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究極の管理社会  作者: 舎模字
第1章
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about ACROPOLIS

 その日は抜けるような青空だった。


 ヒサトは教習棟に向かう道すがら、空を仰ぐ。

 遠目に見える白い巨大な尖塔は、その青空を刺すように、すっくとそびえていた。

 その白い尖塔を頂きとして、白亜のスロープが四方に延びている。


 ここは世界有数の大都市のひとつに数えられる都市国家『ヘカーテ』である。


 この時代において、人類の大部分は、こうした都市国家にて暮らしていた。

 そして都市国家は、標高数キロにおよぶ尖塔を中心とした、アクロポリス、という都市形態を採っている。

 都市以外の山野にて暮らす人々もいないではないが、そうした人々は自然帰化族(ネイティブ)と呼ばれ、少数派に属していた。


 カリキュラム変更にともない、遅めの始業時間に間に合えば良くなって、気の抜けた様子で歩くヒサト。

 そこに背後から駆け寄り、ぶつかる人影があった。


「ご、ごめんっ! 急いでるんでっ!! あーもう、いきなり転属たって、場所わっかんないよー!!!」


 ぶつかって勢いがそがれるのも惜しむように、その女子は顔だけヒサトを振り返ると、片手の手のひらを立て気持ちばかりの会釈をし、そのまま目の前にある駅ホームに走り去ってしまう。

 軽くしりもちをついたヒサトは、眼前に髪留め(バレッタ)が落ちているのに気づいた。

 あまりの勢いに、その女子の髪からこぼれ落ちたものだろう。


 その女子のことはこれまで見たことが無かった。めんどくさいな、とは思ったものの、ヒサトはそれを拾って、女子の走り去った駅ホームに向かう。

 髪留め(バレッタ)を返すため、というわけでもない。教習棟に向かうには、電車を使う必要があるのだ。




 電車内では、先ほどの女子に会うことは無かった。

 おそらくは、先行する電車に乗ったのだろう。

 その背格好からいって、彼女もヒサトと同じく学生であり、教習棟に向かったのは間違いなさそうだ。


 電車を降り、駅ホームを出て、大通りを渡る。

 この辺りはもう学区内であり、入り組んだ小路を取り囲むように、学校関係の施設や、学校関係者を相手に商売をしている店などが軒を並べている。

 ほどなく進むと少し開けた場所に出る。


 そこは通称、『中庭』と呼ばれている広場だった。


 広場では、昼休みにこそ、学校から足を伸ばした学生などが、昼食がてら休憩するさまなど見られるが、登校時は行き来するひとばかりで、閑散としているのが常だ。

 ここを過ぎれば教習棟まであとわずか。広場を彩る新緑に軽く目を留めたとき、それに気づいた。


 広場の一角にて、先ほどヒサトにぶつかっていった女子が倒れこんでいる。


 なにごとかと思い、ヒサトは彼女に駆け寄る。

 続いて容態を確かめる。彼女の上体を起こしてゆする。瞳は相変わらず閉ざされたままだったが、その胸は緩やかに上下を繰り返している。気絶しているだけのようだ。

 ヒサトが安堵の息を漏らすなか、今度は背後、広場の入り口が急にせわしくなりだした。

 いくつかの足音と、ざわめく声。彼女の上体を支えたままで振り向くと、そこには幾人かの学生を相手に説得を試みる、大柄な男の姿があった。


「キ、キミ達、落ち着いて! 駅構内に向かってクダサイ! 増援を呼んでいマスので! あー、もう。室井センパイ! なんでウイルス罹患なんて起こしてくれるんだヨー!」


 それは、正しくは大柄な男、ではなく、都市の保安業務をになう保安ロボットだった。

 常人よりふた回りは大きい体躯。

 胴体より伸びる、3対の太く長い腕。

 人でいう頭にあたる部分には、三つの瘤起する頭部がある。


「ド、ドウスル!? EA部隊でも呼ぶか!?」

「バ、バカモノ! 戦争でも起こす気か!? 室井センパイと言えど、一介の保安吏。保安吏数人でなら組み伏せないことは無イ!!」

「とはイッても、室井センパイ、全国保安吏無差別格闘選手権で準優勝の実力者だヨ!? そう簡単には太刀打ちできねーっテ!」


 三つの頭部それぞれが、それぞれの意見を発する。

 三賢者(マギ)タイプの保安ロボット。

 地域保安は、堅実な判断と強靭さが求められる業務だ。

 そのため、三つの頭脳を持ち、合議によって判断をくだし、また、三系統すべての頭脳がシャットダウンしない限り稼動可能な三賢者(マギ)タイプのシステムは、地域保安を司るロボットに適している、と座学では習っている。

 しかしながら、いま目の前でうろたえる三対の頭脳を見るに、大丈夫か保安業務、という気分になってくる……。


 ともかくここは保安ロボットの誘導にしたがい、駅に引き返した方が良さそうだ、とヒサトが思ったところで、驚くべきことが起こった。


 剛健な保安ロボットのその巨体が、一瞬にして紙細工のように跳ね飛ばされたのである。


 保安ロボットの居た場所には、もう一体の保安ロボット。先の保安ロボットよりも更にふた回りは大きなそれが、仁王立ちしていた。

 ウイルス罹患を引き起こしたというロボット。

 先の保安ロボットのいう『室井センパイ』その人(というか保安ロボット)なのだろう。


 そのさまに驚くのもつかの間。次の瞬間には、ヒサトの体は、激しく投げ飛ばされていた。


 ――な、なにが起こったんだッ!?

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