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第二の試験 VS.ジェルスライム

「それでは次のモンスターを!」

 試験官の声と共に今度は台車に乗せられて、水をいっぱいに注がれた水槽が場内に運び込まれた。

 中にモンスターがいるわけでもない、本当になんの変哲もないただの水槽だ。

 ほんの少し離れたところに台車から降ろされたそれを見つめていると、

「では、二戦目、はじめ!」

 と試験官は言い放った。

「え、あの? ちょっと?」

 思わず疑問の声を上げてしまうが、試験官はすぐに先ほどの戦いと同じく戦闘の影響が出ないところまで下がりこちらを見つめるばかりだった。


 もしかするとこの水槽めがけて何かがやってくるのかも……と周囲を警戒するも、遠くで鳥の鳴く声が聞こえるばかりで何かが接近してくる気配は一向にない。

 (一体どこから来るんだ?)

 目の前の水槽にも何の変化もなくただ時間だけが過ぎていく。




 何も起きず警戒し疲れた頃、わずかに水面が揺らめいた。


 風? もしくは地震? などと考えていると

「アイン君! 飛んで!!!」

 ジェシカさんの鋭い声が耳に飛び込んできた。咄嗟に飛ぼうとするも、何かに掴まれて飛び損ね転ぶ。そして、気がつけば俺の身体は全身水の中に叩き落とされていた。

「がばっ!!ごぼっ!」

 咄嗟にやたらと粘度のある水の中から無理やり頭を出す。

 

 !!??!!?

 

 混乱しながら視線を巡らせる。

 どうやら俺の身体は水槽から伸びる生ぬるく不快なべたつきを持つ液体の中に叩き込まれたようだった。


「これは……もしかして!」



 粘液モンスター、ジェルスライム。

 湖など流れがあまりないところに水に擬態して潜み、襲った獲物をじっくりと吸収するモンスターだ。

 五歳児でも倒せるでお馴染みの最弱モンスター・ゼリーとは違い、こちらは見た目通り物理攻撃は一切効かないという物理攻撃しか能のない俺のような人間にとっては相性最悪のモンスターだ。

 しかも、所謂集合体的なモンスターであるようで拳一つ分位の量でも生き残ればそこから再分裂して復活することも可能だとか。最もその分裂速度は戦闘中に即座に復活する程には早くないらしいが。

 そんなわけで市井の人々にとっては無茶苦茶危険なモンスターなので人間が暮らす水辺などでは徹底的に駆逐され、水道庁は紛れ込んでこないかと常に監視の目を光らせているらしい。


 俺はそのジェルスライムに完全に捕縛されてしまったというわけだ。

 外から見れば透明なゼリーの中の果物みたいな状態になっているであろう自分の身体を落ち着いた気持ちで見ながら状況整理を終える。


 なんでこんなに俺が落ち着いていられるかと言われると、実はこのスライム。相手を溺死させる以外に攻撃手段を持っていないのだ。取り込んだ獲物を消化吸収する力もあるが弱いらしく、攻撃手段とは到底言えたものではないらしい。

 実際、今ダメージを受けている感覚もないし。

 勿論、ジェルスライムの方も再び俺の頭を沈めようと時折その液体を動かしてくるもののある程度はあがくことが出来るからすぐにやられてしまうことはなさそうだった。


 とはいえ、状況は悪いことこの上ない。

 剣を振り回してもまるで意味がないし、それに……当たり前だけど体力が尽きれば溺死確定だろう。

 勿論その前に助けてもらえるだろうが、試験には間違いなく落ちる。

 なんとか脱出しようと試みるも、その粘液のへばりつき具合は凄まじく、一切はがせる気はしなかった。



 無駄なあがきを止め、思わず天を仰ぎそうになったその時、視界の片隅に試験官に注意されているジェシカさんの姿が目に留まった。

 先ほどの発言が手助けにあたってしまうからどうとか言っている様子だ。

 ジェシカさんはどこ吹く風と言った感じで試験官の注意に生返事を返していて、それに対して更に怒る試験官をラヴィニアさんがまぁまぁと宥めていた。

  

(あーあ。ラヴィニアさんみたいに俺も魔法が使えればなぁ……)

 なんてことを考えてしまう。ジェルスライムは雷系の魔法に滅法弱いのだ。魔法ならこんなモンスター簡単に駆除出来てしまうん……だ……


「いや、使える! 使えるんだった!!」


 俺は道具袋に手を突っ込んでそれを弄りあてた。

 ガトの黄色の魔法石!


 あれには雷の魔法が封じられている!


 これならいける!!!!


 魔法石は描かれた魔法陣に一定以上の力を与え続けることで魔法が解放される。

 取り出して左手に構えた魔法石を剣の柄頭で叩きつければ魔法が出るはず!

 しかし、いざ構えてみて気が付いてしまった。 


 「……ダメだ。完全にまとわりつかれてるんだった」


 スライムと一緒に感電する自分を想像してしまい背筋がゾッとする。

 

 (あと一歩で揃って黒焦げになってるとこだった)

 

 思いとどまった自分を褒めたくなったが、見ればどうやら取り出していたのは黄色ではなく緑の魔法石だったようで、そもそも無用な心配だった。

 


(緑じゃ風が起こるだけだしなぁ。 あれ? 待てよ? これなら……いけるのでは?)


 今度こそ迷うことなく剣の柄頭を魔石の魔法陣めがけて叩きつける。

 強い輝きが発せられた後、魔法石から強烈な一陣の風が放出された。

 それを振り回すとまとわりついたジェルスライムは風に負け弾き飛ばされていった。


「貰った!!」

 束縛から抜け出した俺は緑の魔法石をしまいすかさず今度は間違えずに黄色の魔法石を取り出して、ジェルスライムめがけて雷の魔法を叩きつける。


 強烈な光が発せられ、雷はバリバリと音を立てながらスライムを焦がしていく。

 魔法の放出を終えるとジェルスライムはブスブスと音を立てる黒墨と化していた。


「や、やった……」



 その後、飛び散った分や、先ほどの風で自分の身体から拭いきれなかった分を拭って、次々と魔法を当てていき、残りのジェルスライムを駆逐してやっと試験の終了が告げられた。



 魔法石を無理やりにではあったが売ってくれたガトに感謝しつつ、与えられた時間中に粘液を水で洗い流した身体を拭きながら俺は第三戦に備えるのだった。 

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