特別採用試験、開始
宣言通り翌日投稿できました。
今回は筆記試験編です。
「試験時間は二時間。では、はじめ!」
生真面目そうな眼鏡をかけ、髪を七対三に分けた中年男性の掛け声と共に午前九時、国家公務員特定部門特殊採用試験、の筆記テストが厳かに開始された。
筆記試験は共通問題二時間。部門別問題一時間の計三時間行われることとなった。そして終われば、一時間後には実技試験だ。なかなかのハードスケジュールなので確かに昨日は休んでいて良かったと思わされる。
まず初めの筆記試験は、合同庁舎A棟(通称、内政棟というらしい)三階の学校の教室位の大きさの部屋にて行われている。
試験の性質上、当然自分は独りぼっちで試験を受けるものだとばかり思っていたのに、そうではなかったらしく、他にも試験を受ける者がいたようで、俺の横ではジェシカさん達辺りとさして歳の頃も変わらなさそうな若い、がやけに身なりの綺麗で毛先だけが金に近い栗毛色のロングヘア―をポニーテールに纏めた眼鏡をかけた女性が一切迷うことなく筆を目の前の紙面に滑らせていた。
俺もぼやぼやとはしていられない。何せ2時間で基礎問題百問を解かねばならないのだ。
(まず、第一問。国民の三大義務について記述せよ。)
想定はしていたがいきなり記述問題が来てげんなりとしてしまう。最もこんな簡単な常識問題で躓くことはない。
誤字、脱字のないよう注意を払いながら書き込み、次の問題へと目を通した。うげぇ、また記述問題だ。
「ここまで。筆を止めなさい」
その言葉と共にきっかり二時間の試験が終わった。
「続けて、十分の休憩後、部門別問題の試験を行う。十分後には遅れずに席に着くように」
事務的にそう告げるなり監督官は退室していった。
「貴方、一体どこの誰ですの? どこの部門をお受けになられますの? 私の他に試験を受ける方がいるなんて聞いてませんわ」
次の試験の準備を始めようとしていた矢先、不躾かつ尊大な感じで声をかけられた。
声の主、は言うまでもないだろう。不正対策で俺から少しばかり離れた机で一緒に試験を受けていた女性以外にこの部屋に今、人はいないのだから。
目が悪いためかがっつり睨みつけるようにこちらを見据えるその視線に戸惑いながらも返事を返す。
「アイン・ノールズです。受ける部門は公安第四課です」
「四課ですってぇ!? コットンテールさんと同じ部署じゃありませんか! あの終生のライバルと同じ部署を目指す若者とこんなタイミングで会うなんて! 流石、私!! 己の運命が怖くってしょうがありませんわぁ!!」
怖いという割にやたら嬉しそうに何かに酔いしれるような顔つきでまくし立てる女性。普通なら多分気持ち悪い感じになるんだろうけど、台詞を読み上げるように優雅さ溢れる身振り手振りを交えるその感じはまるで舞台役者のそれのよう(最も舞台なんて巡業で回ってくる演劇団のものしか観たことがないが)でなんか様になっている。
いや、気持ち悪いというか謎の恐怖感があることには変わりないけれど。
「え~っと? そちらは?」
陶酔しきっていてあちらからは自己紹介などしてくれなさそうだったのでこちらから切り出してみる。トイレにも行きたいし、試験前に確認しておきたい項目もあった。出来れば早いとこ切り上げたい。
「え? あぁ。私としたことがついうっかりしていましたわ。失礼しました。私はベルベット。ロックスフォーラル家のベルベット・ロックスフォーラルですわ。お互い合格出来た際にはよろしくお願いしますわね、ノールズさん」
「ロックスフォーラル家? というとあの?」
「えぇ。代々筆頭王宮顧問魔法士を務めているあの、ロックスフォーラル家ですわ!」
ロックスフォーラルと言えば彼女の言った通り、代々王宮魔法士の家系で現王宮魔法士は確かファークロイト。今日の試験には出なかったけれど、出うるということで覚えていた名前だ。
「でも、なんでそんな家の方がこんな試験を? 待てば普通に受けられるのでは?」
来年行われる通常の試験の方が特例試験よりは簡単らしいし、そもそも僕の場合はそれまでここで暮らしていけるアテがないことや、レベルの問題など諸々あっての受験だ。この人とは恐らく立場が違い過ぎる。
「そんなの決まってるじゃありませんか!
一秒でも早く! 我が家に! 栄光を! 取り戻すため! ですわ!!」
ロックスフォーラル家って筆頭王宮魔法士なんじゃないの? それ以上の栄光なんてあるのかと思っていると
「納得出来てない感じの顔をしていますわね? 貴方、今この国で一番の魔法士が誰か、ご存じ?」
「それはやっぱり現筆頭のファークライトさまでは?」
「形の上ではそう、私の父ですわね。 でも、皆の心の中では違いますわ」
ほかに上位の魔法士がいるとでも言わんばかりの言い方。心当たりがあると言えば……
「もしかして、ラヴィニアさん?」
「そう! 今、筆頭よりも力を持っていると皆が認めているのは、ラヴィニア・コットンテール! 私の終生のライバルっ!! 今はまだ魔法を使うことが超一流で、行使出来る魔力量が多いだけですが、もしも彼女の研究が完成してしまったら、我が家の伝統の崩壊は確実! あの女が台頭してくる前に! 私があの方より優れた結果と力を示し、我がロックスフォーラル家の威光を守らねばいけませんの! このまま日和見主義のお父様に任せてなんておけませんわ! わ た く し が! やるしかありませんの!」
かけた眼鏡が熱で曇ってしまうのではないかと思わせるの程の熱の籠った弁に圧倒される。そして、同時にすごいなとも思う。
自分はそこまでの熱意があるのだろうか? なんだかんだで流されるままこうしてここにいるわけだけれども、自らの硬い意志でこの場にいるとはとても言えそうにない。なんか金とか能力とかの自分の状況と周りに流されてここにいるだけという感じはぬぐえなかった。
もちろん、合格したいと思っているのは確かだが。
自分ももっと主体性を持ってこの試験に臨まなければいけない、そう改めて感じさせられた。
「とにかく、ここで会ったのも何かのご縁! 共に頑張りましょうね! ノールズさん!」
こちらまであてられそうな熱を込めながら、鼻息荒く言うベルベットさんを前にとりあえず俺は頷くしかなかった。
部門別試験の一時間はあっという間に終わり、実技試験の会場、王立闘技場へとキャリッジで移動する。
ベルベットさんは魔法庁系を受けるため実技の試験は別の場所で行われるということでお互いの健闘を祈り、そこでお別れとなった。
「アイン、アイン。どうだった? ちゃんとできた?」
キャリッジの隣の座席に座るティアが不安そうに聞いてきた。
「常套呪文やら絶滅危惧モンスターの名前やら特性なんかはちゃんと出来たと思うんだけど……」
知識問題が多かったので割合出来たような印象はあるんだけど、過去の判例を基にした架空の事例に対するなんとかとか、戦術を考え答えよなんてそんな様な問題は正直自信がない。
「一応八割が最低基準になってるんだけど、自己評価はどう?」
向かいに座るジェシカさんも心配そうに聞いてくる。
「間違いなく取れてないのが一割。不安があるのが一割五分。自信があるってぎりぎり言えるのは7割五分ですかね」
「ギリギリねぇ」
「はい。すみません」
「まぁ、この短い時間でそこまで出来れば上出来だよ。気持ち切り替えて実技試験、頑張っていこう。こっちが本番なんだからね!」
そうジェシカさんは励ましてくれたものの、不安と緊張で押しつぶされそうだ。
そうこうしている間に馬車は目的地である王立闘技場に到着した。
闘技場の高く分厚い頑丈そうな壁が、俺の越えなければならない試験の難しさを表しているようでそこへ踏み出す一歩がやけに重く感じられた。
次回から実技試験、つまりバトル編です。
三年も書いてないのに書けるのか(笑)
筋は出来てるので一週間以内位で投稿出来るはず……です。




