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そして俺は法を知るその2

 随分と間が空いてしまったのでどこまで聞いたか思い出せないけど確かゴキb

「言っとくけどアレの名前言ったら怒るかんね?」

 そういえば昨日はこれを言って殴り倒されたんだったっけ。


 椅子をベッドの部屋まで持ってきて腰かけながら、俺は

「えっと、G大量発生事件でしたっけ?」

と聞いた。


「そう、G大量発生事件。これをきっかけに保護法が制定されたの。」


 確かにアレが大量発生するってのは想像すると肝が冷えるけど、それとモンスターは関係ないんじゃないだろうか?

 そう考えているとジェシカさんは

「それとモンスターは関係ないんじゃないかって思ってるでしょ?実際始めは関係ないと思われていたんだけどねぇ。事件が起こった時は丁度、3年前から始まっていた帝都の下水道からモンスターを一掃しようっていう事業の真っ最中だった。中央の王宮地下から始めて各区画のモンスター達を次々と全滅させ、全滅させたエリアにはモンスターが入ってこないようにしっかりと監視をしつつ王都の外にまで追い込んでいくという形での人もお金もかけたまさに大規模事業。でも、街の半分くらいまで言った頃だったかな。全滅済みのエリアの下水道から突然大量の・・・」


 ここまで言うとジェシカさんは肩というか全身を振わせ始めた。目もどことなく潤んできてるし、どうやらよほどアレが嫌いなようだ。


「いや、君が想像してるのなんかより遥かにすごい量なんだよ!! あたしは当時王宮近くに住んでたんだんだけどそれこそ地面が見えないようなレベルだったんだから!!!」


 恐ろしいなんてもんじゃないな。地面全てがアレなんて考えただけでもめまいがする。

 ジェシカさんは未だ肩を震わせながら、潤みっぱなしの目で訴えかけるように俺の考えに同意するようにいってきた。


「でしょ? でしょ??? おかげであの時事件のあったエリアに住んでた人は大体みんなアレが苦手になったし、一時被害エリアからは人の流出が進むわ、地価は値崩れが止まらないわで本当に大変だったんだから。実際あたしも引っ越ししたしね」


 それこそ帝都が都市として崩壊しかねないレベルの非常事態だったようだ。そんな国の危機と言ってもいい様なことですら届かないグリーン地方って・・・


「それこそ帝都を直接攻撃されてるに等しい非常事態になってしまったもんだから、原因究明も全力を挙げて行われた。そんで行き着いた答えがゼリーがいなくなったことが原因だという結論だった。」


「ゼリーってあの7歳のガキでも倒せるでおなじみの?」

「7歳のガキでも倒せるでおなじみの」

ジェシカさんは俺の言った言葉をそっくりそのまま返してきた。



 俺の探していたはぐれゼリーの元のモンスターであるゼリーはそんな風に言われるくらい弱い、まさにキングオブ雑魚モンスターと呼ばれるに相応しい不定形のモンスターだ。

 不定形生命体のくせに何故か斬撃も物理攻撃もしっかり効いてしまうというその特性をほとんど生かせていないそいつは全国津々浦々、ありとあらゆる場所でお目にかかれるごくごくありふれた特徴のないモンスターである。


 俺がゼリーというモンスターがどういうものだったか改めて思い出している間に、近くの水差しからコップに水を注ぎ、ここまでの話で渇いた喉を潤したジェシカさんは一息ついて話を続けた。


「そのあまりにも弱いモンスターであるゼリーはさらに自分よりも弱い生物、モンスターではない虫やねずみのような動物を食べていたのよ。つまり、天敵がいなくなっちゃったアレは増殖し放題のやりたい放題って環境を私達人間が作り出しちゃったってわけ。実際にモンスター狩りをやめて、よそで捕まえたゼリーを街に放ったら1週間もしないうちにアレを消してくれちゃったしね。魔王が現れて、その瘴気を浴びたモンスターという新たな生物が確認されてから実に150年。とっくに彼らは生態系には欠かせないものになってたってわけね」


「それでそこから、例の法律と絶滅モンスターなんちゃら課が出来たってことですか」


「絶滅危惧モンスター保護管理課ね。達の悪い冗談みたいな事件だったけど、モンスターがいなくなることによる弊害は国が傾きかねない、もしかしたら人類自体がヤバいことになる恐れまであるということを学んだ国はそれまでのモンスターは駆逐すべし、絶滅しようがなんだろうが問題はないという考えを一転改めて動植物と同様に絶滅しそうなモンスターの保護管理を定める法、そしてその調査および、おおよその個体数の管理を行う対策課、絶滅危惧モンスター保護管理課を設けたのよ」


 結構極端な方向転換をしたもんである。


「とはいえ現状では唐突な法の変更による周知不足によって規制が行き渡らなかったり、そもそもその規制の下地となるモンスターの生息数やらなにやらのデータが全然ない状態なのに、調査をするための人手が全然足りてないってのが実情なんだけどね。今回もブラウン地方の禁猟区の保全調査確認だってあたしともう一人くらいしか人手が割かれてないし」


 ジェシカさんはこれで大体の説明は終わったのか疲れたーと言いつつ伸びをしながらそのままベッドにパタンと体を倒した。TシャツとGパンの間から引き締まったお腹が見えてなんかエロい。

 目のやり場に困った俺は少し曇り始めた外を見つつ何か聞けばまた体を起こしてくれるだろうと思い、質問をしてみることにした。


「それで俺が狩りをしていたところには何がいるんです?」


 俺の質問にジェシカさんはそのままの体勢で答えた。あの、こちらとしてはその体勢を変えてほしいんだけど。


「あそこにはねー、ブラウンウサギモドキっていう角の生えたウサギみたいなあの森固有の希少モンスターがいるんだよね。総個体数は今までにマーキング出来た分だけで約300匹くらい。対して凶暴でも強くもないんだけど、その角は光の当たり方によって色が変わるものらしくって、元々高値で取引されてたんだけどいきなり禁猟で手に入らなくなっちゃったもんだから今は闇ルートで信じられないような値段で取引されているんだってさ」


 通常の動植物もそうだがモンスターの体の一部も動物と同じように衣類や装飾品として加工して使われることがある。一部モンスターの肉などは食用にも適し高級食材として取引されているものも少なくないから確かにわかる話ではあるけれども。



「で、俺は禁猟がちゃんと守られているか見回っていたジェシカさんに密猟者と勘違いされたってわけですか」


「本当はあそこには誰でもわかるように大量の看板を設置してあるはずなんだけど、それが一本残らず無くなってたからおかしいなぁってことで密猟者いるんじゃないかって探していたら君を見つけてそれでつい・・・ね。」


 つい・・・で勘違いされていきなり殴られた俺はたまったもんじゃないだが、なるほど看板が無くなってたのか。


「看板が無くなってたのはおそらく密猟者の仕業だと思う。看板がないとまだあの場所は保護区にされてから日が浅いから堂々と密漁出来ちゃうのよね。狩猟解禁の時期を設けて密猟が行われないようにすることも検討されてはいるんだけど、ほとんどのモンスターは生態もろくに分からないもんだからどのくらいなら狩っても大丈夫なのかわからないし。如何せん法自体もとりあえず作りましたって形で施行されちゃったもんだから全然対処がおっついてないんだよね。」


 ただただ禁止すらぁいいってもんでもないのにねぇーとか現場のことも考えてくださいよーとかだからって言って看板全部抜くとかありえないよなーとかぶつくさ言いながら彼女がベッドの上でごろごろし始めた。


 どうしたものかと思っていると、なんとも表現しがたい耳触りの悪い不快な音が部屋の中に響き渡った。


 ジェシカさんはさっと起き上がりポケットからホタテの貝殻のようなものを取り出すとそれを開き、真面目な顔で見始めた。

 どうやら何かを表示する道具のようだ。

 30秒ほどそのホタテを見ていたジェシカさんは、これ、多分密猟だな。とつぶやくと慌てた様子で俺に一瞥もくれずドアも開けっ放しのままで部屋を出ていった。



 突然置いていかれた俺ははたしてどうすればいいのだろう?

 一応、話は一通り片付いたようだったが、はたしてどうしたものか。

 そう考えながら先ほどまでジェシカさんが座っていた場所をぼけっと見てみると、そこにはジェシカさんの身分証が落ちていた。


・・・密猟者を取り締まりに言ったということはこれがないとまずいんじゃないだろうか?


 考えるが早いか俺はその身分証を掴むと、急いで装備を整えて彼女を追うために部屋を出た。

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