into the world
ヒサトは仰向けになりながら宙を眺めていた。
ヒサトのいる場所の少し上空で、光がたわみ、散乱している光景が浮かんでいる。
ゆらゆらと。
そこには何がしかの境界があるがゆえに、光がたわんで見えるのだろう。
息苦しくない、ということを無視すれば、それは、海の浅瀬、海中数メートルくらいから、空を見上げた光景、と考えるのがしっくりとくる。
光のゆらいでいる場所が光度の頂点だとすれば、そこから離れるにつれ光度が落ちてゆき、やがて青みが強さを増していく。
おそらくは、その光の変化はヒサトの背後にも続いているのだろう。青の色はどこまでも続く深淵へと飲み込まれているに違いない。
意識も、体も、みじろぎひとつせず、ただ眼球だけが小ぜわしく視界を巡る。
その光のゆらぐ光景を眺めているのは心地よかった。
それは、あらゆる感覚から切り離された、感覚の世界。
ここには極度の感情も、痛痒も、存在しない。しかしながら、己の感覚が麻痺しているというわけでもないのだろう。恍惚とも明晰とも捉えられる、分析不能でありながら、すべてが満たされているような感覚。
そんなまどろみの中で、ヒサトに呼びかける声があった。
「……ヒサト。赤と緑、どちらを選びますか?」




