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究極の管理社会  作者: 舎模字
第3章
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crisis #11

 セツナ、エクレール、リアーナは走る。

 三人は、いままさに、最後の戦いを迎えるその場に足を踏み入れようとしていた。


 勾配(こうばい)のついた、(ゆる)い登り坂。

 その先から、細長い、しかし明瞭なコントラストを描く、光の筋が漏れている。

 その果ては何処にあるのか、と思えた、この広大無辺の地下貯水池にも、果てはあったらしい。

 その光の筋が、地下貯水池の出口であることは、疑いようも無い。

 細い隙間から差し込む光。

 それは、重々しい金属の扉を縫って差し込んだものだった。

 セツナは扉の前に立つと、体を倒れこませるようにしてそれを押す。

 それが最後に開け放たれたのは、いったいどれだけ昔の話だったのだろうか。

 その鉄の門扉は、ギギギギィ、と抗う音を立てながらも、少しづつ開いてゆき。

 最後に、キイイイィ、と長く尾を引く屈服の悲鳴を上げて、開け放たれた。


 まず三人を襲ったのは、目もくらむばかりの光量だった。

 これまで、ろくな照明設備も整っていなかった地下坑道を走り続けていたのだから、当然と言えるだろう。

 だが、目が慣れてみれば。

 その光量は、日の射す外界のそれ、というまでには及ばない。

 セツナは用心しながら、その扉をくぐる。

 足元は湿っぽく、苔むし、雑草が茂っていた。

 正面に目をやる。

 そこには、コンクリート材で固められた巨大な壁が(そび)え立っていた。


「!?」


 セツナの頭に疑問譜が浮かぶ。

 周囲を見回す。

 正面の壁は湾曲しており、そのアーチは、セツナら三人の顔を出した背後の壁とひと繋ぎとなっている。

 それでようやく、己らの居る場所がなんなのかを理解した。


 立坑(たてこう)

 それは、地面より垂直に掘り下げられた高さ100mに及ばんとする穴で、セツナら三人はその穴の底に顔を出したのだった。


 地下貯水池建造の初期、地下空間の掘削(くっさく)においては、掘削(くっさく)の基点として用いられ。

 その後は、各所から流れ来る排水を集約する場所、として用いられることになる。

 幸い、三人の顔を出したこの立坑(たてこう)は、現在、排水経路としては用いられていないのか、その底は多少ぬかるむ程度で、普通に歩くことが出来そうだった。

 三人は立坑(たてこう)の最低面から、上空を見上げる。

 立坑(たてこう)は存外、広々としていた。

 その直径は、7、80mほどはあるのではなかろうか。

 その外周には昇降用のスロープが設けられており、道なりに行けば地上に出られそうである。

 セツナは、正面にある昇降用スロープの入り口に、エクレールとリアーナを促す。

 三人が立坑(たてこう)底部、中央あたりに差し掛かったところで、意外にも早く、追跡者は姿を現した。


 セツナら三人が通ってきた、地下貯水池に繋がる通路から。

 さきほどの、ローブを(まと)った細身の青年が、姿を現したのである。




 地下貯水池に繋がる扉をくぐり、ローブを(まと)った青年は姿を現した。

 背後のその気配を感じ、振り向くセツナ。

 青年の姿を見て、セツナの表情は険しくなる。


「追いつかれた!! あなたたちはスロープを登って逃げて!!」

「え、ええ!? でも!!」


 セツナが二人を急かすようにそう言ったのに対し、リアーナは戸惑うように答えた。

 セツナもすぐにその意味を悟る。

 立坑(たてこう)の最上部。そこには、いくつかの人影が在った。

 常人のそれよりも大きな人影。それら人影は、保安ロボットのものだった。


「そなたらも、これで袋の(ねずみ)、というところかな?」


 青年は言う。その言葉には変わらず、感情の色は無い。

 そして、無造作に三人に近づいてくる。


「うぉおおおああああァ!!!」


 セツナは、(ランス)をかざしながら、その青年に突撃する。

 (ランス)をアクティブ化。

 引き出し得る最速でもって、青年に(ランス)を突き立てた。


 だが、青年は。

 正面にかざした左の手のひらでもって、それを食い止める。

 正確に言うなら、その(ランス)の先端は、青年の手のひらにすら届いていない。

 空を突く(ランス)の先端は、その目に見えぬ壁を穿(うが)とうと、(きし)る様に回転するが、そこから先は一寸さえも踏み込めない。

 セツナは一旦(ランス)を引く。


「ああああああァ!!!」


 そこから、突きに払いを交えた連続攻撃を繰り出す。

 青年の体を崩すことを狙ってのことだ。

 だが青年は、その一連の攻撃をも難なく(さば)いていく。

 その手数、十数手は、全て(さば)ききられた。


 セツナは後方に跳躍し、(ランス)を下段に構えて青年の出方を(うかが)う。

 青年はと言えば、反撃に移るでもなく、己の手のひら、左の手のひらを眺めながら、なにか思案をする風だ。


 ――まったく、底がわからない……。


 セツナは油断無く(ランス)を構えながら、状況を打破すべく考える。

 初撃は、青年の手のひらであっさりと食い止められた。

 その後の連続攻撃では、(ランス)(かわ)す場面もあったことから、その青年と言えども全くダメージを受けないわけでは無いのだろう。

 虚を()けさえすれば。

 だが、その『虚を()く』ということが、大問題なのだった。


 (ランス)の大きな弱点、それは、その大きさゆえの取り回しの悪さだ。

 集団戦においては、槍使い(ランサー)は前衛となり、その機動力を最大限に活かして、突破口を開いたり、かく乱の役目を担うことになる。

 (ランス)は確かに強力な武器だが、部隊全体の殲滅力(せんめつりょく)により大きな影響を与えるのは、後衛との連携、後衛による精緻な支援攻撃とのバランスである。

 (ランス)の突破力は驚異的ではあるものの、そうして切り開いた優位(リード)(ランス)のみで維持するのは困難だ。それを下支えするのは後方支援の役目である。


 まして、今この場に居る戦士は、槍使い(ランサー)であるセツナ、ただひとりである。

 どうしても大味になりがちな(ランス)での攻撃、しかもその(ランス)最大最強の突進技でさえ片手で難無(なんな)く食い止めてしまうような化け物が相手では、隙など望むべくも無い。


 ――せめて、もうひとり、槍使い(ランサー)がいれば……。


 そう考えながら、ローブの青年と正対するセツナ。

 青年を映すセツナの瞳に、突如、別の人影が映り込んだ。

 セツナの唇の端に、驚きと、続いて微笑が宿る。


「うらぁああああアァ!!!」


 青年の背後より、(ランス)に乗じて突進して来る影。

 セツナの不敵な笑みが含むものを察してか、後方より怒号とともに迫り来る者の気配を察してか。

 青年は身を(ひるがえ)し、その者の突進を(かわ)した。


 その者の(ランス)は、青年のローブ袖口をわずかながらも捉え、切り裂く。


 その槍使い(ランサー)は、突進を(かわ)されたことに舌打ちしながらも、そのままセツナの横に肩を並べると、こう言った。


「セツナ、待たせたな!」


 その槍使い(ランサー)は、ヒサト、である。

 セツナは、その声と、ヒサトの向ける笑顔を見て。

 それまでの固く険しい表情を、ほっ、と解きほぐしたのだった。

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