっ!?」
剣が横から飛んで来て横っ腹に突き刺さる!!くそっ……鎧を簡単に貫きやがった!!やっぱ王様の魔力はやべぇ!!
パリッ……
横っ腹に突き刺さった剣が一瞬輝いた。
「宝剣カラドボルグ」
ピシャァアンン!!!!
「ぐぅぅうっっっ!!!」
雷が!!この剣から!!イリナ程じゃねぇがこれはっっ!!
俺はその剣を急いで引っこ抜き、さらに距離を……
トストストスっ
両腕と胸に剣が突き刺さった。
ズッ……
パキンッ……
フッ……
そしてそれそれが光り出し………
ビュォォォオオオオオオ!!!!
パキパキパキッッッ!!!!
パリリンパリンパリン!!!!
巨大な氷解と岩石が出現し、それと風が合わさり氷と岩が吹き乱れる真っ黒な竜巻が俺を巻き込んで肌を切り裂く!!!
やべぇえ!!早く風を制御しないとっ……
「炎帝くん。やれ。」
ゴォォオオオオ!!!!
炎帝もどきが剣を振るうと、巨大な炎がこっちに突っ込んで来た。
あっ……
ボォォォオオオオオンンン!!!!!
風と炎が合わさり、あまりにも巨大な爆発が発生した。火山の噴火なんてなま優しくて、もう………この威力はダメだろっ!!!
ズザザザザザッッッ!!!
俺は風を操り、急いで竜巻から脱出したおかげであの爆発に直撃することはなかった。麻痺し始めた聴覚のまま、俺は地面に着地して昴の居場所を確認する!!
いねぇ!!あいついったい……
「グランドソード………」
………いつのまに後ろにいたんだよ。これも先読みか?
「フルエレメント!!!!」
ボゴォォアオオオンンン!!!
虹色の輝きが俺を背後から飲み込んだ。宝剣シリーズを融合させたあの七剣の爆発はさっき生み出された炎の渦すらも飲み込み、全てを分解し消滅させる。
「……はぁっ、はぁっ!!!」
ビチャアアッ
昴は虹色の爆発が俺達を飲み込み続けているのを確認すると、勢い良く膝から崩れ落ちた。両手を地面にくっつけ、首を落とし、口から血をゲーゲーと吐き出しながら必死に息を整える。
やっぱり、彼らの魔力の同時発動は体への負担が大きすぎる!!10秒ぐらいが限界か!!……くそっ、第二類勇者ならもっと長く使えるのに!!
「はぁ………はぁ…………」
段々と呼吸が整っていくにつれ、昴は爆発の方を再度見つめる。
あれだけの攻撃を叩き込んで、最後はじじいの決め技をかましたんだ。致命傷は免れないはず。あとはあいつを殺して、貰うはずだった僕の元へ…………
ボヒュッ
ぶしゃぁああ…………
爆発を突き抜けて飛んできた風の塊が、昴の肩を貫いた。
開いた風穴から血が勢い良く噴き出る。
「まったく……バカだよな。火力上げるために風を生み出してしちゃったんだから。俺達に利用されると思わないのか?」
ブォオンン!!!!!
虹色の爆発が内側から風によってかき消され、四方八方に飛んでいく!!!
中から、巨大な竜巻によって守られているグレンと亜花が………異常なデカさだ。さっき昴が生み出した竜巻よりも、グレンが今まで生み出した竜巻なんかよりもずっと大きい。
「亜花の魔力は[エネルギーの増幅とコントロール]。元になるもののエネルギーが多ければ多いほど、その真価は発揮される。本当学ばねぇ。俺とお前の竜巻が合わされば、それはもう莫大なエネルギーが生まれちまうに決まってんだろ。」
ズゴゴゴゴゴゴッッビュォォォオオオンンンン!!!!
「ぬうぁぁああああ!!!!」
そしてそのあまりにも大きすぎる竜巻を、グレンは炎帝もどきに向かって投げつけた。炎帝もどきは炎でそれをガードすることができず、モロに巻き込まれてしまい、身体中がひび割れたように切り刻まれ、四肢が切断され、真っ赤に染めながら上空に投げ飛ばされた。
「………さて、努力賞だ。俺が殺してやる。」
グレンは残った手を昴に向け、風をためる。時間を与えずすぐに殺してしまうつもりらしい。
くそっ………目が霞む。血を出しすぎちまった。
グレンの体はもう既にドロドロだった。右手は切り離され、身体中が切り傷まみれ。胸と腕と横っ腹には深い刺し傷。血で真っ赤でドロドロだ。
「生け捕りしろと命令されてるんだけどな。お前の能力は危険すぎる。きっと拘束から逃れて被害が拡大してしまうだろ。」
「………運が良かっただけの分際で。」
「だから、今ここで殺す。悪く思うな。」
「お前なんて!!お前なんてお前なんて!!返せよ!!運が良いだけの何もない人間が!!」
「…………かもな。」
パヒュンっっ
黒色の弾丸が、胸を貫いた。
「ぐあっ……ぐはっ!!ヴェアッッ!!」
「先生!?」
しかし、貫いたのはグレンの胸だ。反撃されることなく確実に葬るため、距離をとったグレンの指先から放たれたエアーガンが、グレンの背後から貫いた。グレンと昴の間には黒色の空間が………
ガンッ!!!
「ぐえっ!!!」
ズザァァアっ………
そして亜花が顔面を殴られ、地面を滑っていく。
「ふぃーー。不意打ち大好き優太君だ。間に合って良かったぜー。」
優太は前髪をピンと指で跳ね上げ、血が右胸から噴き出るグレンの元に歩み寄っていく。
「流石の第二類勇者といえども、不意打ちで自分の本気の攻撃食らっちまったらどうしようもねぇよなぁ?」
「ぐっぞが!!!」
ブン!!!
グレンが左手で優太に殴りかかるが、もう既にその動きは遅い。優太は簡単にそれをかわしてグレンに笑いかける。
「しかしすげぇな。俺ならこんなに傷ついたらすぐに失神しちまうぜ。根性ってやつか?………まっ、急所はわざと外してやったんだ。まだ死なないのは当たり前か。」
ザンザンザン!!!!
顔を腫れあがらせた亜花が、地面から何本も岩を突き出させるが、それでも優太には当たらない。ヌラリヌラリと攻撃をかわしてさらに距離を取る。
その間に亜花はグレンの前に立ち、優太を睨みつけた。
「先生になんてことしているんだ!!!」
「おっと……かなりしぶといな。[先生]ゆずりか?」
ドサッ
いつのまにか優太は昴を掴んでいて、自分側で手放した。
「………先にやるならこっちからか。おら、炎帝。これ待てよ。」
優太は風によって飛ばされていた炎剣を炎帝もどきの近くに落とす。
ガッ
そして炎帝もどきはそれを口でくわえた。四肢が切られているからそれしか方法がないのだ。
ポタポタポタ………
グレンの体から血が流れ続け、体がふらつく。
出血が多すぎる………ここで逃げるべきか?いや、ここで逃してこいつらが回復したらこれ以上の被害が……くそっ、頭が回らねぇ。
グレンは一歩踏み出し、亜花の少し前に立つ。
「………いくぞ。」
完璧に頭が回らないが、相手から攻撃がくるから対処しなきゃならず、しかしまだチャンスがあるということは本能的にわかる。あの一撃さえ防げば………
左手に風をため、俺は敵に受けた。
連続だ………連続で畳み掛ける。そうすれば相手は対処できないはずだ。まだだ、まだいける。まだなんとかなる。
「んあああああああ!!!!」
ブォッゴォォォオオオオアアアアアア!!!!!
炎帝もどきが思いっきり首をひねり、剣から炎を吹き出した。この一撃に全てをかけているのか今までよりも巨大だ。
「………………」
俺は喋る気力もない。無言で、風を生み出した。全てを濃縮させ、極限まで縮こめた風の塊を……ピンっと、放った。
ブォォォオオオッッッ!!!!!
ボォォォオオオンンン!!!!
そして亜花の能力と合わさり、大規模な爆発が発生した。しかし今までよりも小さい。当然だ。あの炎をいなすだけなら、小規模な爆発を地面付近で発生させて炎を巻き上げるだけで良いのだから。………完璧に視界が塞がれるからなるべくやりたくなかったんだが、この状態なら喜んで……………
ズッ………
眩い閃光が俺達を照らす。影が深く、長く伸びていく。
そして、その中から腕が出てきた。
グレンは再度風をためる。何発もの風の暴発で火を突っ切り、あの2人を殺す。
ガッ………
地面をしっかりと捉え、影の中から上体を引きずり出す。
「次いく……」
……待て、なんで優太が攻撃してこないんだ?この俺達の状態なら、多少怪我はするが倒すことはできるはずだ。……急所を外した?……まずはお前か………っ!!!!
答えを出す前に、俺の体は動いていた。
ドチュッ………
「…………え?」
影から這い出て、亜花を背後から襲ったローランドの右手がグレンの心臓を貫いた。
………書きたくなかったです。
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