契約書のない雇用契約
その後、ジェシカさんからの指示で俺は1人村へと戻り、警察に事情を説明して密猟者達を連行するための馬車に同乗して森へと戻った。
未だにのびてしまっている密猟者達を村の警官と俺との二人で国道に止めた馬車に乗せていく。
意識のない人間ってやつはなかなか重いもので、馬車と広場の間には森を挟むという条件も相まって一人乗せるだけでも中々に時間がかかった。
ちなみに、ジェシカさんはそれを手伝う気はさらさら無なかったようで、森の熊さんを(今までとは違い何故か作ったかわいい声で)歌いながらさっさと森の奥へと入っていき、俺が最後の1人を運ぼうと広場に戻ったころにこれまた鼻歌交じりに帰ってきた。
ようやく全員を乗せ終わり、森を出た頃には空はオレンジ色に染まっていた。
馬車が満員状態だったので俺とジェシカさんは歩きで村へと帰ることになり、二人でとぽとぽと夕暮れのなかを村へと続く道を歩く。
未だに鼻歌を歌いっぱなしのジェシカさんに対し、俺はいくつかある疑問のうちすぐに話が終わりそうなこと、森の奥で何をしていたのかについて聞いた。
「せっかくだからブラウンウサギモドキのマーキング作業をね。昨日探せなかったエリアもやっちゃわないとなぁって。とりあえずやれるだけはマーキングしてきた!」
そう言いながら、あたし仕事頑張った!といった雰囲気でこぶしをグッとジェシカさんは握った。
凛とした鋭い顔とは対照的なウェーブがかったふわっとした金髪がその動作に合わせて揺れた。そんな様子を見てかわいいなと思いながら、僕は今の話に出てきた耳慣れない単語についての疑問を投げかけた。
「あの、マーキングって何ですか?」
「あぁ、えーとマーキングってのはね。このマーキングガンを使って魔力で生物をマーキングをすることなの。一度ここから発射される弾を当てればその生物が死ぬまでその位置をこのレーダーで把握することが出来るっていう魔科学の粋を結して作られたアイテムなんだってさ。これを事前にある程度やっとくと調査がスムーズに終わるし、生息数確認もしやすいってわけ」
説明しながらジャケットの内ポケットからは真ん中に紫の液体のようなものが入った容器のついた黄色い小さな玩具の光線銃みたいなものを、そしてGパンのポケットからは昼間見ていたホタテの貝殻を開いて出してきた。
開いたホタテの下部分には幾つかの操作用のボタン。上の部分は黒い光沢のある素材で出来ていて、そこには中心の赤い三角形より少し離れたところに黄色い光の点が幾つも固まり写っている。
なるほど。このホタテのレーダーからその反応が幾つも消えたから密猟者が出たと分かったわけか。
そういえば、殺されてしまったブラウンウサギモドキの死体が見当たらなかったがジェシカさんが弔ったのだろうか。
俺が何とはなしにそれを聞くとジェシカさんはそれを肯定するようにうなづき、目を伏せた。
モンスターを保護する対策課にいるならばモンスター達に対して動物にかけるものと同じ愛情のようなものを抱いていても不思議ではない。
モンスターは倒すべきただの怪物。
あくまでそれは一般的な観点であって彼女からすれば違うのかもしれない。
少し無神経な質問をしてしまったかもしれないなと俺が次の言葉に迷っているとジェシカさんは
「ねぇアイン君。これ、どうすれば上に怒られずにうまく売れると思う?」
と言いながら掌にのせたブラウンウサギモドキの角を出してきた。
・・・・・・って、おい!!
その後、宿屋につくまでの間ずっと「だってさ、済んじゃったことはしょうがないじゃない?取り返しとかつかないじゃない?だったらそれを無駄にしない心がけっていうの?ほら、有効活用しないってのはダメでしょ?ね、ダメだよね???」などといった自分を擁護するジェシカさんの発言を俺は聞かされ続けた。
そのときは、
国家公務員の癖にそんなに金が欲しいのか。
とか、
大体大人ってやつは金に拘り過ぎだろ。
とか考えながら聞いていたんだが・・・
翌朝。
俺は宿屋の主人を前に金に拘り過ぎない自分を呪った。
拘り過ぎないというか、金の管理が出来ていなかった、が正解だが。
そう、宿代が足りなかったのだ。
そもそも一昨日の時点でもう宿代が心もとないなと思っていたのだが、すっかりそれを忘れ、かつ昨日も狩りをしなかった俺の財布は昨日の宿代を支払う能力を失っていた。
「兄ちゃん、どうすんだよ。その鎧とか剣とかを置いてかれても困るぜ?貰っても売る相手もいねぇし、装備のねぇあんたが街の外で死んじまっても寝覚めが悪いしよぉ」
宿屋の主人はその見た目に反して悪い人ではないのだが、宿代をただにしてくれるほど良い人なわけでもなかった。当たり前だが。
俺も宿の主人もどうしたものかと悩んでいると、だぼっとしたズボンとTシャツに身をつつみ、右手で目をこすりながら寝起きのジェシカさんがおぼつかない足取りで階段を降りてきた。
昨日の朝との違いに俺も主人も面食らっていると
「あんふぁふぁちあにひてんの?」
欠伸しながらジェシカさんは聞いてきた。
事情を話すとふむふむなるほどとか言いながら洗面所へと消えた。
少ししてまだおぼつかない足取りで戻ってきた彼女は俺達の横を通る際に、
「じゃーアイン君。君、今日からあたしのお付きとして雇うから。よろしくー。おじちゃん、これ、あたしと彼の宿代。あー、あと今日は珈琲はホットの濃いめでよろしくー」
まだまだ眠そうな口調でそう言いながら、彼女はポンと二人分の宿代に足るだけの金額をカウンターに置くと眠いーとか欠伸しながら、そのまま食堂へと消えていった。
しばらくあっけに取られていた俺達だったが、ジェシカさんからの「おじちゃん、珈琲まだー?」の声に宿屋の主人ははっと我に返り、食堂に向かおうとしつつ
「俺は金さえ入れば問題ねぇんだがよ。兄ちゃんは、その、いいのか?俺の経験からすっとあのねぇちゃん割とナチュラルに人使いとか荒いタイプだと思うぞ?」
と聞いてきた。
・・・いいか悪いかなんてそんなこと、俺だってわからねぇよ。
ただ、言えることはとりあえずジェシカさんが宿代立て替えてくれて助かったということだけだ。
こうして、俺はジェシカさんに雇われ、絶滅危惧モンスター保護管理課の仕事をすることになった。
一体どんな仕事をすることになるのかは分からないしそもそも俺に務まるかも分からないが、とりあえず家に帰れるくらい給料が貯まるまではしっかり頑張ろうと思う。
前回、ジェシカさんが何をしたかについては次かその次くらいの更新で明らかにしていこうと思います。
とりあえずここまでで一話です。あとでレイアウトも変更しようと思ってます。
今日中に終わってよかったーー\(^^)/




